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2017年02月12日18:19

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ルチア・ポップ 『R.シュトラウス歌曲集』

【収録曲】
 「8つの歌 op.10」(ギルム)
 1 献呈
 2 なにも
 3 夜
 4 ダリア
 5 忍耐
 6 もの言わぬものたち
 7 いぬさふらん
 8 万霊節
 「3つの愛の歌」
 9 赤いばら(シュティーラー)
10 目ざめたばら(サレット)
11 出会い(グルッペ)
12 高鳴る胸 op.29-2(ビーアバウム)
13 帰郷 op.15-5(シャック)
14 白いジャスミン op.31-3(ブッセ)
15 子守歌 op.41-1(デーメル)
16 わが子に op.37-3(ファルケ)
17 ひそやかな歌 op.41-5(モルゲンシュテルン)
18 ひそやかな歌 op.39-1(デーメル)
19 悪いお天気 op.69-5(ハイネ)
20 15ペニッヒで op.36-2(「子供の不思議な角笛」より)
21 父が言いました op.36-3(「子供の不思議な角笛」より)
                 *(  )内はテキストとして使われた詩の作者

ルチア・ポップ(ソプラノ)
ヴォルフガング・サヴァリッシュ(ピアノ)

1984年9月10・13日,Kloster Seeon,ドイツ
Warner WPCS-50631


40代で夭逝したルチア・ポップのR.シュトラウス歌曲集を聴いた。この作曲家のリート・アルバムの中では,ベストセラーのひとつになっているようだ。それ以上に,ポップのCDであればR.シュトラウスの歌曲の世界への道が拓けるような気がした。さらに,伴奏がサヴァリッシュというのも大きな魅力だ。

何といっても,R.シュトラウスの歌曲は聴きやすい。ヴォルフの作品のように,内容的に濃厚すぎて消化不良を起こし,胃にもたれることはない。ヴォルフがドイツのパンだとすると,R.シュトラウスは日本の食パンだろうか。そういえば,この作曲家の傑作「最後の4つの歌」もこの特徴を備えていて,薄衣をのような音楽を究極まで追求し,諦念の美学で味付けしたようなところがある。大規模な管弦楽を駆使しようとも,軽くて薄い響はこの作曲家が創り出した音楽の特徴のひとつ。

作品10の8曲はR.シュトラウスのこうした側面をうかがえる典型だろう。10代の後半ですでに自己のスタイルをほぼ確立していたのだとすると,早熟の天才というほかない。しかも,これら8曲は習作の域を超えた完成度を誇っていることにも驚く。

薄衣のようなサウンドがR.シュトラウスの音楽の基調だとしても,その上に耽美主義,超絶技巧,ドイツ・リートという3つの要素が彩りを添えているのも事実。ドイツ・リートをドイツ音楽に置き換えれば,R.シュトラウスの他のジャンルにも共通することで,その意味では歌曲の分野で何か新しいものを付け加えたとは言えないようだ。ただし,繰り返しになるが,早熟の天才だったことを知るには,歌曲にまさるジャンルはないと思う。

「3つの愛の歌」の第1曲「赤いばら」は,歌曲の分野におけるR.シュトラウスのロマンチシズムの典型のひとつといえる。耽美的というレベルを超えて蠱惑的とでも形容したくなるくらいだ。しつこいようだが,このように危険な香りのする音楽を10代の半ばに書いたR.シュトラウスは早熟の天才というだけでは済まないような気がする。その後,大きな飛躍が見られないのも,そもそも出発点の水準が高過ぎたためなのだろうか。作品41の第1曲「子守歌」もこのロマンチックな作品群に属する。この歌を赤ん坊に聞かせてもいいものなのかと心配になるほど,官能的で蠱惑的な子守歌。もちろん大人のための子守歌なので,余計な心配は無用だが。

R. シュトラウスのオペラで頻出するヴィルトゥオージティを代表しているのは,作品95の第5曲「悪いお天気」だろう。この曲を聴いていると,「ナクソス島のアリアドネ」を思い出す。高い声域で跳躍を繰り返すところは,コロラトゥーラで歌われるオペラ・アリアそっくり。聴いていてワクワクし,しまいには嬉しくなってしまう点も,オペラを聴いている時の心理状態と同じだ。デーメルの詩をテキストにした作品39の第1曲「ひそやかな歌」は,技巧的であると同時に前衛的な響きを持つ。この曲もR.シュトラウスの技巧性の一側面を表しているようだ。

作品36の第3曲「父が言いました」を聴くと,ドイツ・リートの系譜に連なる作品をR.シュトラウスが書いたことを実感する。「子供の不思議な角笛」をテキストに使用しているせいもあり,その詩の内容を音楽として表現するとドイツ風になるのは当然だが,R.シュトラウスはゲルマンの魂に触れてドイツ人の血が騒ぐといった様子でこのテキストに作曲しているのが印象的。ゲルマン風の力強く整然とした行進曲である。

演奏者に話を移すと,ルチア・ポップの並外れたテクニックには,聴けば聴くほど圧倒される。性格無比でありながら,メカニカルにならない。歌唱技法はあくまで表現のためとわきまえている。もちろん,声も素晴らしいが,それをひけらかす素振りさえみせない。気品に満ちたリートをきかせてくれる。言葉本来の意味でのヴィルトゥオーゾのような気がしてきた。

目立たないものの,ポップに劣らず見事な腕前を披露してくれるのはヴォルフガング・サヴァリッシュ。ピアノ伴奏のお手本といっていいだろう。あくまでも歌手の引き立て役に回りながら,それでいて歌手といっしょに作品を表現する役割を十二分に果たしている。サヴァリッシュの間合いの取り方は絶妙この上ない。噂には聞いていたが,これほど巧みな伴奏者だったとは。

このCDの難を言えば,1984年の録音であるにもかかわらず,音質にやや古さを感じさせるところ。最新のレコーディングと比べると,演奏者と聴く側の間に薄い皮膜があって,もどかしさを拭い去れない。もう一つ,このアルバムには,歌詞の対訳が付属していない。廉価な国内盤だから致し方ないのだろうが,せめて原語のテキストだけでも掲載して欲しいところだ。

とはいっても,R.シュトラウスの比較的若い時期に書いたリートを中心にしたこのディスクをじっくり聴いてみて,この作曲家の音楽の特徴を再確認するとともに,時代の進行とともに歩んできたドイツ・リートの変遷の一端に触れることができたように思う。それと同時に,ヴォルフの歌曲の音楽史上の位置づけもおぼろげながら見えてきた。
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