mixiユーザー(id:6086567)

2016年12月31日21:44

218 view

【創作】超攻鬼装オーガイン  第六話:テンプテーション・パニック【その3】

【創作まとめ】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1954402789&owner_id=6086567

【前回】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957758419&owner_id=6086567


seen6-2

「それにしても、こうやって講習を受けてつくづく思うんですけど、オーガインを製作した園咲顕将って敵ながら凄いんですね」
「まあ彼の操る技術は百年先の未来技術って言われてるからね」
 感嘆の声を上げるゆづきちゃんに私は答える。
 博士の・・・・・・園咲顕将の技術は現代科学の遥か先を実現している。
「百年先の未来技術ですか。凄いのは分かるんですが、何でそう言われてるんですか?」
「え? 知らないの?」
 科学者の間では結構有名な話なんだけどな。
 園咲顕将が操る未来科学の恐怖って。
「ええ、私って昔から機械いじりは好きでしたけど、新しく発明や研究したりってのは全然ダメで。それで整備士の方を目指すことにしたんですよ」
 なるほど、同じ機械関係の仕事でも、発明や研究を生業としている科学者と、既存の物をメンテナンスする整備士とでは、得られる知識や常識も違うってことね。
「まず、研究をメインにしてる科学者の収入って何だと思う?」
「スポンサーからの援助の一部じゃないんですか?」
「それもあるけど、それだけだとスポンサー契約が終わると路頭に迷っちゃうでしょ」
「たしかにそうですね」
「だから多くの科学者は、自分が発明した物に特許を取得するわけ」
「つまり特許料が収入になると」
 私も万が一、シャドールを抜けることがあったとしても、超振動分子包丁をはじめとする幾つかの特許がある。
 特許料単体は安いものだけど、包丁のように大量生産する際は、かなりの契約料がとれるわけ。
 まだ実績もなく、スポンサーも付かないような研究は、こうやって資金を確保するわけよ。
 思い出すなー、駆け出しの貧乏研究者だった頃。
「そうね。でも特許は収入だけでなく、それを発明したのが自分だと証明するものにもなるの」
「だから発明品に自分の名前を付けたりするんですね」
 電話を英語でベルと呼ぶのも、ベル博士が発明したからってのは有名な話ね。
 発明品に自分の名前を付ける。
 それが便利な物で、世間に浸透すればするほど、その発明品が名刺となり世界に名を轟かせる。
「でもね、今までこの世に無かった物を、新しく発明するのって一朝一夕ではいかないの」
「まあ楽ではないのだけは察しがつきます」
「人によって研究に必要な期間は異なるわけだけど、それなりに時間がかかるわけよ。そうやって何年もの時間と労力を注ぎ込んだ研究が、実は知らないうちに何者かに先を越されてたらどう思う?」
「仕方ないんじゃないですか? だってこういうのって競争でもあるわけですし」
 意外にクレバーに答えるわね、この子。
 もっと感情的な意見が返ってくると思ってたのに。
「結論から言うとね、発表した発明品のことごとくが、園咲顕将に特許登録されてたの。しかも科学者が発表した内容の数世代先の内容と共にね」
「たまたまじゃないんですか?」
「一つや二つくらいなら、たまたまで済ませたかもしれない。でもそういった事例は、園咲顕将が学会を追放されてから、少なくとも五百件以上あるわ」
「ご、五百ですか」
 その数字にゆづきちゃんが生唾を飲む音が聴こえた。
 それだけインパクトのある事実だと感じたようね。
「しかも園咲顕将は学会を追放されているから、今何を研究しているかも分からない。いつしか科学者達は自分の研究内容が、園咲顕将の研究と被っていないかという不安にかられるようになったの。もし被っていたなら、自分の研究内容を遥かに越える内容で特許申請されるかもしれない。自分の研究は全て無駄になるかもしれないという恐怖に取り憑かれるようになったの」
「そこまでですか」
「数年越しの成果が無駄に終われば、それまで支援したくれたスポンサーから契約が打ち切られる。下手したらスポンサーから、逆に違約金を請求されるかもしれないからね。そうなると科学者は信用を失い、誰からも支援してもらえなくなる」
 スポンサーが望むのは発明品の利権であり、そこから発展する技術の独占なのだから。
 それが望めないのなら、高いスポンサー料と時間を費やす価値が無いということになる。
 何を成すにしてもお金が必要な世界で、スポンサーが付かないということは、何も出来ないということを意味する。
「そういった被害者? みたいなのが数百人いるわけよ」
「それは深刻な話ですね。でもそれなら園咲顕将を学会に戻して管理すればいいんじゃないですか?」
 ゆづきちゃんの言葉はもっともである。
「学会のお偉いさんにもプライドがあるわけよ。一度追放した人間に、学会全体で技術が及ばないから連れ戻すってのは嫌みたい」
 無理ではなく嫌、感情の問題なのだ。
 世界中に散らばる科学者達の頭脳よりも、園咲顕将の頭脳の方が勝っているなんて認めるわけにはいかない。
 たった一人の科学者に、他の科学者がひれ伏すなど許せるわけがない。
 私としては事実として、さっさと認めて技術共有した方が、今後の発展に繋がると思うけどね。
 だからこそ私はシャドールに属しているわけだけど。
「大人の世界って難しいかもんですね」
 なに他人事みたいに言ってるのかしら。
 ゆづきちゃんも立派な大人なのよ?
「たしか師匠も何か特許を持ってましたよね?」
「ええ、いくつか持ってるわよ。私は園咲顕将と一緒に研究していた時期があるから、彼が何を研究するか、ある程度は察しが付くのよ」
 建前でこう言ってみたものの、実際は園咲顕将と一緒に研究しているので、博士が何を研究しているか分かっている。
 だからこそ博士の研究と被ること無く、自由に研究できるわけ。
 まあ隙間産業的なノリは否めないけど、それでもいずれは博士を越えた大発明をしてみせるわ!
「そこまで先読み出来るなんて、さすがは師匠です!」
 ゆづきちゃんって純粋だなあ。
 変な商売に引っ掛からないか心配になるわ。
 そんな話をしていると、メンテナンスルームの電話が鳴り響く。
 時計を見ると、みんなが出動してから二時間近く経っていた。
 てことは、事件解決の報せかな?
「はい、こちら警視庁特別強襲機動隊本部です」
 ゆづきちゃんが素早く電話に出る。
 民間協力者である私は、基本的には電話に出ることは無い。
 ここは警察の特殊部隊であり、どのような機密事項が飛び込んでくるかわからないからだ。
「ええ、はい、了解しました。桜子師匠に伝えればいいんですね」
 何かあったのかしら。
 私に用があるってことは石動君が何かやらかしたのかしら。
 まったく、いい歳して落ち着きがないんだから。
「了解しました。では失礼します」
 ゆづきちゃんはゆっくりと受話器を置く。
 そして満面の笑みで、振り返ると。
「園咲顕将の逮捕に成功したみたいです!」
「はい?」
 突然の内容に理解が追い付かないわ、少し整理が必要ね。
 博士は今朝から秋葉原へ、エロゲーを買いに行っている。
 そして特機は立て籠り事件を解決するために出動した。
 現場は秋葉原・・・・・・あ。
 なにやらかしてんのよ、あの人は!


seen7

 ボスの話によると、園咲顕将の逮捕に成功したため、彼と面識のある私を取り調べに同席させたいとのことだった。
 シャドールの、しかも幹部の逮捕。
 特機への潜伏がバレるかもしれないけど、本部に応援を要請した方がいいのかしら。
 応援を要請するにしても、現状の把握は必須よね。
「状況はどうなってるんですか?」
 私とゆづきちゃんは、出動した特機のみんなと合流した。
「出動要請のあった事件自体は、到着して十分程で解決したんですよ。その後、みんなで昼食をとろうって話になりまして、駅前のラーメン屋に行ったら調度鉢合わせしまして」
「そのまま確保したと」
 丁寧に教えてくれた酒田さん。
 見つけた方もさぞやびっくりするしたでしょうね。
 それにしてもラーメン屋でばったりって・・・・・・
 博士の食事管理については、私が特機に出向するようになってからは、エミールに任せっきりだったものね。
 博士から聞いた話によると、エミールの料理は壊滅的な味で、なんでも隠し味に毎回色んな土を入れるらしい。
 きっと外に出た時くらいはまともな食事がしたかったのでしょうね。
「で、今は指揮車両の仮眠室に拘束してるの」
「拘束? 本庁に収監しなくていいんですか?」
 ボスの言葉にゆづきちゃんが素朴な疑問を投げ掛ける。
 たしかにこんな場所で拘束するよりも、ちゃんとした場所に収監する方が安全よね。
 私としては、そうなったらお手上げ状態になるから困るんだけど。
 だからこそ、何故本庁に移送しないのか知っておきたいところよね。
「本庁に引き渡すと、取り調べは捜査一課か、もしくは公安の方ですることになるの。そうなると私達は手出しできなくなってしまうのよ。そして取り調べで得た情報も各部署で精査してからの報告になるから、私達に降りてくるまで相当時間がかかるわ」
「我々はあくまでも実行部隊ですからね。機動隊が逮捕した犯人を、機動隊が取り調べするわけじゃないのと同じです」
「だから本庁に引き渡す前に、可能な限り情報を聞き出しておきたいわけよ。桜子ちゃん、協力してくれる?」
 なるほど、状況は分かった。
 本来なら私は技術協力で来ているので、犯人の取り調べ等に同席することはないし、その権限さえ持っていない。
 警察が対処できない技術を私が引き受けるのと同じように、犯罪のことは警察に任せるのが一番である。
 だが、今回に限っては本庁への移送前の非公式な取り調べになるわけで、だからこそ私を同席させようと考えたに違いない。
 しかし万が一、私と園咲顕将の繋がりを確認するための罠という可能性も否定できない。
 私がシャドールの人間で、特機に潜入している以上、慎重に動かねばならない。迂闊なことはしゃべれないわ。
「でも私、民間協力者とはいえ技術担当の一般人ですよ? 取り調べなんかに同席して問題になったりしませんかね?」
「その点は大丈夫よ。園咲逮捕の件はまだ本庁に報告していないし、これはあくまでも非公式の取り調べだから」
 思った通り、まだ本庁に逮捕の報告をしていないようね。
 なら、博士を逃がすチャンスがあるかもしれないわ。
「そういうことでしたら協力させていただきます。ところで他の皆さんは何をされてるんですか?」
 本庁に連絡されて応援を呼ばれると、私では手出しできなくなる。
 かといって、こちらがシャドール本部に連絡して応援を呼べば、特機に協力している私の身が危険にさらされるかもしれない。
 ここは何としても私の手で切り抜けるしか、道はないようね。
「今、みんなには園咲の所持品を確認してもらってるの」
 所持品の確認ねえ。シャドールに繋がる物的証拠とかは早々出ないと思うけど。
「ボス、園咲の所持品ですが・・・・・・」
 報告に来たオペレーターの水無さんが顔を真っ赤にさせながら言いよどむ。
「どうかしたの?」
「その、何というますか、ゲームばかりでシャドールに関連付けられそうなものはありませんでした」
「ゲーム?」
「はい、そうです」
 そうだった、博士は秋葉原にエロゲーを買いに来てたんだった。
 しかも自分の分だけでなく、四大長やエミール、そして私の分の乙女ゲーも!
 ある意味とんだ公開処刑ね。
 ただ問題もあるわ。
 どうにかして私の『ますらおヘヴン・参』を押収される前に取り戻すか。
 でもどうやって?
 それ、私のです。とか言えないわよね。
 言ったら私と博士の繋がりがバレちゃうもの。
 そうなったら私も一緒に逮捕されて、博士を逃がすどころの話じゃなくなっちゃうわ。
 考えるのよ、どんな手段を使ってもいい、ますらおヘヴンと博士の身柄の両方を確保する方法を!
「それにしてもボス、園咲の奴、とんだド変態ですよ」
「どういうこと?」
 水無さんと一緒に報告に来た車田さんがボスの言葉に答える。
「奴が持っていたゲーム、全てエロゲーと呼ばれる十八禁ですよ。しかもジャンルは姉萌え、妹萌え、催眠物、巫女萌え? あとホモ系が二本」
 ホモ系は二本じゃない!
 エミールのBLはぶっちゃけホモ系だけど、乙女ゲーはホモ系じゃないのよ!
 全然違うジャンルなのよ、一緒にしないで!
「たしかにジャンルに統一性が無いわね」
「でしょ?」
「でもゲームということは・・・・・・ソフトに何らかのデータを隠し、闇取引の手段として使っていた可能性も考えられるわ」
 いやいや、無いって!
 そんな強引な理論ありなの?
「水無ちゃんとゆづきちゃんと車田さんは各ゲームをパソコンにインストールして、不穏なデータが隠されてないかチェック、他のメンバーは小売店とメーカーに当たって、シャドールとの繋がりがないか洗い出してちょうだい」
 博士が捕まったことを起点に、関係ない小売店とメーカーが次々とターゲットにされていく。
 ホント、巻き込んでごめんなさい。
「え? 私もデータを調査するんですか?」
 水無さんが顔を真っ赤にしながら抗議するが。
「これも任務よ、頑張ってちょうだい」
「・・・・・・はぁい」
 がっくりうな垂れながら答える水無さん。
 こういうゲームって慣れてないのかしら。
 でも、あのウブな反応、才能はありそうね。今度おすすめの乙女ゲーを貸してあげよう。
 って今はそんなことを考えている場合じゃないわ。
「それじゃみんな、お願いね」
「了解!」
 ボスの号令に一斉に動き出す。
 石動君と氷室さんは、まずは小売店から当たるのだろう。指揮車両の外に出て行った。
 そしてソフト調査組は次々にゲームのパッケージを開封していく。
 嗚呼、そんな乱暴に扱わないであげて。初回特典も捨てちゃダメだからね。 
「あの、私も調査手伝いますよ」
 手荒に扱われるゲームをこのまま見ているなんてできないわ。
 私は思わずボスに調査への参加を申し出る。
 よし、この流れでさりげなくますらおヘヴンを手にするのよ。
「気にしなくていいわよ。民間協力者に調査までは頼めないもの」
 ボスが変に気を回して制止する。
 そこは空気読めよ! 私はただ、ますらおヘヴンを手に入れたいだけなんだから!
「えーと、インストールをしたゲームを起動したら、なんかメーカーホームページに飛ばされて、ユーザー認証番号を入力しろって出るんですけど?」
 世紀末巫女伝説アンジェラを手にした水無さんが疑問を口にする。
 ウブなのに、またハードそうなやつを選んだわね。
 ちなみにユーザー認証番号というのは、インストールされたゲームを、特定のパソコンでしか起動しないようにするためのシステムである。
 これは常にソフトを必要とするコンシューマ機とは違い、一度インストールを済ませればソフトを必要としなくなるパソコンゲームならではのシステムとも言えるわね。
 発売日にインストールを済ませ、中古へ転売する。
 夕方から買いに来た客は新品を買わずに、中古を買い求める。何故なら中古といえど新品同然の商品なのだから。
 この即日転売がある限り、メーカーはどんなに頑張ってゲームを制作しても、どんなに面白い内容であったとしても、販売数に直結しない。
 それを打破するために導入されたのが、このユーザー認証システムなのである。
 パッケージに同梱されているパスワードを入力することで、認証されたゲームは同じパソコンでしか起動しない。少なくとも認証期間の一か月を過ぎるまでは。
 そうやって即日転売を阻止するのである。
 まあ、ネット環境の無い人にとっては、ユーザー認証が出来ずにプレイ出来ないという欠点があるので、最近では導入しているメーカーも少なくなったんだけどね。
 だが世紀末巫女伝説アンジェラはユーザー認証を必要とするソフト。
 つまり、ここでユーザー認証がされてしまうと、その後ゲームソフトの回収に成功したとしても、ミカエラ博士はこのソフトをプレイすることが出来ないってことよ。
「いいんじゃない? 調査が進まないし、そのまま入力しちゃって」
「了解しました・・・・・・これでよし!」
 ボスの無情なる指示でユーザー認証をされてしまう世紀末巫女伝説アンジェラ。
 彼女たちは自分たちがいかに罪深き業を負ったのかわかってないようね。
 ごめんなさい、ミカエラ博士。見ているしか出来ない私を許してください。
 下手に騒ぎ立てて、怪しまれるわけにはいかないんです。
「おやおや、何やら楽しそうなことをしているねえ」
 ボス達の暴挙にうちひしがれていた私は突然の声に振り替えると、そこにはシャドール四大長の一人にして私の上司、園咲顕将が立っていた。
 え? 拘束されてたんじゃないの? なんでここにいるわけ?
「でも、人の持ち物を勝手に開封しちゃいけないって、親に教わらなかったかい?」
 この場で最も倫理観に欠けた人間が、常識の塊とも言える公務員たちを相手に礼儀を説きだした。
 今日のお前が言うなスレはここですか?

【その4へ続く】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957758989&owner_id=6086567
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する