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2016年12月31日21:51

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第六話:テンプテーション・パニック【その4】

【創作まとめ】
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【前回】
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「園咲顕将、どうして貴方がここに?」
 指令室に突然園咲顕将が現れたことで緊張が走る。
 たしかボスの話によると、指揮車両二階にある仮眠室に拘束されていたはずだったのだけど。
「何の話をしているんだい? 君たちが僕をここに連れてきたんじゃないか」
「そういう意味じゃないわ。貴方を拘束していたはずだけど?」
「はっはっはっはっはっ」
「何がおかしいの!」
 ボスの言葉を嘲笑う博士、いったいどうやって拘束を解いたというのかしら。
「まさか部屋に閉じ込めただけで拘束したと思ってたのかい? せめて手足を縛るくらいしないと意味がないよ」
「だとしても、あの部屋には鍵がかかっていたはずよ」
「僕を誰だと思っているんだい? 機械工学の天才・園咲顕将だよ? あの程度の電子ロックを破るなんて朝飯前、いや寝ながらでも出来るよ」
 二人の会話に軽く混乱する私。
「あの、確認したいんですけど」
「桜子ちゃん、どうしたの?」
「ボスと園咲顕将の話を要約すると、電子ロックをかけた仮眠室に、手足を拘束することなく閉じ込めたってことでよろしいですか?」
「なんか棘のある言い方だけど、その通りよ」
 まったく、この人は優秀なのか抜けているのか、いまいち読めない人だわ。
「そりゃ脱出されますよ。ていうか私でも脱出出来るレベルですよ。もっと危機感を持ってください。相手はシャドールの幹部なんですよ?」
「え? そんなに怒られるほどおかしなことしたかな?」
 ボスは本気で、怒られる理由が分からないといった顔をしている。
 むしろ何でそれで大丈夫だと思ったのか聞きたいわ。
 世界の頂点に立つ科学者を嘗めすぎよ。
「あのね、ボス。あの人は世界で最も機械に詳しい人間ですよ? それを機械の力で閉じ込めようなんて、フリーパスを与えるようなものですって」
「そこまでなの!?」
 人って専門外のこととなると、アバウトな判断になるのね。
 私としては博士を救出する手間が省けて助かるけど。
 博士もわざわざ指令室まで来ずに、黙って逃走してくれればいいのに。
「やれやれ、相変わらず漫才の好きな部隊だねえ」
「漫才じゃないわ!」
「漫才じゃありません!」
 博士の言葉に思わずハモってしまった。
 これじゃますます漫才みたいじゃない。
「で、わざわざこんな所まで何しに来たのかしら?」
「何しにって、僕の持ち物を返してもらいにだよ」
 当たり前のことを聞くなといった口調で博士は答える。
 普通は警察から逃走する際、わざわざエロゲーを回収しに来たりしないだろうからね。
 ボスが予想出来ないのも仕方ないわ。
「貴方の持ち物は今、私達で調査しているわ。あれは何なの?」
 博士の一挙手一投足を見逃さないようにボスは問い詰める。
 でもエロゲーを何って聞かれても困るわよね。
「人類の叡知の結晶さ」
 ただのエロゲーだよね?
 何でいちいち意味深な言い方するの?
「やはりアレには重要なデータが隠されているのね?」
 無い無い、ただのエロゲーだから!
 ボスも自分から無駄に話をややこしい方向に持っていかないで!
「ああ、人類の心踊らせる不思議な力さ」
 それって新作エロゲーに心踊らせてるだけだよね?
 捜査を撹乱するために言ってるなら、効果抜群だよ。
「貴方の、園咲顕将の心が踊るってことは、人類にとっては絶望のデータってことね」
 人類が絶望するエロゲーってどんなだよ!
 自らどんどん深みに嵌まっていってるよ?
「いやいや、全人類が幸せになれるシステムさ」
 残念ながら妹萌えエロゲーでは、全人類が幸せになることは不可能よ。
 少なくとも他の四大長は別属性に萌えているのだから。
「全人類が幸せに・・・・・・まるで夢のような話ね。ドラッグの製法でも隠されているのかしら?」
 なんだこの無意味な腹の探り合い。
 この人、本当に優秀な人材なのか不安になってくるわ。
「ああ、人類を快感へ誘う魔性のドラッグさ」
 それって脳が興奮状態になると分泌される、脳内麻薬エンドルフィンだよね?
 たしかにエロゲーに興奮してエンドルフィンが分泌されるなら、製法が隠されてると言えなくもないけど。
 これって少なくとも博士は遊んでるよね?
 この言葉のドッジボール、どう収拾させるつもりなのかしら。
「あの、ボス。データ解析が完了しました」
 一通りエロゲーのチェックを終えた水無さんが、おずおずと声をかけてくる。
 この状況で会話に割って入るとか、態度とは裏腹に凄い神経ね。
「調度よかったわ。音羽ちゃん、不正データについてガツンと言っちゃって!」
 見事にフラグを乱立させるなあ。
 これ以上、ボスのドヤ顔を見てられないわ。
「えと、ゲームソフトに不正なデータは確認出来ませんでした」
「ふっふっふっ、これでネタが・・・・・・え? 」
 沈黙と共に凍りつくボス。
 普通に買ってきたエロゲーに不正なデータが入ってるわけがないものね。
「これで気が済んだだろ、僕の持ち物を返してもらってもいいかな?」
 ニンマリと勝ち誇ったドヤ顔の博士がボスににじりよる。
「何で? 何で何も出ないの? データが暗号化されてたりとかしないの?」
「えと、残念ながら」
 混乱するボスの言葉は、無情にも音無さんによって現実を突きつけられる。
「ど、どちらにせよ、貴方をここから解放するわけにはいきません。ですから所持品を返すことも出来ないわ」
 開き直ったのか、ボスは毅然と言い切る。
 そこなのよねー。
 博士の所持品がただのエロゲーだとしても、解放する理由にはならないのよね。
 なんせ特機には石動君という、博士に改造された生き証人がいるのだから。
 だからエロゲーに不正なデータがあろうと無かろうと関係ないのだ。
「困ったねえ。僕としては女性に暴力は振るいたくないのだけど仕方ない。こうなったら・・・・・・」
 博士の言葉に特機のメンバーに緊張が走る。
 実動隊である石動君と氷室さんは小売店へ調査に行っていて不在。
 非戦闘員でシャドールの幹部を抑えられるのか。
 まあ私は博士を抑える気は無いんだけどね。
「取引をしよう」
「え?」
 暴力に訴えるかとおもいきや、突然の提案に、その場に居た全音が唖然となった。


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「ここでいいの?」
「ああ、ここで間違いない」
 博士の案内で特機はとある緑地公園に来ていた。
 なんでもこの公園で、シャドールが人体実験用の人間を大量に拐う計画が実行されているらしい。
 そんな情報、私には入ってきてないんだけどな。
「嘘は言ってないんだろうな?」
「勿論さ、僕がそんなちゃちな嘘をつくわけないだろ?」
 あれから合流した石動君が博士につめかける。
「お前の言葉など信用出来るものか。大体人を勝手に去勢しておきながら、自分はエロゲー三昧とかふざけやがって」
「だって戦闘マシーンに性欲なんて要らないじゃないか」
「俺は戦闘マシーンじゃないから必要なんだ」
 去勢されたことを、まだ根に持っているようだった。
 人間の三大欲求の一つを失ったわけだから、穏やかにいられないのは分からないでもないけど。
 それでも済んだ事に拘りすぎなのよ。
「そんな事より分かっているんだろうね?」
「何のことだ?」
「おいおい、よしてくれよ。シャドールの作戦を一つ教える代わりに、僕を開放してくれるって話さ」
 惚ける石動君に釘を指す博士。
 いくら博士が特機から逃げるためとはいえ、シャドールを裏切るような真似をして大丈夫なんだろうか?
 そりゃ末端の構成員より、博士の方が重要な存在だということは理解できるのだけれど、果たしてそれで許されるのだろうか。
「勿論よ。でも貴方の言葉が本当かどうか確認が取れるまでは開放出来ないわ」
 石動君の代わりにボスが答える。
 だがこの取引、特機は守る気は無い。
 シャドールの作戦を潰し、博士も確保する。
 シャドールの幹部をみすみす逃す手は無いのだから。
 おそらく博士もその事には勘づいてると思うのだけど、上手く逃げる方法があるのかしら。
 最悪、特機に私の正体がバレてでも逃がすしかないわね。
「ほら、来たぞ」
 博士の言葉に視線を向けると、緑地公園には不似合いな、武骨な護送車が入ってきた。
 人を大量に拐うとなると、結構大がかりな作戦よね。
 いったいどんな方法を使うのかしら。
 まさか力任せに強引に拐ったりしないよね?
「作戦はもう始まっている、踏み込まなくていいのかい?」
 博士の言葉に全員が困惑する。
 作戦が始まっている?
 護送車からは誰も出てきていないのに、人を拐うなんて可能なのかしら。
 全員が見守る中、護送車の後部出入口が自動で開かれる。
 中からコマンダー部隊でも出てくるのかと思ったのだけど、その考えとは裏腹に空っぽだった。
 しかし異変はすぐに起きた。
 緑地公園に来た一般客が、何かに誘われるかのように、ふらふらと護送車に乗り込んでいく。
 それも一人や二人ではない。大人も子供も次々に乗り込んでいく。
「一体何が起きているんだ?」
「さあ、何だろうね。さすがの僕も、自分が関わってない作戦の詳細までは知らないからね」
 石動君の言葉に惚ける博士。
 本当に知らないのかどうかは分からないが、目の前で事件は起きている。
「くそっ、何が起きてるのかわからない。こうなったら氷室さん、突撃しましょう!」
「待って、状況が把握出来てないのに動くのは危険よ」
「じゃあボスはこの状況を黙って見てろと言うのですか?」
「そうじゃないわ。ただ状況が分かるまで待って欲しいの」
「そうは言ってもこのまま拐われるのを黙って見てるなんて出来ません」
 シャドールに拐われて改造された石動君だからこそ、動かずにはいられないのだろう。
 自分と同じように、改造される可能性を考えると黙っていられるわけがない。
「自分は改造人間なので大丈夫です」
 石動君はそう言い放つとハッチを開け、そこから外の空気が流れ込む。
「おい、勝手に早まるな」
 氷室さんの制止も聞かずに石動君は飛び出す。
 そして護送車の運転席へ回り込む。
「警察だ、護送車の中の人を開放し、大人しく投降しろ!」
「およよ?」
 拳銃を突きつけられた状態で、運転席から一人の女性が降りてくる。
「おや?」
「ん?」
 二人の目が合うと、驚きの表情に変わる。
「君はたしか昨日の種無しくん?」
「美也ちゃん?」
 指揮車両の人間を置き去りにするように話は進展する。
 どうやらこの二人、知り合いのようね。

【その5へ続く】
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