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2016年12月31日21:40

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【創作】超攻鬼装オーガイン  第六話:テンプテーション・パニック【その2】

【創作まとめ】
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【前回】
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 午前中はシャドールにて業務を行い、午後からは特機に出向する。それが特機を結成してからの私の生活スタイルになっている。
 相変わらず博士は秋葉原に出かけてから帰ってこない。
 秋葉原のゲームショップが午前十一時に開店することを考えたら、午前中に帰ってこないのは当然と言えば当然なわけだけど。
 四大長の面々はその辺を熟知していないようで、私が出勤して以来ずっと研究室で博士の帰りを待っている。
 いい大人がこんな所で油を売っていていいのかと思うが、仮にも組織の幹部にまで登りつめた人達だし、業務の管理くらいはちゃんと出来ているのだろう。出来ていると信じたい。
 その間、博士とミカエラ博士が共同開発した新型AI『ニューロブレイン』に言葉を教えてくれている。
「ええか? 姉萌えっていうのは年上の母性に甘える、つまり今流行りのバブりが醍醐味なんや」
 御雷隊長の年齢からすると、姉萌えと言えどゲームキャラは年下になると思うんだけどな。
 ていうか厳つい御雷隊長にバブりが醍醐味とか言われたら少し引くわ。
「眼鏡委員長と言うのはだな、眼鏡による知的で身持ちの堅い印象の女性が、徐々に心を開いて甘えてくれるギャップ、それこそが真骨頂なんだ」
 眼鏡キャラって眼鏡をかけた状態と外した状態で、一粒で二度美味しいってよく言われるよね。
 でもスミス局長が頼んだものって、たしか催眠ものだよね?
 催眠状態にした女の子に好き勝手するなんて、同じ女性としてかなり引くわ。
「ジャパニーズ黒髪サイコーね。巫女の持つファンタスティックでミステリアスな雰囲気もキュートだヨ」
 ジャパニーズ黒髪がどういう経緯でアンジェラになったのか気になるわ。絶対日本人じゃないじゃん!
 しかも世紀末巫女伝説って何?
 相変わらず、教えたところでどこで使用するのか不明な言葉しか教えていないけど、開発者の一人であるミカエラ博士が容認しているから、たぶん問題は無いのだろう。
 ただその光景を見ていると、同じ組織に所属している人間として一抹の不安は隠せない。
 本当にこの人達について行って大丈夫なのかしら。
 午前十一時を過ぎたので、私は出向先の特機へ向かうべく準備を進める。
「今日も関連組織に出向か。あまり無理をするなよ」
 シャドールと出向先の二重生活を心配してか、スミス局長が声をかけてくれる。
「大丈夫ですよ、これでも体調管理は完璧ですから!」
 心配を払拭するべく、ガッツポーズでアピールしてみせる。
 実際問題として、スミス局長に心配されるのだけは避けねばならない。
 何故なら私が特機に出向して、オーガインのサポートをしていることは、シャドールの中でも博士以外には秘密なのだから。
 情報管理局局長であり、自身も優れた諜報員でもあるスミス局長にだけは感づかれてはいけないのよ。
 彼の技術で調査されたら、諜報員でもないただの科学者の隠密行動なんて、すぐにバレてしまうに違いないから。
 幾度となくシャドールと戦い、コマンダー部隊を退けたオーガインの協力者だという事を知られると、組織からどんな罰が下されるか分かったもんじゃないわ。
 最悪処刑か、もしくはエロ同人誌みたいな仕打ちにされるかもしれない。
 それだけはこの乙女・小鳥遊桜子、純潔を守るためにも避けなければならないのよ。
 そもそも私とオーガインとの関係を秘密にしているのは、博士がオーガインの生きた戦闘データを取りたいという考えから始まった。
 改造人間オーガインは、あの園咲顕将に最高傑作と言わせる程の性能を誇っている。
 そしてオーガインと対等に戦える戦力は、世界中を探してもシャドールしか存在しない。
 当然、シャドール内でデータ取りをしたところで、最終的には寸止めの模擬戦しか出来ない。
 シャドールが誇る一級の戦士達と本気の、生死を賭けた戦いなど出来ないのだから。
 ならばいっそのこと、オーガインをわざと逃がし、その追手としてシャドールの戦士と戦わせることで、より実践的で生きたデータが取れると考えたわけよ。
 だからこそシャドールの戦士には本気でオーガインと戦ってもらわなければ意味が無い。
 そしてオーガインも万全の態勢で、全力で迎い討ってもらわないと良いデータが取れない。
 相反する組織に属することで真に生きたデータが取れるというわけね。
 それを実現するために私は警察にオーガイン運用プランを立案し、特機を設立させた。
 オーガインの、改造人間の実用データを取るために、私は双方に正体を見破られるわけにはいかないのだ。
 まったく博士も無茶な任務を言ってくれるわよ。
 これは私にとっても、科学者として、技術者として、そして研究者として大きな成長に繋がると思うからこそ、やり切る意義があると感じるわけだけど、心の隅では割りに合わないと思う感情もある。
「それじゃ私は出向先に向かうから、博士が戻ってきたら、『ますらおヘヴン・参』は机に置いといてもらうように伝えといて」
「了解でーす」
「それじゃ皆さん、博士が帰ってくるまでゆっくりくつろいでくださいね」
「おう、気張ってこいや」
「たまにはゆっくり休めよ」
「イッテラッシャイね」
 エミールに伝言を頼み、四大長に挨拶を交わし研究所をあとにした。


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 途中で昼食を済ませ、特機事務所へ着くと、石動君が真剣な面持ちで足早にやってきた。
「桜子さん、ちょっと相談したいことがあるのですが」
「何なの?」
「ここではちょっと・・・・・・」
 特機の中で言葉を濁すなんて珍しいわね。
 彼の真剣な眼差しを見る限り、それなりに深刻な話のようね。
「メンテナンスルームでいい?」
「はい、お願いします」
 特機におけるメンテナンスルームと言えば、主に私がオーガインのメンテナンスや装備開発をする部屋であり、割と自由に使わせてもらっている部屋になる。
 私は石動君と連れ立って部屋に入ると、改めて尋ねる。
「で、相談事って何?」
「それはその・・・・・・」
 ここまで来て言いよどむ石動君に少し苛立ちを覚える。
 男ならシャキッとしなさいよ。
「私もそんなに暇ってわけじゃないんだけど?」
「すいません。相談事ってのはその・・・・・・アレの事でして」
「アレってオーバーイマジンの事?」
 それなら別にみんなの前で話しても問題ないと思うんだけどな。
「いえ、そっちの方じゃなくて夜の営みの方です」
「ほほう、そんなに廃棄処分にされたいの? 言ったよね、次にくだらないセクハラ発言したら廃棄処分にするって」
 まあ、実際は私にそんな権限は無いんだけどね。
「いやいやいや、真剣な話なんですって!」
 慌てて私をなだめようとするが、どうにも話が見えないわね。
「わかったわよ。ちゃんと聞いてあげるから、順を追って話してみなさいよ」
「ありがとうございます。実は昨日、仕事後に氷室さんと一緒に夜の街へ繰り出したんですけど、その際氷室さんの驕りである店に行ったんですよ」
「あのさ、相談に乗って欲しいのなら話を濁さずちゃんと話してくれる?」
「あ、はい。その・・・・・・女の子が色々サービスしてくれるお店に行ったんですよ」
「サイテーね」
 男って何でそういう店に行きたがるのかしら。
 少なくとも私のような純情可憐な乙女にする話じゃないわよ。
「そういう反応が返ってくると思ったから濁したんですけどね」
 ああ言えばこう言う、いつからこんなに口答えするようになったのかしら。
 もっとちゃんと教育した方がいいのかしら。
「はいはい。で、続きは?」
「はい。そのお店で女の子にサービスをして貰おうと思ったんですが、何も反応しなかったんですよ」
「はい? 反応って?」
「だから男の部分がその・・・・・・」
「変身したからじゃないの?」
「なんで店で変身するんですか」
「アンタなら変身して、カッコイイだろ? って自慢しそうじゃない」
「その手があったか!」
 なんか真面目に話を聞く気がそがれるわね。
 でも女の子相手に男の部分が反応しなかったってことは、アレが原因で間違いないわね。
 まったく、純情可憐な乙女にそんな話を相談するなんて、どこまでデリカシーの無い男なのかしら。
「だからその・・・・・・性的に反応しなかったんですよ。これって改造されて心的に何かあったということなんでしょうか?」
 動物の生存本能として子孫繁栄ってのがあるわけだけど、そういった観点から見ても心配になる気持ちもわからなくはないわ。
 でもね、 シャドールにとって改造人間は、あくまでも戦闘兵器なのよ。
 そして戦闘兵器に生殖機能や性欲は必要ないわけで。
 とはいえ、実際に悩んでいる石動君を前に、そのまま伝えていいものかしら。
 だからといって、上手くオブラートに包んだ表現がおもいつかないわ。
 いったいどうしたものかしら。
 どうせ誤魔化したところで真実は変わらないわけだし、ここは素直に言ってしまえ!
「答えは簡単よ、アンタがシャドールに改造された際に去勢されただけだから」
 こういう話って、相談された側があんまり重々しく話すものではないと思うの。
 だってこっちが重々しく答えてしまうと、本人も必要以上にショックを受けると思うのよ。
 だから極力なんでもないように軽く、軽〜くサラッと答えてあげるのが優しさってものよね。
 相談者の心的ケアも視野に入れた、我ながら秀逸な対応だと思うわ。
 嗚呼、自分の才能が怖いわ。
「な、なん・・・・・・だと? 桜子さん、いくら他人事とはいえちょっと軽すぎませんか? こんなに軽薄に答えられるなんて信じられませんよ」
 どうやら私の優しさは全く通用しなかったようだ。
 むしろ神経を逆なでしたようだった。
 何が悪かったのかしら。
「私はアンタが少しでも気にしないように気遣っただけなのに」
「気にしない程度なら、最初から相談に来ませんって」
 たしかにそれもそうね。
 とはいえ、石動君の生態パーツはシャドールにさえ残ってないので、今更どうすることもできないよね。どうしたものかしら。
「ちくしょう、改造された上に子孫を残すこともできないなんて・・・・・・桜子さん、何とかならないですか?」
「ならないわね!」
「即答!?」
 いやだって変に気を持たせたところで無理なものは無理なんだし。
 そこは心を鬼にしてでもキッパリ言ってあげる方がいいと思うのよ。
 今ここで適当に誤魔化しても、最終的に自分の首を絞めることになりそうだし。
「たしかオーガインの設計図を手に入れることが出来れば、自分を元の人間に戻せるかもしれないって以前言いましたよね」
 言ったっけ? そんな話。
 いや言ったような気がする。
 その時はバッサリと元の姿に戻れないと言って、モチベーションを下げさせないために言ったような気がするけど、まさかこんな所で仇になろうとは。
「そ、そうね。でも設計図もまだ手に入ってないわけだし、今はどうしようもないわ」
「それだけでも分かれば十分です。おのれ園咲顕将、次に会ったら絶対に許さん!」
 口から出まかせだとはいえ、なんとか収まってくれたようね。
 いや、あくまでも『元に戻せるかもしれない』ってだけだから、その言葉には『無理かもしれない』という意味も含まれているのだから、嘘は言ってないよね。
 うん、大丈夫なはずよ。
 その時、メンテナンスルームのサイレンが鳴り響く。
『本庁より事件発生の連絡あり、メンバーは全員ブリーフィングルームへ集まってください』
 シャドールでは特に何か作戦があるとは聞いてなかったのだけど、何か動きがあったのかしら。
「桜子さん」
「ええ」
 とりあえず私達はブリーフィングルームへと向かうことにした。


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「緊急で申し訳ありませんが事件発生により、これより出動することになりました」
 車両長の車田さん以外がブリーフィングルームに集まると、副隊長の酒田俊之さんが解説を始めた。
 ちなみに車田さんは出動の準備をしてくれている。
「最初に言っておきます。今回の事件はシャドール絡みではありません。ですので石動君がオーガインに変身する必要もありませんし、メカニックの兎村さんと小鳥遊さんが出動する必要はありません」
 特機を設立する際、宗像俊三警視副総監からいくつかの条件が出されていた。
 その一つが、有事の際はシャドール関連以外の事件にも出動することである。
 特機が警察の一部隊である以上、仕方のない条件ね。
 実際、シャドールが毎日事件を起こすわけでもないので、妥当な判断だと思うし。
「では事件の説明をお願い」
 特機の隊長である相田つぐみが酒田さんを促す。
「了解しました、ボス」
 特機において、隊長の相田つぐみはボスと呼ばれている。
 部署内で一番偉い人をボスと呼ぶのは、なんでもドラマの世界で警察が西部劇のガンマンよろしくドンパチしていた時代からの習わしらしい。
 ボスが何と呼ばれていようが、実務に支障が無い以上、私がとやかく言うことではないわけだけど、何か形式に囚われすぎてないかとも思う。
「今回の事件は秋葉原にある映像制作スタジオでの立て籠もり事件です」
「秋葉原の映像制作スタジオ?」
 一般人には馴染みの薄い単語にボスが聞き返す。
「はい、犯人からの要求を読み上げます。『我々はアニメで人気の出た漫画を安易に実写化するのは許せない。日本人が過去、オタク文化を犯罪者予備軍のように呼んだ時代を決して忘れることは無い。それなのに人気が出た途端、オリジナル解釈を挟み原作とは程遠い作品へと変貌させる愚かさ。オタク文化に迎合しながらも、オタクが犯罪を犯すとオタク文化のせいにする思想が許せない。今後、原作への愛の無い安易な実写映画化が制作出来ない法整備を望む』とのことです」
「滅茶苦茶な言い分ね」
 ボスが呆れるのも無理のない内容ね。
 そんな事をいちいち法整備するくらいなら、直接映画会社に言えっての。
「まあ、なんと言いますか。人気の漫画を実写映画化したら、原作では格闘家だったキャラクターが、ロケットランチャーを撃ってたってのもありましたからね」
「飲茶しやがって・・・・・・」
 酒田さんの説明に何か思い入れがあるのか、整備長の兎村ゆづきが誰にも聴こえないようにボソッと呟いた。
 飲茶って飲み物よね? 何で格闘家がロケットランチャーを撃つのと飲茶が関係あるのかしら。
「だからと言って、彼らの行動が許される理由にはならないわね」
「ええ、もちろんです」
 ネット環境が整備され、一般人でも簡単にネットで発言できる世界になった。
 ネット世界という顔の分からない匿名の世界で、好き勝手言う輩が増えた。
 今回の事件は、そういった少し頭の弱いネット民が起こした事件なのかもしれないわね。
 人である以上、誰にだって不愉快に感じることはある。
 でもだからと言って、制作会社を襲撃していい話にはならないもの。
 個人の快不快と正義は全然違うものなのだから。
「でも私は犯人の気持ち、少しわかるなぁ」
 そう答えたのは先ほど酒田さんのの言葉に反応したゆづきちゃん。
「だって西洋風の世界を舞台にした漫画やアニメを、日本人の俳優が演じている時点で違和感しか感じませんし」
「そうそう、質の悪いコスプレ映画みたいなのもあるしね」
 ゆづきちゃんの言葉に、オペレーターの音無音羽が相槌を打つ。
 なに? この子達アニメとか詳しい系なの?
「だからと言って、犯人の要求を呑むわけにもいきませんからね」
「ボス、出動の準備は出来てるぜ?」
 二人をたしなめる酒田さんに、ブリーフィングルームへ入ってきた車両長の車田誠一が答える。
「では細かい作戦内容は指揮車両での移動中に説明します」
「特別強襲機動隊、出動します!」
「了解!」
 ボスの号令に出動組は、足早に指揮車両へ乗り込む。
「いってらっしゃーい」
 それを私とゆづきちゃんは手を振って見送る。
 シャドール事件でもないし、早く片付くでしょ。
 あの人たち、なんだかんだで優秀だから。
「じゃあみんなが出動してる間に、ゆづきちゃんには私がオーガインの整備について説明してあげるわね」
「よろしくお願いします、師匠!」


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「小鳥遊桜子のオーガイン整備講座を始めまーす」
「わーい、ぱちぱちぱちー」
 ゆづきちゃんには私が作成したメンテナンス資料を見せながら解説をしていく。
 これもオーガインの修理パーツ待ちの間に作成したものね。
「オーガインは見た目が人型ロボットに見えますが、改造人間です。れっきとした人間なので、倫理から外れないように対応しなければなりません」
「例えばどういうことでしょうか」
 絶妙なタイミングで合いの手を入れてくるゆづきちゃん。
 こういった感じで適度に進行を補助してくれると、こっちもやりやすいわー。
「オーガインをメンテナンスする際、全ての電源を落とすと、生命維持装置が止まって死んでしまいます、だから注意が必要です」
「では生命維持装置回りのメンテナンスをする際はどうしたらいいのでしょうか」
「予備の外部生命維持装置に切り替えてから行います」
「なるほどー」
 基本的な事から順に教えていく。
 私とゆづきちゃんとでは、当然ながら今までの経験が違う。
 そのため、彼女が何を知っていて、何を知らないのかを精査しなければならない。
 これくらいは知っているだろう、といった気持ちで説明を飛ばした際、もしも知らずにメンテナンスをしてしまうと、石動君は死んでしまう。
 そういった事故が起こらないようにするためにも、基本的な内容から全部教える必要があるのだ。
 博士なら自分から技術を盗めと言って、ロクに詳しく説明したりしないけど、私は心優しい乙女なのよ。
 それに私が特機に居られる時間は限られている。
 勤務時間の問題だけでなく、いずれはシャドールの一員だとバレる日が来るだろう。
 その時、私が特機を去ってもオーガインのメンテナンスが可能なように準備しておく必要があるわけ。
 私が去った途端、メンテナンス不良で石動君が死にました、では寝覚めが悪すぎるからね。
 まあ簡単にバレるとは思ってないけど。
 あとは私の負担を軽減するためでもある。
 今は簡単なチェック一つとってみても、全て私がやるしかない。
 そうなるとオーガインの装備開発に割ける時間が減ってしまう。
 時間は有限なのだから、分担可能なところは分担したいわけよ。
 そのためにも整備長であるゆづきちゃんには、オーガインのメンテナンスくらいは、出来るようになってもらわなければならないのだ。
「ところで、ゆづきちゃんはオーガインについて気になることってある?」
「この前見たプラズマレーザー砲は凄いって思いました!」
 オーガインの内蔵武器の中でも最強の武器ね。
「なんていうか、機動闘士ガルガンのビームライフルを彷彿させますよね?」
 ビームライフル? あれが?
 あれ? ひょっとしてこの子・・・・・・
「ゆづきちゃん、ひょっとしてビーム兵器とレーザー兵器の違いって知らないの?」
「何か違うんですか?」
 やっぱり分かってなかったか。
 まあ素人目では分かりにくいってのもあるのかもしれないわね。
 こういったすれ違いもあるから、一から全部教える必要があるのよね。
「じゃあ話題に出たガルガンを例題として話すわね」
 機動闘士ガルガンとは、90年代にヒットした有名なロボットアニメである。
 連合地球軍のエース安室光(アムロ・レイ)と、宇宙中華コロニーのエース、紅のハレー彗星と呼ばれる西明日那振(シャ・アスナブル)の戦いを中心に、宇宙戦争を描いた名作である。
 そしてそのシリーズは今でも続いており、去年は超機動闘士列伝ガルガンXZ(クロスゼータ)が人気を博したという。
 なんでこんなに詳しいのかって? 機械工学を志す科学者なら、誰もが知っている名作シリーズだからよ。
「まずガルガンのビームライフルって銃口があるでしょ?」
「はい」
「銃口があるってことは、そこから何かが射出されるってことなのよ」
「それって光エネルギーですよね?」
「残念ながら違うわ。あれは金属をドロドロに溶かしたものを射出してるっていう設定なの」
「そうだったんですか!? てっきり光エネルギーだと思ってました」
 何も考えずに観てたらそう思うのも仕方ないわ。
 でも設定は違うのよ。
 そもそも光には質量が存在しないから、銃口なんて不要なのだから。
「ドロドロの液体金属を射出しようとしたら、何が必要になると思う?」
「そうですね、大量の金属とそれを溶かす熱源が必要だと思います」
 なんだかんだ言っても、この子も機械工学を志す身、こういった原理についての察しはいいのよね。
「その通り、大量の金属を必要とするから巨大ロボットになる。そして金属を溶かす熱量を確保するために核融合炉を搭載してるの」
「なるほど」
「でもオーガインは人間サイズよね?」
「つまり大量の金属を持ち運ぶタンクも無いし、核融合炉をあのサイズまで小型化するのは難しいですもんね」
「その通りよ。それに万が一の際、放射能漏れやメルトダウンの可能性もあるわけで、そんな物を人の体内に埋め込むなんて、物理的にも倫理的にも不可能なのよ」
 そう考えると、ガルガンって倫理観ブッ飛んでるわよね。
 核融合炉搭載のロボットが、あんな大量にドンパチしてりゃ地球の生物が死滅して当然よ。
「対するオーガインのプラズマレーザー砲に銃口はあるかしら?」
「いえ、光学兵器用のレンズが付いてます」
「そう、あれは光学兵器であり、光エネルギーと電磁プラズマを科学的に融合したものを照射しているの」
「へえー」
「それにビームライフルだと、発射してから着弾するまで、物理的にタイムラグがあるけど、光エネルギーを照射するプラズマレーザー砲にはタイムラグは無いわ」
「光の速度っていうことですね」
「正解。だからロックオンさえ出来れば、命中したも同然なの」
 物体を射出するビームライフルと、光エネルギーを照射するプラズマレーザー砲には、着弾だけでもそれだけの差がある。
「そう考えると凄いですね」
 いやー素直な子って教え甲斐があるわ。
「でもね、欠点もあるの」
「何でしょうか?」
「それはね、電気エネルギーを大量に消費するってことね」
「なるほど、だから一日に二回までしか使用できないんですね」
「そう、その回数を超えて撃てば、生命維持装置に回す電気が無くなり・・・・・・」
 オーガインは死ぬ。
 さすがにそんな生々しい話は可哀想なので濁しておいた。
「つまり最強の武器であり、撃ち過ぎると弱点にもなる諸刃の剣ってことですね」
「そうよ。だからプラズマレーザー砲が強力で便利だったとしても、頻繁に使うわけにはいかないのよ」
 だからこそオーガインには様々な内蔵武装が存在している。
「さすが師匠、制作者でもないのに何でも知ってますね」
 ゆづきちゃんが向けてくる尊敬の眼差しが眩しすぎる。
 ゴメンね、私も制作者の一人なのよ。
「ゆづきちゃんも努力すれば、これくらい楽勝よ」
 私は笑顔で本音を覆い隠し、適当な相槌をうった。
 いやー無垢な笑顔が心に刺さるわー。

【その3へ続く】
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