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2016年12月24日23:40

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第3697話  鋼鉄のクリスマス

ローグワン2回目。
夫婦できている人が多かったですね。
ところが、一歩劇場から出たら、もうそこは妖怪ウォッチの家族連れととボク明日のカップルばかりでした。
残念ながらローグワンは1位をとることはできませんでした。
妖怪に負けた・・・ルーカスフィルムは自信無くすんじゃないかな。
2年連続で日本だけ初登場1位取れなかったんだもの。
来年は世界同時公開から外されるかも・・・こわっ

どうも、ともんじょです。

サ〜イレンナ〜イ、ホ〜リナ〜イここはホントに静かだ。
クリスマスだろうと平日だろうと静かじゃなきゃ困るんだよ、ここは図書館なんだから。
けど、人は少なめだ。
俺は黙々と自習を続けている、ここで自習をすることを日課としているから。
塾の自習室でもいいんだけど、みんな競い合うかのようにコツコツコツ書きこむ音が妙にプレッシャーになる。
書きこむ音より好きな音がこの図書館にはある。音と言っては失礼かな、声がある。
自習用の机の後ろ側にある子供向けのコーナー、フロアに座って本が読めたりちょっと広めのスペースになっている。
勉強しに来ている俺と同じように、この図書館にくることを日課にしている人がいるのだ。
実はその人を知っている、クラスメイトの檜山さんだ。
檜山さんは勉強にくるわけじゃない、少し年の離れた弟と一緒に来ている。
彼女はまだ字の読めない弟のために絵本何かを読み聞かせしていた。
その声はやさしくかわいらしい、ひきつけられる魅力がある声だった。
気がつけば彼女の朗読は弟だけでなく図書館に訪れる子供やお年寄りたちの人気を得ていった。
俺も朗読のファンの一人だ、けど、真正面から聞いたことは一度もない。
勉強をしながら聞き流しているっていう感じだ。
何度か寝落ちした経験もある、あまりに心地が良かったせいかまぶたが重くなり、とうとうおでこを机に強打してドンッっていう音が響いたこともある。
学校でも話すことはあるが、きっとクラスの連中は彼女の特技は知らないだろうと思う。
普段よりも人気のない図書館でも檜山さんの読み聞かせる声が聞こえていた。
案の定サンタさんの出てくる北欧の素敵なお話だった。
ピピッと腕時計がなる、17時。
塾に行く時間だ、俺は荷物を片付けて立ち上がる。
子供スペースの前を通る時に俺は檜山さんには軽く手をあげてあいさつはする。
今日も「じゃな」と軽く声をかける。
「塾?今日イヴだよ?」と檜山さんは少し驚いた感じに俺に訪ねた。
「うん、こういう時こそ塾へ行く、みんな浮かれている時に自分は勉強していたっていうことが自信になるんだそうだ。どっかの講師が言ってた」俺は胸を張って答える。
受験まであと1年ちょっとあるけど、ここで勉強することを習慣づければ受験の荒波にも勝てると俺は思っている。
「そう、がんばってね」檜山さんは手を振ると弟のマサルもにっこり笑って手を振った。
2時間ほどの授業をこなして塾は終了、明日から冬の講習会が始まる。
ちょうど塾から出たところで母親からメールが届いた。
「スーパーに来られたし」
母の仕事の終わり時間とかぶる時は塾終わりに合流して荷物持ちをやらされる。
母親と二人で家路を急いでいると公園の前に差し掛かった、キィーキィーとブランコの揺れる音が聞こえてきた。
暗い中よく見るとブランコに乗っていたのはマサルだった。
檜山さんは体を縮みこませながらマサルの背中を押していた。
「あれ、あんたのクラスの子じゃないの?こんな寒くて暗い中、ちょっと行っといで」
母は急に俺の背中を押してきた、俺は押された勢いで公園に入っていった。
「ひやま、さん?」暗い中揺れるブランコに話しかけた。
「あ、田中君。変なとこみられちゃったね。図書館しまっちゃったし、マサルがブランコっていうから」少し照れくさそうだった。
「あれ、こんばんわ、一彦の母です。どうしたのこんな暗い中で、お家の人は知っているの?」
と母が間に入ってきた。
「あの、その、親はしってます」檜山さんの顔は急に曇り視線を足元にそらした。
「でも、こんな寒くて暗いのにお家には帰らなくていいの?」母のおせっかいの性が騒ぎ始めた。
「えぇと、おやから、は、連絡する、まで、かえっ、て、来ないでくれ、って」檜山さんの声がどんどん先細っていく。
「え?!なにそれ!!それが親のいうことなの??!!信じられない、あ、ごめんなさいね、別にあなたたちを怒っているわけじゃないのよ、ちょっとそんなの聞いたことなくって、思わず声荒げっちゃった、ごめんなさい」突如声を張り上げた母に驚いてマサルは凍りついていた。
そうだった、檜山さんの家庭の事情っていうのが少し複雑であることをクラスの事情通から聞いたことがある、きっとそんなところなのだろう。
「クリスマスだっていうのに。そうだ、これから家に来ない?一緒にクリスマスをお祝いしましょ?」
名案を思いついたようなに母の顔が明るくなった。
檜山さん兄弟の顔に「?」と困惑が広がる。
母はくるりと方向転換して家に向かって歩き始めた。
「さ、行きましょ」
俺は苦笑いで二人を家の方向へと誘導した。
母は二人を座らせて温めた牛乳を飲ませ、そそくさとキッチンに向かい夕飯の準備を始めた。
茶の間には檜山さん兄妹と俺とじいちゃんがいる。
マサルはじいちゃんに興味津々でじいちゃんの座イスの前で顔をジィっと見つめていた。
檜山さんはというとまだ状況が上手く呑み込めていないようで部屋をきょろきょろと見回していた。
そうこうしているうちに父も帰ってきて、見慣れぬ客に少し驚いていた。
「クラスメイトの檜山さん」と簡単に紹介する、父は俺と檜山さんを見比べてニヤッと笑い、着替えに消えた。
全員揃ったところで母から「ご飯よ」と宣言された。
クリスマスイヴなだけあって少し豪華だった。
「さ、檜山さんマサルちゃん、ご飯とか考えてなかったんでしょ?遠慮せずに召し上がれ」
「いただきます」礼儀正しく檜山さんは手を合わせていた。
最初は遠慮がちだったが、マサルの食欲に火が付いてがつがつ食べ始めると檜山さんも箸の運びが活発になった。
食事も一息ついたところで母が口を開いた。
「ねえ、もし嫌じゃなかったら、訳を話してくれる?話せる部分だけでいいから」
意を決したかのように檜山さんも事情を話し始めた。
実はマサルとは姉弟だが母親が違っているらしい、今の母親はマサルの産んだ人らしいのだが、子育てにはほとんど興味がなく、そして、檜山さんとの関係もよくはなかった。
父親は母親よりもたちが悪く、常に子供を邪険に扱い、今日は経営している会社のクリスマスパーティーをするために檜山さんたちを家から追い出したらしく、そのパーティーがお終わるまで家に帰ってこないように念を押したという。
「フゥ〜」と悲しそうにじいちゃんがため息をついた。
「そんな親って実在するのね」母もあきれ半分悲しみ半分だった。
しかし、急に顔が明るくなり「ケーキ食べましょ。悲しい気持ちを吹っ飛ばすのは甘いものが一番」
パタパタとキッチンに走り手際よくケーキを切り分けた。
そこからは母が俺の過去の失敗やら恥ずかしい思い出を檜山さんに披露していた、幸運なことに笑ってくれていた。マサルはシワシワのじいちゃんの手のひらをペタペタと触っていた。
9時半を回ったあたりで携帯のバイブ音が鳴った。
檜山さんは自分の携帯をとりだすとハッとした顔をする。
「親からメールがきました。ここでしつれします。今日はご馳走様でした、ありがとうございました、マサルいくよ」と母と父とじいちゃんに丁寧にお辞儀をしてマサルの手を引いて茶の間を出ようとした。
「あぁ、待って。ホラ、一彦。あずさちゃん達を送ってってあげなさいよ」と母が言った。
「送ってくよ」と俺もジャンパーを羽織って玄関に向かう。
「マサルちゃん、またおいで」と母がビニール袋に心ばかりのお菓子を入れてマサルに渡す。
マサルはぺこりとお辞儀をしてニッコリと両親とじいちゃんに微笑みかけた。
外はさっきよりも寒くなっていた。
檜山さんの家へ向かっている途中、
「今日はホントにありがとう、あのまま誰にも声を掛けられなかった私たちどうなってたことか」
「いいんだよ、家の母親困っている人を見ていると黙ってられないたちでさ」
「わたしたち困っているように見えたのかな?」
「困っては見えなかったけど、今日みたいな日に暗い公園でブランコこいでいたら、何か事情あるんじゃないかって思うんじゃない?」
「そうだよね、あれは異様だったかも」
二人でくすくす笑い出す。
すると急にマサルが俺の右の手をとって手をつなぎ始めた。
「マサル、手冷たいな」と驚いていると左手にも冷たい手が触れた。
「あ、檜山さんも冷たい」俺は檜山さんの右手を握った。
「一彦君の手あったかいね」檜山さんの手に力が入る。
「手の温かい人間は心が冷たいっていうぜ」っておどけていってみた。
「ううん、人を温めることのできる人は温かい人ってことだよ」
「そう?」思わずニヤケる。
「あのさ、檜山さんはいい声してるよ、かわいい声してる。毎日図書館でマサルに絵本読んでやってる声を聞くのが俺の楽しみだったんだ、あの声聞くと落ち着くっていうか、癒されるっていうか、もっと声を聞きたいって思っちゃうんだよね。今日家に来てくれて俺の方が感謝してるんだ。君の声をずっと聞いてられて、隣に座って、一緒にご馳走が食べられる。こんなプレゼントもらったことなくて。クリスマスイヴに一緒にいたいって思う人と過ごすことができた。母のおせっかいに乗ってくれた、君に感謝だよ」言ってしまった・・・
人生初の告白をどさくさまぎれにしてしまった。マサルがジィっと俺を見つめている、じいちゃんを見つめていた時とは違う。
「うん、ありがとう」檜山さんの右手の指を広げて俺の指と指の間に指を滑り込ませていく。
そこからはマサルのクリスマスキャロルの鼻歌が聞こえるくらいだった。
檜山さんの家の前につくと家は真っ暗だった。
「パーティーが終わって会社の人と2次会にでも行ったんだと思う、だから帰ってきていいっていうこと」伏し目がちな檜山さんに戻りかけていた。
「じゃ、じゃあ。大みそかとか、正月は家に来ないか?」おせっかいは母親譲りなのかもしれない。
「うん、、、考えとく」マサルがパッと手を放して家に入っていく。
俺たちは少し名残惜しく手を放し合った。
「じゃあ、明日。図書館で」
「図書館で」檜山さんは扉を閉めた。
左手をグーパーグーパーしながら歩いている。
柔らかくて安心する、そして癒される感触。
彼女の声のような感触だった。
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