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2016年12月24日19:51

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札幌交響楽団 第595回定期演奏会

【プログラム】
1 ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」
        〜〜〜休 憩〜〜〜
2 ワーグナー: 序夜と3日間のための舞台祝典劇「ニーベルングの指環」より
   ワルハラ城への入城
   ワルキューレの騎行
   魔の炎の音楽
   森のささやき
   ジークフリートの葬送行進曲
   ブリュンヒルデの自己犠牲

(アンコール)
ビゼー(ブゾーニ編): カルメン
リスト: グランドギャロップクロマティック

ニコライ・ホジャノフ(ピアノ)
飯守 泰次郎(指揮)
札幌交響楽団

《ロビー・コンサート》
クルーセル: クラリネット四重奏曲ハ短調Op.4より第1楽章,第3楽章

 白子 正樹(クラリネット)
 阿部 亜希子(ヴァイオリン)
 鈴木 勇人(ヴィオラ)
 小野木 遼(チェロ)

2016年11月26日(土),14:00〜,札幌コンサートホールKitara


たとえ抜粋とはいえ,「ニーベルングの指環」をこの地で聴くことができるとは想像だにしなかった。期待は大きく膨らんだものの,オペラハウスで「リング」を通して演奏した経験がないオーケストラゆえの限界があったのも事実。

演奏自体は曲を追うごとに上向いてた。その限界が顕著になったのは、最初の2曲「ワルハラ城への入城」と「ワルキューレの騎行」だった。ワーグナーの音楽を演奏する際に求められる弦楽セクションの重厚な響きが充分とはいえない。また,金管楽器群の精度はもっと上げなければならないだろう。こうした欠点がワーグナーを聴くときの興を削いでしまうからだ。

こうした技術的な問題以上に,ワーグナーの楽劇を上演しているというある種の高揚感を表現できていなかったのが何よりも惜しい。ワーグナーを演奏する肝ともいうべきワクワク感は歌劇場での実践を通じて身に付ける以外にないことを痛感する。「ワルハラ城への入城」では,高い峰々の上に築城されたワルハラの壮麗な姿やドラマの展開に対する期待などが感じられない。「ワルキューレの騎行」でも,金管楽器がこれから前代未聞の異常事態が起こりつつあることを煽るものの,木管や弦楽はいたって冷静である。会場を興奮の坩堝と化すにはコツがあり,その骨法を体得するには劇場での経験を積み重ねる以外にないのだろう。

だが,「森のささやき」で事態はかなり上向く。抒情的な音楽であることが,オーケストラにとって有利に働いたのだろう。静かな弦楽を背景に,木管楽器が豊かな表情で情景を浮かび上がらせる。「ジークフリートの葬送行進曲」になると,どのセクションも硬さがとれ響きに重厚感がでてくる。とはいえ,悲壮感を伴った壮大なスケールを表現するまでには至っていない。演奏効果が抜群の「ブリュンヒルデの自己犠牲」では,このシーンのカタストロフを表現していた。楽曲の演奏効果だけでなく,オーケストラ自体が良く鳴るようになって,自在な表現が可能になったことが大きいのだろう。

抜粋であっても「リング」を上演する場合,ワーグナーの楽劇特有の臨場感を表現するためには,歌劇場での経験を積むことが不可欠なのだろう。オーケストラ・コンサートでよく演奏される楽劇の前奏曲などは,オーケストラ・ピースとしての演奏法が確立されていて,聴衆に感銘を与えるノウハウが共有されているのだろう。しかし,同じ曲目であっても,楽劇というコンテキストの中で割り当てられた役目を果たすためには別のノウハウが必要になることをこの演奏会で発見した。

さて,ホジャノフの「皇帝」であるが,予想を上回る出来映えだった。まさに若手の実力者による演奏という感が強い。さらにロシアのピアニズムに連なる演奏家であることを実感させる演奏でもあった。繊細だが確固とした高音域の美しさ,低音域の重厚感も十分といえる。そして,こうした音色を駆使して「皇帝」を描きあげる手腕の確かさにも好感を持つ。加えて,技術的な側面以外でも様々な難しさを持つ「皇帝」をこのレベルで弾きこなしうるピアニストの将来が楽しみでもある。

この定期演奏会を聴く前から気になっていたのだが,「皇帝」と「リング」の抜粋のうち,どちらがメインなのだろうか。もちろんメインが1つでなければならないという決まりはないのだが,中心が2つあると焦点が定まらずすわりが悪い。いっそのこと「リング」のダイジェスト版で定期演奏会を行ってみたらどうかと思う。独唱や二重唱,さらには合唱を加えてもいい。こうして「リング」の全曲演奏に一歩づつ近づくというのはどうだろう。

やはり「リング」はトータルで演奏時間が15時間にも及ぶ4曲の楽劇が有機的に結合した作品というのが本来の姿であるはずだ。いきなり全曲演奏は非現実的だとしても,点から線へ,線から面へと演奏範囲を広げてゆくのは,オーケストラにとって有意義なことだといえよう。たとえ,シンフォニー・オーケストラであっても,ワーグナー後の時代に演奏活動を行う現代の演奏団体にとって,音楽の歴史に計り知れない影響を与えた作品群を手中に収めることは強力な武器になるといえる。

来年の話をすると鬼が笑うというが,先走りして何年も先の夢を見てしまったらしい。

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