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2016年12月17日22:05

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BCJ:「ミサ曲ロ短調」(バッハ)

J.S.バッハ: ミサ曲 ロ短調 BWV232
 第1部 ミサ(キリエ・グロリア)
    〜〜〜休 憩〜〜〜
 第2部 ニケーア信経(クレド)
 第3部 サンクトゥス
 第4部 オザンナ、ベネディクトゥス、アニュス・デイとドナ・ノビス・パーチェム

朴 瑛実(ソプラノ)
ジョアン・ラン(ソプラノ)
ダミアン・ギヨン(アルト,カウンターテナー)
櫻田 亮(テノール)
ドミニク・ヴェルナー(バス)

バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱,管弦楽)
鈴木 雅明(指揮)

2016年11月15日(火),19:00〜,札幌コンサートホールKitara


札幌コンサートホールでこの時期の恒例となったバッハ・コレギウム・ジャパンの公演を聴いてきた。BCJがこのホールで最初に演奏したのも晩秋のこの時期で、取り上げた作品は「クリスマス・オラトリオ」だった。あれから20年近くが経つが、それほど目立たないもののBCJは確実に変わったという印象を深めた。

変化のひとつは、演奏が実によく熟れていることだ。この団体を設立して以来、数え切れないほどこの楽曲を演奏しているので、当たり前といえばそれまでだ。しかし、慣れとは異なる次元で、作品に対する理解が進化している。それと同時に、「ミサ曲ロ短調」の解釈と表現に関する深い自信がうかがえるのである。

具体的には、ステージの上で演奏する際、肩の力が抜け切っている。リラックスして心の赴くままに弾いているのだが、危なっかしいところは全くない。それどころか、作品との対話を即興で音楽に変換しているようでもある。演奏会ごとに、微妙に違う「ミサ曲ロ短調」を演奏していることになるのだろうが、そのどれもが正真正銘の「ミサ曲ロ短調」である。

もうひとつの変化は、より堅牢な骨格を持つ演奏であることだ。もちろん、その骨組みが演奏の表面に浮き出ているわけではない。むしろ、演奏の表層から奥深くに潜んでいて、演奏全体を支えている。作品の骨格を捉えているという手応えが、「ミサ曲ロ短調」の演奏に対する自信となって現れている。

この作品を演奏する際の抜群の安定感が、このことを何よりも雄弁に物語っている。トランペットやコルノ・ダ・カッチャ(ホルン)のソロで、冷や冷やする場面は当然あるし、実際に音程を外すハプニングも起きた。ここでいう安定感と演奏上のキズとは基本的に違う。この安定感は楽曲の構造を正確に把握し、音楽の展開に沿って正確なバランスを保ちつつ再現できる見通しに由来する。それが頭脳のレベルでの理解にととまらず、身体的な次元の自然な反応も伴っているという意味だ。BCJが演奏する「ミサ曲ロ短調」には、安心して身を委ねることができる。

これほど完成度が高く成熟した演奏については、もうこれ言うことがない。だが1点だけ個人的に十分消化できないことがある。古楽演奏団体にしては、管弦楽の音色が磨きあげられ過ぎているているように感じる。ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウなどは響きがきれいに整えられ、どの音も隅々まで磨き上げられている。一方、旧東欧地域のゲバントハウスやシュターツカペレ・ドレスデンのオーケストラは最上のオーケストラ・サウンドに手を加えることなく、そのままの状態で使っているような趣がある。料理に擬えれば、前者が調味料で味を整えた調理法だとすれば、後者は素材の味を生かす調理法といえよう。そして、古楽演奏団体は後者の流儀の源にさかのぼる試みだと理解している。しかし、響きに関する限りBCJは後者を志向しているように思えてならない。

すなわち、表現がロマンチック過ぎるような気がしてならない。古楽演奏自体ロマン主義に対するアンチテーゼとして始まったという経緯もあったはずだ。BCJは特に近年ロマンチシズムに対する傾倒が徐々に強まりつつあるようだ。そして、「ミサ曲ロ短調」演奏において、こうした傾向がより著しいように思う。

ただし、誤解しないで頂きたいのは、ロマンチックな「ミサ曲ロ短調」に異を唱えているのではないということだ。バッハは様々なスタイルの表現を許容するスケールを持っているし、異なる解釈や表現の演奏を聴くのは楽しみである。要はロマンチックなスタイルの表現を目指しているのに、なぜわざわざ古楽を選んだのか理解できなというだけの話である。もちろん、この演奏団体が培ってきた演奏スタイルをモダン楽器で簡単に置き換えられるかというと、それほど話が単純でないことは重々承知してはいるのだが。ロマンチックな表現を目指すならば、ロマン主義とともに発達してきた現代のオーケストラを用いないのは何故なのかよく分からないのだ。

この種の違和感を別にすれば、完成度の高い成熟した「ミサ曲ロ短調」だったといえる。表面的にも、内容的にも世界一流の演奏だったと断言して差し支えないだろう。
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