【オーケストラ・プログラム�機曄。横娃隠暁�１１月２２日（火），１９：００〜，サントリーホール
１ ベートーヴェン： ピアノ協奏曲 第２番 変ロ長調 Ｏｐ．１９
〜〜〜休 憩〜〜〜
２ Ｒ．シュトラウス： アルプス交響曲 Ｏｐ．６４
（アンコール）
Ｊ．Ｓ．バッハ： パルティータ 第１番 変ロ長調 ＢＷＶ８２５より“メヌエット�機�
【オーケストラ・プログラム�供曄。横娃隠暁�１１月２３日（水・祝），１７：００〜，サントリーホール
１ ベートーヴェン： 歌劇「フィデリオ」より“序曲”
２ ベートーヴェン： ピアノ協奏曲 第５番 変ホ長調 Ｏｐ．７３「皇帝」
〜〜〜休 憩〜〜〜
３ チャイコフスキー： 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
４ リスト： 交響詩「前奏曲」Ｓ９７
（アンコール）
Ｊ．Ｓ．バッハ： ライプツィヒ・コラール集から「おお愛する魂よ，汝を飾れ」ＢＷＶ６５４
ワーグナー： 歌劇「ローエングリン」より“第１幕への前奏曲”
キット・アームストロング（ピアノ）
クリスティアン・ティーレマン（指揮）
シュターツカペレ・ドレスデン（管弦楽）
大枚をはたいて，２日連続オーケストラ・プログラムを聴いた。後知恵になるが，プログラム�兇世韻能淑�だった。ただし，どちらが良いのか事前に判るはずもない。また，前回の来日公演の際は，１公演しか聴かずに後悔した経緯もある。コンサートに失敗や後悔はつきものと割り切るしかない。
イェフィム・ブロンフマンが，健康上の理由で急遽来日できなくなったことは相当大きな痛手になった。オーケストラ・プログラムはブロンフマンがソリストをつとめることを前提に組み立てられたことは明白であり，彼が欠けると２回の公演のコンセプトが根底から覆るようなものだからだ。彼が今回ベートーヴェンのピアノ協奏曲を弾くのは，演奏会に彩りを添えることを超えてブロンフマン，ティーレマン，シュターツカペレ・ドレスデンの三者が，それぞれの持ち味を活かしてこの取り合わせで以外では亜実現不可能なコンサートを作り上げることを目指していたはずだ。そして，この指揮者とオーケストラのコンビに拮抗しうるピアニストは，無類のパワーと鋼の響きをもつブロンフマンを措いて他にないだろう。
キット・アームストロングは達者なピアニストだが，ブロンフマンが欠けた穴を埋めるには小粒で，重厚感とスケール感で及ばない。現時点では，ティーレマンとスターツカペレ・ドレスデンを向こうに回して，ベートーヴェンのピアノ協奏曲を弾くタイプのピアニストとはいえまい。フィラデルフィア管かモントリオール響をバックにフランス系のピアノ・コンチェルトを演奏すれば，絶賛を浴びるのは確実なのだろうが。そのくらい軽く浅い響きのピアノである。とはいえ，優秀なピアニストであることは確かで，小型で高性能なスポーツカーを操って，山岳地帯の難路を難なく駆け抜ける爽快さはある。アームストロングとブロンフマンは好対照をなすピアニストといえる。
このことがより端的に表れていたのが，プログラム�気離團▲龍�奏曲第２番の演奏。運動性能は抜群なのだが，打鍵の浅い淡い音色はとてもベートーヴェンに相応しいとはいえず，ショパンやラヴェルを弾くにしても，音の輪郭や輝きが足りない。その点，プログラム�兇痢峭陳襦廚任魯戞璽函璽凜Д鵑蕕靴ぅ┘優襯�ー感と力強さが加わる。たしかに，ベートーヴェンらしい方向に変わったのはいいのだが，アームストロングの変わり方以上に，作品がよりベートーヴェンらしく変化するため，やはり不満は強く残る。それこそ全身を使ってベートーヴェンを表現しようとしているのは分かるのだが，演奏そのものはベートーヴェンに追い付いて行かないのが実情だ。公演が迫る中で，限られた選択肢から選ばざるを得なかった事情を考えると止むを得ないのだろうし，キット・アームストロング自身は巧いピアニストなので今後の成長が楽しみともいえる。アンコールにはバッハの曲を選んでいることからも分かるとおり，バッハが好きなことが伝わってくる。バッハ作品の現代的な側面に魅かれていることも察しがつく。
次に，ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンについてだが，ピアニスト同様，１日目より２日目の方が良かった。オーケストラ・プログラム�気任蓮ぅ團▲縫好箸帽腓擦茲Δ箸群瓩�て，最後まで自分たちのペースをつかめなかったのではないか。プログラム�兇任蓮ぁ峭陳襦廚蕕靴気魘�調するため，ピアニストに譲歩するよりも自分たちのスタイルを貫こうとしたことが良かったのだと思う。さらに，「アルプス交響曲」よりリストの「前奏曲」の方が，このコンビの持ち味を引き出すのに相応しい作品のような気もする。前者は薄絹の織物のような演奏に終始した一方で，後者はティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンらしい気宇壮大な演奏であり，この作品の真価を十二分に発揮せしめる圧巻の演奏であったと評価できる。正直なところ，これまで何度か聴いた「前奏曲」の中で群を抜いた出来であり，リストの管弦楽作品を見直す切っ掛けになりうる演奏といえる。
１日目のＲ．シュトラウスや２日目のリストは，いかにもティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンが好んで取り上げそうな作品であるが，２日目にチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」を選んだのはどうしてなのだろう。彼らが演奏会で取り上げる曲目について熟知しているわけではないし，どのような作品を取り上げようが自由なのだが，演奏を聴く限り「ロメオとジュリエット」をプログラムに入れた理由や必然性が理解できなかった。チャイコフスキーの音楽を演奏するスタイルとは若干異なっていて，ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンらしいといえばその通りなのだが，ドイツ訛りのロシア語を聞いているようで，面白いといえば面白いのだが同時に多少違和感を覚えたのも事実だ。これはお客さんに対するサービス精神の発露だと捉えれば理解できなくもない。
２回のオーケストラ・コンサートに限れば，プログラムにコンチェルトを入れたことが鬼門になったといえるだろう。今日，ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンの演奏会に，このコンビのスタイルに相応しい独奏者を招くとなれば選択の幅が極端に狭くなるような気がしないでもない。いうまでもなく，彼らは今流行のスタイルと一線も二線も画した路線をひた走っているからだ。それ以上に，オーケストラ・コンサートという形式で自分たちの音楽を演奏する場合，マエストロとオーケストラとで完結した世界を作り上げることができ，その他のものが入り込む余地はないに等しいからだ。
ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンとの関係が変化する兆しが垣間見えなくもないような気もするが，今後どうなるのか気が気でもない反面，楽しみでもある。
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