前回は英国フォーク・ロックを概観したが、今回は、ヨーロッパ大陸、北米大陸のフォーク・ロックを見てみたい。伝統の厚みが違うヨーロッパのトラッドは実に多彩で奥が深いし、雄大な自然に囲まれた北米のフォーク・ロックは透明感の溢れる清朗なものが多い。
・ 曲 ミュージシャン アルバム
�� Le lac d'argent / Asgard [ Tradition & renouveau 1978 France ]
フランス７０年代のアスガールは、４人組で、パトリック・グランピエールの澄み渡ったヴォーカルが魅力。ヴァイオリンやフルートも鳴り響き、メロトロンが流れる。ヨーロッパ・トラッドの奥深さを象徴する叙情的なメロディーだ。「銀の湖」という曲名どおりの幻想性もある。アルバム・タイトル「伝統と革新」が示すとおり、トラッドの歴史性とシンフォの清澄さが溶け合っている。
�� Gypsy caravan / Scarlet Rivera [ Scarlet Rivera 1977 USA ]
スカーレット・リヴェラは、かつてボブ・ディランのバックバンドを務めた女性ヴァイオリニスト。まるで「チゴイネルワイゼン」のような表情豊かなヴァイオリンを聴かせるが、続くのはやや高めの男性ヴォーカル。そしてバックにオーケストラのようなストリング・キーボード。まるでシンフォだ。ヴァイオリンだけでなく駆け回るピアノも繊細で印象的。もはやプログレを超えている。Chihiro S.様の推薦。
�� Le chasse galery / Malicorne [ Le bastiare 1979 France ]
フランス７０年代のマリコルヌは、５人組でヴァイオリン、男女ヴォーカルのほか、本作でグリフォンのリコーダー奏者が参加している。中世風の伝統メロディーに固執する。この曲の冒頭はアコースティック楽器だけで、シュールな夜と闇、鳴き交わす魔物たちを表現。ドラムスだけがロックらしい。何重ものコーラスが流れて、曲のラストではコントラバスの音も聴こえる。
�� Missing you / Growing Dream [ Seeds 1995 Canada ]
グローイング・ドリームは、カナダ・ケベックのバンドで、女性ヴォーカルのキャサリン・ポーリンが英語で歌う。「命を捧げて歌った人。詩とリズムとメロディーを与えてくれた人。メロディーは真実になると教えてくれた人。あなたのことを懐かしく思う。」マイナーなバンドだが、非トラッド系のフォーク・ロックでは、私が一番好きな曲だ。６人組で、サックス奏者とフルート奏者がいて、フォーク・ロックにしては立体的な音造り。
�� Betlehemes jatek a kiralyuk erkezeserol / Kormoran [ A Bethehemi csillag uzenete 1997 Hungary ]
ハンガリーのコルモランは、８人編成の大世帯で、女性ヴォーカルが２人いる。ベツレヘムという言葉が見えるので、宗教的なテーマのアルバムだと思われる。児童合唱を入れたり、軽快なスピードの曲があったりと多彩だが、この曲は讃美歌のようなメロディーで、フレーズごとに別のメンバーが歌う。だんだんハイトーンになっていくのが美しい。トラッドのように聴こえるが、オリジナル曲だ。サルマシスの泉様の推薦。
�� Depuis l'autumne / Harmonium [ Si on avait besoin d'une cinquieme saison 1975 Canada ]
アルモニウムは、カナダ７０年代の５人組。キーボード奏者が２人いて、１人がメロトロンを担当する。この曲はメロトロンがものすごくて有名。生ギターに枯淡な男性ヴォーカルがとつとつと歌っていたかと思うと、メロトロンのソロ。終わりかと思うと、第２フレーズの後に再びメロトロンが出てきて大変なことになる。永遠に続くかと思われる大氷河。やがてブラスも入ってへヴィな展開。フォーク・ロックの怪曲だ。アルバム・タイトルは「もしも５つめの季節が必要なら」。
�� Harvest dance / Horch [ Mittelalternativ 1991 East Germany ]
ホルヒは、東ドイツの４人組。フルートなどの木管楽器奏者とヴァイオリン、ビオラ、チェロの奏者がいる。男性ヴォーカルも女性ヴォーカルも入るのだが、特にインストルメンタルのこの曲を選出した。木管による祝祭的な歓びがトラッドの豊かさを教えてくれる。東ドイツのバンドは、伝統を重視してロック化したサウンドが多くて、私は好み。ハーメルンの笛吹き男を連想させる。
�� Her Holger / Garmarna [ Cuds speleman 1996 Sweden ]
スウェーデンのガルマルナは、トラッドとへヴィ・ロックを合体して、音楽に新たな革新をもたらした。ラディカル・トラッドと言うらしくて、ともかく重い。５人組で、女性ヴォーカルはエマ・ヘルダーリン。ヴァイオリン奏者がいて、キーボードはなし。ヴァイオリンが何重にも弦の音を響かせ空間を占める中で、激しいヴォーカルが暗黒にして異教的。アコースティックなのにへヴィという音楽世界を創造した。
�� Dolce Jenny / Ciro Dammicco [ Ciro Dammicco 1972 Itary ]
７０年代のイタリア・カンタウトゥーレからチロ・ダミコを選んだ。カンタウトゥーレというのは、シンガー・ソングライターのことなので、意外にも決してフォーク・ロックっぽくなくて、エレクトリックな人が多かった。その中では、チロ・ダミコは、全編に生ギターが流れて、フォークっぽいのではないか。しかし、延々たるメロトロンの流れがなかなかすごくて快感である。
�� Stebinou ve dverich / AG Flek [ Tramtaric 1991 Czech ]
チェコのＡＧフレックは、６人編成で、６人全員がヴォーカルを担当できる。たおやかで牧歌的なフルートに乗せて、低音ヴォーカルが優しく歌ったかと思うと、ハイトーン・ヴォーカルが１オクターブ高い少年声で、それを引き継ぐ。メロディーが優美な曲が多くて、マイナーな辺境バンドだが私は好みだ。
[次点] Joupolle joutunut / Hedningarna [ Kaksi ! 1992 Sweden ]
ラジカル・トラッドは１曲で十分かと思ったが、やはり聴いてみると刺激的で、もう１曲。スウェーデンのヘドニンガルナは、５人組。マルチな楽器奏者が目立つだけでなく、女性ヴォーカリストが２人いて、怖ろしくも異教的な掛け合いをする。生楽器なのにこれもへヴィで、印象が強烈。ペイガンというのか、キリスト教美意識とはかけ離れた世界。悪魔崇拝というか、古代ゾロアスター教的とでも言うのか、暗黒の祭礼を思わせる。
○このほか、候補にしたミュージシャン
Brochelmachine, Cico, Clannad, Daniel Vega, Eden, Fabrizio De Amdre, Franco Batiato, Galja, Galoloo, Gothart, Hoven Droven, L'engoulevant, Lucio Batisti, Majerovy Brzdove Tabulky, Motis, Nexus, Providence(USA), Pastral, Seguin, Seru Gilan, Tempest(USA)
ログインしてコメントを確認・投稿する