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2016年11月04日22:25

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読書感想文『ハーン・ザ・ラストハンター』

『ハーン・ザ・ラストハンター アメリカン・オタク小説集』を読んだ!

 ニンジャスレイヤー原作者が収集したアメリカの同人小説のうち、日本を舞台にしたものを何作かまとめてほんやくチームが翻訳した、というふれこみのアンソロジー本。
 「ニンジャスレイヤーを初めて読んだときの衝撃が蘇る」と言われていたので思わず買ってしまったが、確かにこれはニューロンを直撃する。
 収録作品はジャンルも、雰囲気も、そしてクオリティさえもバラバラだが、その全てがほんやくチームによる翻訳を通してきているので、日本語としてのクオリティはある程度統一されているという不思議な読書体験だった。
 忍殺に興味はあるけどなんか乗り遅れちゃった、という人にも是非おすすめしたい。

 以下収録作品。



■「ハーン:ザ・ラストハンター」「ハーン:ザ・デストロイヤー」トレヴォー・S・マイルズ

 「ラフカディオ・ハーンがライフルと日本刀でヨーカイを殺して回る話」という概要だけで、このアンソロジーのタイトル作品となりうるパワーがある。なにしろノッペラボウを銃殺し、お菊さんを井戸ごとダイナマイトで爆殺するんだぞ。まあほら『リンカーン秘密の書』とかあるし、とりあえずクリーチャーをマッシュアップしておけばそのギャップで話は転がり始めるのだ。なおハーンが復讐心を燃やす相手の名前がヤナギダである。大丈夫かその設定。原著にはこの2作以外にもたくさんのエピソードがあるらしく、「ターヘル・アナトミア」が強力な魔導書として登場するエピソードがすげえ気になるところだ。



■「エミリー・ウィズ・アイアンドレス センパイポカリプス・ナウ!」エミリー・R・スミス

 1ページ目から情報量が多すぎてもうかなりつらい。スクールカーストの底辺だったエミリーが日本のシブヤ・センパイ・ハイスクールに転校したことから始まり、自分の本当の名前が「エミリー・フォン・ドラクル・イチゾク・ラスティゲイツ・ザ・ドーンブリンガー・M-22」であり数千万人に一人がもつ遺伝子「ウンメイテキ・ジーン」の持ち主でありフジサンの火口から襲い来るカイジュウを撃退する二人乗り巨大ロボ「アイアンドレス」の操縦者となり……ということが「これまでのあらすじ」的に一息で語られる。つらい。しかも名前の「ドラクル・イチゾク」の部分からわかるように吸血鬼の血を引いている設定も盛られる。なぜこの作者は引き算を覚えなかったのか。
 乙女ゲー的にエミリーに特別な好意を寄せるセンパイたちは皆ウンメイテキ・ジーンの持ち主であるが、センパイたちの戦い「センパイポカリプス」はこのエピソードでは起こることはない。でも未翻訳エピでは頻繁に起こるらしい。頭が痛くなってきた。



■「阿弥陀6」スティーヴン・ヘインズワース

 宇宙空間にうかぶ、豆腐を自動生産するスペースコロニー「阿弥陀6」で起こる事件を描くSF。宇宙空間を渡るスリルは『ゼログラビティ』のようだ。豆腐であること以外はきわめて真面目なSF……と思いきや「オカラは豆腐と再び和解し、ひとつの核となり、星が生まれる」なんていうパワーのある台詞が出てくるので油断ならない。なんだよタンパク質の星って。確かにオカラは完全栄養なのかもしれないが。あと「仏教といえばマニ車」みたいな感覚はいったいどこからくるのか。そういえばファークライ4でもひたすらマニ車を回していた。



■「流鏑馬な! 海原ダンク!」アジッコ・デイヴィス

 日本にホームステイしにきたバスケ少年が、まるでニンジャのごとき強さを誇るいけすかない日本人に1on1バスケ勝負を挑む話。試合はもはや少林サッカーと化しており竜巻で相手をぶっとばすとか余裕。いったいどうしてこんなことに……

(あとがきより)
「日本のアニメーションはたとえ登場人物が超人でなくとも、なにかといえば光が迸り、爆発が起こっていたように思う。そのダイナミズムを東洋の超人思想、修行思想に基づくものであると仮定して、物語に落とし込んでみたんだ」
「特に愛好する作品は(中略)『ミスター味っ子』『スラムダンク』等」

>なにかといえば光が迸り、爆発が起こっていた
>『ミスター味っ子』

 もうゴメンナサイとしかいいようがない。



■「ジゴク・プリフェクチュア」ブルース・J・ウォレス

 人喰い村を舞台にしたスプラッタホラー。いわゆる「田舎に行ったら殺された」的なやつだ。ホステルとか、変態村とか、そういうやつ。精神的にタフな主人公、ぎくしゃくした関係の恋人、篠山県の田舎へ向かう観光バス、いわくありげな日本人観光客とお膳立てが整っている。東北弁をしゃべり死肉を食らう原住民はほぼSIRENの屍人。日本の田舎をなんだと思っているのか。

「シロイノ!」「コナバスガデ!」「ヤブルスカ!」
「ドーモコンニチハ!(拳銃乱射)」



■「隅田川オレンジライト」「隅田川ゲイシャナイト」デイヴィッド・グリーン

 高級料亭で行われるカチグミ・サラリマンのノミカイの様子をひたすら描写する話。ニンジャスレイヤーのそれよりちょっとリアル寄りかもしれない。とりあえずオシボリで顔を拭く。ちょっと不思議なことが起こるだけで、物語に起伏がないのが特徴。「ゲイシャナイト」のほうで、ゲイシャからの視点で同じ場面を描くという仕組みになっている。こういう形で料亭とゲイシャのキャラクターを掘り下げていく作品群なのかな。



■「ようこそ、ウィルヘルム!」マイケル・スヴェンソン

 血なまぐさいダークファンタジーで日本関係ないじゃんと思いきや、海外MMOのハードな世界から日本のMMOのカワイイな世界に転送されてしまうNPCが主人公の話。「ある日突然ネットゲームの世界に!」とか「トラックに轢かれて異世界転生!」みたいな話は日本では大流行だが、ネットゲームからネットゲームへの転送って設定で異世界カルチャーショックを書く試みは初めて見た。

「整列している!?狩り場で整列だと!?伝説の通りだ……。こんな平穏な世界が存在していたとは……!」

 まあそうだよね、日本人MMOプレイヤーはゲーム内で直接殴るんじゃなくってゲーム外の掲示板とかで殴るからね、我々のコリブリとかね。
 美形まみれの日本製MMOの中に転送されてしまった洋ゲーヒゲオヤジっていう構図はビジュアル的にも優れていて最高じゃないか。プロットもしっかりしてたし、他のエピソードも是非読みたいと思わせる作品。



 たしかにニンジャスレイヤーを初めて読んだときのようなトンチキ日本感を高濃度で味わえるので、いまさら忍殺を一巻から買えないよ!っていう読書野郎には短編集としてオススメしますね。この日記を読んでる中に該当する読書野郎はいなさそうな予感しますけど。

ブラッドレー・ボンド・インタビュー(前)
http://www.webchikuma.jp/articles/-/341

ブラッドレー・ボンド・インタビュー(後)
http://www.webchikuma.jp/articles/-/359
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