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2016年10月03日21:45

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【オリジナル創作】  雨に恋して

そろそろ雨が冷たさを感じる季節
とても変わり者の彼に私は出会った

天気予報は曇りのち晴れ
真に受けた私が馬鹿なのか
あざけるように降り出した霧雨は
本格的な雨に変わりつつあり
私の服に染み込みつつあった

「ああ、なんて忌々しいのだろう」
独り言に返事が返ってきた
細身の長身で顎をグッとあげないと彼の顔は見えなかった
「そして皆その後に雨なんて憂鬱になるよなと続けるんだよね」
そう言って彼は一歩前進すると両手と顔を上げて天を仰いだ

私はこの光景を一生忘れないと思う
私よりずっと雨のひどい所を歩いてきたのだろう彼は
ずぶ濡れで薄いシャツは肌が見えるほど貼りついているのに
彼のしぐさと表情は
愛しみに溢れていた
そう最愛のものを抱くかのように
そうまるで真摯な信者が神に祈るように

「俺は傘を買った事が無い」
ふと神々しさから人に戻った彼が
私に振り向いて言った

ここは「何故?」と聞いてあげるべきなんだろうか?
それとも「馬鹿じゃないの?」と飽きれてあげるべきなのか?
私はおそらく凄い困惑した顔をしてただろう

「独りだったからね
孤児院でも
学校でも
俺、人と上手く過ごせなくてね
雨と太陽と月だけが友達なんだ」
そう言って無邪気な笑いを見せた

知り合ってから
時々私は彼の面倒をみることになる
雨や雪に態々濡れてきては熱をだす
怒り散らして止めろと言っても聞かなかった

ある日ポツリと言った
「もう独りじゃないじゃない
私が居るのに何で傘を持とうとしないの?」
すごく小さな声で呟いたのに

何もない彼の部屋では酷く響いた
そして彼もポツリと呟く
「独りだよ」

私はドキリとした
彼を彼氏とは認めてなかった
それどころか友達未満の相手だった
ほっとけない達だったから
彼からSOSがくると
こうして面倒は見に来たが
普段は近づかないようにしてた

綺麗な人だったけど
彼には致命的な問題があった・・・
孤児院で孤独だった理由

彼は発火能力者で自分でその力をコントロールできないでいた
なんどとなく騒ぎを起こす
そもそも孤児になったのも自分の能力で家族を皆殺しにしたからだった
ちょっとした感情の起伏の変化で発火を起こすから
内に秘めたはずの
普通なら飲み込んで笑ってごまかせることが
ごまかせなかった
嘘もつけない彼は人には付き合い辛い存在なのは確かで
誰もが最初は近づくのにその発火能力に恐れ
発火することで見えてしまう彼の負の感情に怒り
みんな離れるか遠巻きにしてしまう
私もその一人にすぎない

そんなこと考えてる間に
彼は外に行ってまだ熱もあるのに雨に濡れていた
その体からはメラメラと炎が立ち
知らない人が見たら焼身自殺かと警察を呼ぶかもしれないが
ここらでは彼の存在はもう有名でそんな騒ぎも起きなかった

悲しみ、苦しみ、怒り、不安、絶望
そんな感情がほんの少し立ち上っただけで発火は起きる
自分ではどうにもならない現実

傘を差し彼の炎に巻き込まれない位置で声をかける
「熱があるのよ。家で寝なきゃ」
「・・・入りたくてもこの炎が止まなきゃ入れないだろう
雨に捕り殺されるなら本望さ
熱の上がりすぎで死んでしまえば楽になる・・・」

私はそのまま自宅に帰っていった・・・




彼は一歩前進すると両手と顔を上げて天を仰いだ

私はこの光景を一生忘れないと思う
私よりずっと雨のひどい所を歩いてきたのだろう彼は
ずぶ濡れで薄いシャツは肌が見えるほど貼りついているのに
彼のしぐさと表情は
愛しみに溢れていた
そう最愛のものを抱くかのように
そうまるで真摯な信者が神に祈るよう


誰も近づけない中
彼を雨だけがまとわりつこうとする

太陽も月も友達と言ってた彼が
その中で雨を一番好むのはそれが理由だと思う
孤独で孤独で
だけどその孤独を雨だけが救ってくれるのだろう

私には一生忘れられない光景がある

彼の発火能力を恐れた住民が
国に直訴し
彼はどこかに消えた

どうなったのか
どこに居るのか
私には知る由も無いが

降り続く雨だけはきっと知ってるのだと思う

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