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2016年09月10日20:25

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グザヴィエ・ドゥ・メストレ ハープリサイタル

【プログラム】
1 グリンカ: 歌劇「魔笛」の主題による変奏曲 変ホ長調
2 グリンカ: 夜想曲 変ホ長調
3 ペシェッティ/メストレ編: ソナタ ハ短調
4 ハチャトリアン: 2つの小品より「第1曲 東洋的な踊り」,「第2曲 トッカータ」
5 フォーレ: 即興曲 Op.86
      〜〜〜休 憩〜〜〜
6 パリッシュ・アルヴァーズ: マンドリン Op.84
7 カプレ: ディヴェルティスマン「第1番 フランス風」&「第2番 スペイン風」
8 ドビュッシー/ルニエ編: 「アラベスク第1番ホ長調」&「ベルガマスク組曲より『月の光』」
9 スメタナ/トゥルネチェック編: 交響詩「我が祖国」より『モルダウ』

<アンコール>
フェリックス・ゴドフロワ: ヴェニスの謝肉祭 Op.148

グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)

2016年8月31日(水),19:00〜,札幌コンサートホールKitara


メストレのハープを聴くのはこれが2度目。前回はモイツァ・エルトマンのリサイタルの伴奏だったので,彼の独奏を聴くのは事実上これが初めてである。

リサイタル当日会場に入ると,予想したとおりいつもより女性客の比率が高い。ほぼ満席となったホールのおそらく8割以上は,お姉さまや小母さまたちで占められていたのではないだろうか。整った容姿に加え,サッカー選手並みの肉体美を誇るメストレがハープを弾くとなれば,音楽好きの女性たちの心をくすぐらない訳がない。

メストレの演奏は女性ハーピストのそれとはひと味違う。繊細さは十分に持ち合わせているが,力強く逞しいハープである。さらに豊かな感性もさることながら,彼の演奏からはたしかな技巧に裏打ちされた知的な明晰さが際立つ。聴いていて思わず引き込まれる演奏である。

まったく予習をして行かなかったので,コメントは手抜きになってしまうが,いちばん面白かったのがドビュッシーの2作品。フランス的な楽器でフランス人が弾くフランスの作品とでもいうべきか。明晰でありながらも,独特の雰囲気を繊細に表現した演奏である。ピアノで弾くよりもドビュッシーの作品の原初的イメージを巧みに表現していたといえるのではないか。

まず,メストレのハープがつくりだす粒立ちのいい響きに思わず聴き入ってしまう。力強いフレーズでも繊細な箇所でも,アーティキュレーションはこれ以外にないほど説得的である。また,オーケストラの強奏に匹敵する音量から幽玄きわまりない弱奏まで,的確この上ない自在さでダイナミズムをコントロールするテクニックにも目をみはる。メストレの演奏を支えているのは技巧だけでなく,この人の恵まれた音楽性なのだろう。その才能豊かな音楽家がフランス文化を呼吸しつつハープを学び,男性的な感性で仕上げを施した演奏である。

ドビュッシーの「アラベスク」では清澄なハーモニーが心地よく,「月の光」では幻想的な小宇宙が現れる。フォーレの「前奏曲」では淡い色彩感を巧みに表現する。スメタナの「わが祖国より」では,持てるテクニックを総動員してオーケストラをも凌ぐサウンドで空間を満たす。ハチャトリアンの「東洋的な踊り」と「トッカータ」ではロシアの平原の彼方から聴こえてくるエキゾチックな調べを超絶技巧で再現する。グリンカの「魔笛の主題による変奏曲」ではモーツアルトの有名な旋律をロシア的な色彩感で染め上げる。

あらためてプログラムを眺めてみると,メストレはフランスの淡い色調の音楽とスラブ的なやや濃厚な色彩感の作品を中心に取り上げているようだ。これは演奏者の意図したことなのか,それともハープのレパートリーがこの2地域に偏っている事情のしからしめることなのか定かではないが,ハープで表現する色彩感のヴァリエーションとグラデーションがテーマのようなリサイタルだったような気がしないでもない。そして,スラブ地域が近代化を遂げようとした時期に,少なくともその上流階級では,フランスで花咲いた文化が大きな影響力を持っていたことを思い起こす。

このリサイタルに出かけようか止めておこうか迷ったが,聴き逃さなくてよかった。ハープに対する偏った見方を改める好い機会となったからだ。女性的な楽器の代表格と決めつけていたハープが必ずしもそうとは限らないことが理解できた。さらにグザヴィエ・ドゥ・メストレの真価を堪能できた。男性の音楽好きにとっても,このリサイタルは一聴に値することは請け合える。

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