下記は、2016.7.24 付の産経ニュース【新聞に喝！】です。
記
低調だった参院選に比べ、都知事選が盛り上がっている。ある調査では、回答者の９割が「関心がある」と答えたというから相当なものである。告示後に特定候補への週刊誌のスキャンダル記事まで飛び出し、異例の展開を見せている。
しかし、それほどの注目選挙でも、新聞報道がまったく目立っていない。さまざまな分野で、インターネットやテレビの後塵（こうじん）を拝している新聞が、都知事選報道でも完全に埋没している。一体、なにが負けているのか。“究極のあと出しジャンケン”で出てきた鳥越俊太郎氏（７６）出馬の舞台裏も、新聞を読むかぎり何も分からない。
唯一、朝日が参院選で当選した民進党の杉尾秀哉氏が当選直後に鳥越氏と話し、〈「脈あり」と感じた杉尾氏は、民進幹部に連絡。知らせを聞いた長妻昭代表代行が鳥越氏と面会し、「立候補したい」との言質（げんち）を得た〉と書いた。
ほかの新聞はほとんど報道なし。だが、２日後の告示で、鳥越氏のポスターは、しっかりと他の候補に先駆けて候補者掲示板に貼られていた。たった２日でポスターができ、しかも掲示板に貼られることなど、あり得ないから、朝日の記事も的を射ていたとはいえまい。結局、新聞読者は、真実を知らされないまま選挙戦が始まったのである。
１７年ぶりの分裂選挙になった自民党の抗争の「舞台裏」も新聞からは伝わってこない。自民党都連の副会長でもある小池百合子氏（６４）が出馬表明し、公認申請しても、会長の石原伸晃氏、そして“都連のドン”こと内田茂幹事長が「俺は聞いていない」と開き直り、元岩手県知事の増田寛也氏（６４）を引っ張り出した。常識ではあり得ないことだ。裏に何があるのか、新聞を読んでもさっぱり分からず、結局、ネットにその答えを探しにいく人が多いのが実情だ。
なぜ新聞は、読者のニーズに応えないのか、と思う。だが、それは望んでも仕方がないことかもしれない。答えは明らかだからだ。記者が取材対象に「食い込んでいない」のである。重要な取材源が、日頃から記者に“気をゆるす”までの関係になっておらず、いざというときに核心情報が「取れない」のだ。読者が知りたい舞台裏も書けずに、何が新聞か、と私は思う。
新聞は、せっかく世論調査もしている。直接、有権者の生の声を聞いているのである。しかし、これも記事には生かされない。要するに「工夫」がないのである。公選法をすり抜け、読者の期待に応える記事は可能なのに、新聞にはそれがない。
記者だけでなく、組織自体が、単なる「いい子」になってはいないか。この“情報ビッグバン”の時代に新聞社と記者が「いい子」に安住したら、もう終わりである。スクープに目をぎらつかせていた、かつての“ブン屋魂”を思い起こしてほしいと思う。今の新聞に欠けている最大のものは、「チャレンジ精神」にほかならない。
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【プロフィル】門田隆将
かどた・りゅうしょう 昭和３３（１９５８）年、高知県出身。中央大法卒。ノンフィクション作家。最新刊は、リーダーの本来あるべき姿を実録で描いた『リーダーの本義』。
http://www.sankei.com/column/news/160724/clm1607240007-n1.html
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