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2016年06月16日12:27

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「接続水域」航行への抗議は中国の思うつぼだった ロシアも航行したのに中国にだけ抗議、中国は作戦開始?

 下記は、2016.6.16 付のJBpress に寄稿した、戦争平和社会学者 北村 淳 氏の論考です。


   北村 淳

   戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。米シンクタンクで海軍アドバイザーなどを務める。現在安全保障戦略コンサルタントとしてシアトル在住。日本語著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)等がある。

                       記

 6月9日、ロシア軍艦と中国軍艦が時を同じくして尖閣諸島周辺の日本の「接続水域」(主権を有する国の海岸より24海里から12海里にかけての海域)内を航行した。

 この事案への日本政府の対応は、中国政府の目論見通りに日米同盟に打撃を加え、中国側に利することとなりそうだ。

 日本政府は中国政府に対してのみ抗議

 日本政府は、「ロシア軍艦が日本の接続水域を航行した」事実に関してロシア政府に何らの抗議もしていない。しかしながら、「中国軍艦が日本の接続水域を航行した」事案に関しては中国政府に厳重抗議を行っている。

 通常、外国軍艦による接続水域内の航行は、国際法上何らの問題も生じない。なぜならば、接続水域は国際法上「公海」とされているため、いかなる国の軍艦といえども「航行自由原則」を享受しているからだ。

 国際法上問題が生ずる可能性があるのは、外国軍艦による「領海」(主権を有する国の海岸より12海里内の海域)内の航行である。ただし外国軍艦が他国の領海内を通過するに際して、領海国に対して軍事的脅威を与える行動や何らかの軍事行動(偵察や軍事的調査などの実施)を疑わせるような行動をとらず、スムーズに航行する場合には国際法上認められる「無害通航権」の行使とみなされる。

 今回、日本政府が中国政府に対してのみ抗議したということは、ロシア軍艦に対しては航行自由原則を認め、中国軍艦に対しては航行自由原則を認めなかったことになる。

 このような日本政府による中国とロシアに対する態度の差は、尖閣問題にとどまらず南沙諸島問題をも巻き込んで、日本やアメリカに厄介な影を投げかけることになリかねない。

 中国軍艦に対する「航行自由原則」の制限を主張

 なぜ日本政府はロシアには何ら抗議せず、中国には厳重抗議したのか。その理由としては、「日本と中国の間には尖閣諸島の領有権をめぐる紛争が存在しているために、日本政府が中国軍艦には接続水域内の航行すらも認めないという姿勢をとっているから」としか説明のしようがない。

 安倍政権は2015年5月の閣議決定において、「無害通航権の行使とは認めがたい外国艦船に対しては、原則として海上警備行動を発令する」ことを決定している。

 また、今年の1月には、中国政府に対して「尖閣諸島周辺の日本領海に中国軍艦が侵入した場合、海上警備行動を発令して海自軍艦を派遣する」という閣議決定を伝達している(もちろん、これは日本の領海内が問題になるのであり、接続水域は範囲外である)。

 今回の中国への厳重抗議は、その閣議決定を踏まえた日本政府が、「日本の領海内航行には至らずとも、中国軍艦が日本の接続水域内を航行することも日本に対する軍事的威嚇とみなし、航行の自粛を求める」という立場を中国政府に対して表明したものとみなすことができる。

 つまり、日本政府は領有権紛争海域において、限定的とはいえ「航行自由原則」に対する制限を主張していることになる。

 予想される中国政府からの“反撃”

 中国政府は、南沙諸島周辺海域をはじめとする南シナ海で、「航行自由原則」に対する制限を主張している。中国領海内を通航しようとする外国軍艦は事前に中国政府の許可を受けなければならない、という無害通航権の制約の主張である。

 中国政府は「我々の主張と似通った制限を、尖閣周辺海域で日本政府は実施している」という解釈を国際社会に喧伝するであろう。

 そして、アメリカに対しては次のように主張するであろう。

 「日本政府は東シナ海で、“自国防衛のための『航行自由原則』に対する一定の制限”を実施している。中国政府は、それと似通った制限を南シナ海で実施しているのだ」

 「アメリカ政府は、南シナ海での中国による自衛措置に対して『航行自由原則』の維持のためと称してFONOPを旗印に軍艦を派遣し中国を脅迫している。それならば、東シナ海での日本政府による『航行自由原則』に対する制限措置に対して、アメリカ政府はどのように対処するのか?」

 さらには日本の領海内に中国軍の軍艦を侵入させることを正当化する、こんな難癖も言い出しかねない。

 「アメリカは領有権紛争が存在することを口実に、南沙諸島周辺海域を中国の海ではなく公海と言い立てて、渚碧礁(スービ礁)や永暑礁(ファイアリークロス礁)の周辺12海里内海域にまで軍艦や航空機を乗り入れている。そして、そのような軍事的挑発行動を“航行自由原則維持のための作戦(FONOP)”と名付け、あたかも国際海洋法を擁護するための行為と正当化している。それならば、中国としても領有権紛争係争中の海域である尖閣諸島周辺12海里に軍艦を乗り入れても、アメリカから文句を言われる筋合いはない──」

 日本を全面支援するわけにはいかない米国

 米海軍関係者の間には、尖閣諸島の日本領海や先島諸島をはじめとする南西諸島の接続水域内に、中国が中国版FONOPとして軍艦を送り込んで来る日も遠くないであろうと危惧する者も少なくない。

 つまり、「国連海洋法条約に加盟している中国としては、日本政府による『航行自由原則』を無視するような姿勢に抗議するためにも、アメリカと同様にFONOPを実施することになるであろう」という推測である。

 実際にこのような事態に陥った場合、アメリカ側としては、日本政府の中国軍艦に対する強硬姿勢(もちろん日本政府が腹をくくった場合だが)を表立って全面的に支持するわけにはいかなくなってしまう。言うまでもなく、アメリカは南シナ海での中国の海洋進出を「航行自由原則を踏みにじる所業」といった観点から批判しているからだ。

 河野統幕長(海将)は、「万が一、(中国軍艦が日本の)領海に入った場合はそれ相応の対応をする」と述べている。具体的な対応策は口にしていないが、自衛隊法に基づいて「海上警備行動」の発令を防衛大臣に要請することを意味していると思われる。しかしいくら警察権の行使程度に限定されるとはいえ、海上自衛隊の軍艦が出動して中国軍艦と対峙するからには、軍事衝突が発生する可能性は決して低くはない。

 そのような場合、軍事行動に何よりも正当性事由(たとえでっち上げたものであっても)を重んずるアメリカ政府としては、日米安全保障条約を根拠に日本に援軍を差し向けることは極めて困難となるであろう。

 (なお、本稿を完成させた直後、中国海軍情報収集艦が口永良部島沖の日本領海内を航行したとのニュースが伝えられた。本稿で問題になった接続水域内通航と違い、領海内通航であるため「無害通航権」の行使、そして中国版FONOPの開始、といった視点が必要になるものと思われる。この問題に関しては、いまだ情報が乏しいため、次回触れさせていただきたい。)

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47081
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