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2016年06月15日19:09

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長編小説 角が有る者達 第118話

第118話 メイズ・クエスト〜前編〜

*cation*
 今回の話は流血・殺人等の残酷な表現があります。気分を悪くされたらブラウザバックされる事をお勧めします。
 もしそれでも気分が収まらなければ一息ついて、少しだけ目を閉じて心の中で五秒数えて、目を開けて。
 それで少しは楽になる筈です。
 お読みになる方の為に、少し時間を待ちましょう。

 準備は出来ましたか?
 それでは、実験を始めます・・・。



〜?月?日 時刻??:??
 ????????????〜

「・・・・・・」
「〜〜〜」
「・・・・・・」
「〜〜〜ゴ!」
「・・・ゥ・・・」
「〜シゴ!ケシゴ!目を覚ませ!ケシゴ!」
「あ・・・?
 ぺん、シ・・・?」

 俺はうっすらと目を開ける。
 目の前には白いスーツを着た女性、ペンシの姿が見えそうになって、ハッと気付いた俺は瞼を強く閉じる。

ケシゴ「目!俺の目は何処にある!」
ペンシ「落ち着けケシゴ!今渡すぞ!」

 手に何か固い物を握らされる。俺は急いでそれをすぐに耳にかけ、ゆっくりと目を開ける。
 サングラスをかけた事で少しだけ暗くなった世界で、明るいペンシの笑みが見えた。
 俺の目には『恐怖の魔眼』という特殊な力がある。『動物使い』の才能の副産物として、俺の目を直に見た生物は皆恐怖に囚われ動物は従い、人間は震え上がってしまう。
 一見チートに見える力だが、嬉しい事に弱点も多い。サングラスをかける事で魔眼の力を封じ込める事が出来るのだ。
 だから俺にとってサングラスは目の一部と言っても過言では無かった。
 初めは暗い所ではつかいづらかったが、今では暗い所でもはっきりと姿が見える。

ペンシ「良かった、ケシゴ!
 無事だったんだな!」
ケシゴ「ペンシ・・・落ち着け、状況が分からない。少し立ち上がって・・・ぐ!?」

 横になっていたので立ち上がろうと力を入れると、腹部に鋭い痛みが走った。
 見ると、見覚えの無い包帯が腹部に巻かれている。俺は眉をひそめたが、すぐに思い出した。

ケシゴ「そうだ、俺はあの時妖精みたいな変な奴に槍で腹を刺されていたんだっけな・・・ペンシが包帯を巻いてくれたのか?」
ペンシ「いや、私が目を覚ました時にはもう包帯は巻かれていた。
 あまり動くなケシゴ。状況は私が説明する」
ケシゴ「ああ・・・」

 ケシゴは立ち上がりそうになった体を傾け横になろうとして、軟らかい物が後頭部に当たるのを感じた。
 それはペンシの膝だと気づくのに数秒時間がかかった。
 ついでに長い黒髪の中でペンシが少し顔を赤くしてるのも気付いた。

ペンシ「・・・・・・」
ケシゴ「・・・・・・恥ずかしいなら止めてもいいんだぞ」
ペンシ「何を言う!じょ、上司を労るのも部下の仕事なんだぞ、馬鹿者が!」
ケシゴ「・・・分かった、分かったから静かに説明してくれ」
ペンシ「あ、ああ・・・。
 私達はどうやらあの戦いの後、敵に拉致されたようだ」
ケシゴ「敵・・・ナンテ・メンドールの事だな」
ペンシ「ああ・・・」

 ペンシは複雑な表情でその事実を確認する。当たり前だ、あいつは俺達の上司なんだからな。しかしペンシの話では『ナンテ・メンドール』は多数存在し、それが世界中の組織を裏側から操っているのだという。
 光景無糖な話と笑いたいが、世界中の組織が一つの船を内側または外側から襲い掛かってくるという恐怖を感じた今、それを幻想だと笑うことが出来ない。
 俺はペンシに話を進めさせるよう促した。あまり深く考えたくなかった。

ペンシ「問題はこれからどうなるか、だ。
 装備や衣服に何も異常は見られず、ケシゴを治療し、ここに幽閉している。
 奴等は私達を人質にするつもりなのだろうか」
ケシゴ「ちょっと待て。幽閉?
 ここは何処なんだ?」
ペンシ「・・・牢屋だよ、ケシゴ」

 ペンシが右に目を向ける。俺もそれに倣って目を向けると、そこには古びた鉄格子の姿が映し出されていた。
 その向こうには蝋燭に照らされた石畳の廊下が見える。

ペンシ「私の力ならあの程度壊せない事は無い。だが怪我をしたケシゴを残す事は私には出来ない。
 だから貴方が目を覚ますまでずっと待っていたんだ」
ケシゴ「そうか・・・だが、俺達が目を覚ました以上、やることは決まってる」

 俺は腹部の痛みを我慢しながら立ち上がり、鉄格子を睨み付けながらサングラスを掛けなおす。

ケシゴ「俺達は獣だ。この身勝手な檻を壊し、悪い奴を捕まえる。
 それが俺達の仕事だ。ペンシ、この檻を壊せ」
ペンシ「了解」

 ペンシが立ち上がり、鉄格子を睨み付ける。そこに先程までの怯えた女性の姿は無い。ペンシの力は『武道の天才』。
 細い腕の中には鉄を簡単にへし折る力がみなぎっている。

ペンシ「ハァッ!」

 そして今、その拳で鉄格子をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。吹き飛んだ鉄格子は廊下を横切り、壁に当たって激しい音と共にバラバラに砕け散る。

ケシゴ「良い仕事だ、ペンシ。
 さあ出口を探すとしよう」
ペンシ「ああ・・・む?
 ペンシ、これを見ろ」

 ペンシが俺を、俺が出た牢屋の壁に貼ってある紙に目を向ける。
 俺も紙を見ると、こう書いてあった。


*全人類均一化計画実験体No.65728596 No.65728597の檻。
 全人類均一化計画とは他者を自分に変える魔術を用い、全人類を均一化させる計画の事である。
 現在大量に仕入れてきた実験体を用い、新たな実験を始める。その実験が終了次第No.65728596、No.65728597を用いた実験を開始する。



ペンシ「65728597・・・これは私達の事か?」
ケシゴ「大量に仕入れてきた実験体・・・恐らく、あの戦いに敗北した兵士達の事だろうな。
 だが実験、か。それが俺達を拉致した理由となると、急いだ方が良いな」
ペンシ「ああ・・・」

 俺は紙を一睨みした後、廊下をキョロキョロと見渡す。
 廊下自体は壁に掛けられた松明がオレンジ色に照らしてくれる為に程よく隠れやすく動きやすそうである。
 もし敵が来ても直ぐに対処できそうだ。
 だがどちらに行けばいいか分からない。
 そんな時、目印があればとても楽なのだが、生憎手持ちは何もない。

ペンシ「私が目印を作ろう」

 ペンシがそう言うと同時に拳で石畳を殴り付け、拳の形を作る。
 確かにこれなら目印にはなるが、斬新な目印が出来たものだ。

ケシゴ「ペンシ、数メートルおきに壁に殴れ。ここは何処に何があるか分からんからな、目印は短い間隔の方が良い」
ペンシ「了解」

 そう良いながらペンシは壁を殴り目印を残す。これで迷いそうになった時はこの跡を辿れば良いだけだ。
 ひとまずの安心感を覚えた後、俺達は暗い廊下を歩き始めた。

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


 廊下を出て一時間経っただろうか。
 自分の足音と拳が壁を殴り続ける音以外何も聞こえない。
 幾つかの十字路を見つけては適当に決めて歩いてはいるが、同じ道にぶつかったり行き止まりだったりと中々先に進めない。
 完全に迷子状態だが、牢屋に戻るつもりも無かった。
 ペンシは何度も何度も壁を殴ってはいるが疲れた様子は無い。流石体育会系の才能に恵まれただけの事はある。
 俺は手頃な石を幾つか拾いながら歩いていた。敵と遭遇した時、武器は多い方が良いからだ。
 そして、廊下を歩き始めて何度目かの拳の跡を見つける。また同じ道にぶつかったようだ。

ケシゴ「む、ここに殴った跡がある。
 また通った事がある道にぶつかったか」
ペンシ「迷宮の中、というのは息がつまるな。早く出口を見つけたい所だ」
ケシゴ「全くだな・・・まて、あそこに松明が落ちてる」

 俺のサングラス越しの目に松明が落ちていた。ちょうど持つ部分に布が巻かれているから熱さも伝わりづらい。
 
ケシゴ「ちょうど良い、明かりが一つでも欲しかった所だ、拾うとしよう」

 そう言いながら俺は歩くフリをした。
 わざとらしく足音を大きくし、暗闇の様子を伺う。
 暗闇の先に、何かが動く気配がした。俺はそれの足元めがけて石を投げる。
 石は上手いぐらいに床に落ち大きな音を立てる。闇の中に潜んでいた向こう側からは突然足元から大きな音が聞こえ、一瞬意識を足元に向けた筈だ。
 その瞬間、機を伺っていたペンシが走りだし影の中に潜む者に向かって走り出す。
 ペンシと影の中の誰かがぶつかり、争う音が廊下に響く。
 俺は周囲に気配が無いか確認してから落ちている松明を拾い上げる。
 そしてペンシの方に声をかけた。

ケシゴ「動くな。
 お前は何者だ」

 ケシゴが松明でペンシを照らす。
 先程のとっくみあいで体中が埃だらけだ。更に先程の取っ組み合いのせいか体中に小さな傷が見え、先程までの取っ組み合いのせいなのか黒髪に白髪が混じり、先程までの取っ組み合いのせいなのだろうか、服がボロボロになっていて・・・。

ケシゴ「なん、だ・・・?
 この違和感は?」

 いやおかしい。先程までの取っ組み合いはそんなに激しく無かった。
 音だけでは2、3発殴っただけの筈だ。
 だが目の前の松明に照らされているペンシはまるで長い間戦い続けたかのように体中がボロボロになっている。

ケシゴ「なんだ・・・ペンシ、どうしたん」
ペンシ「ケシゴ、どうした?」

 俺の横にペンシが現れる。
 驚きながら振り返ると、そこには全く怪我も埃もない、ついさっきまで後ろにいたペンシの姿が見えた。
 そのペンシも、倒れている人の姿を見て目を丸くしている。
 
ペンシ「な!?何故私がここにいるのだ!?」
ペンシ?「・・・ゥ・・・ケシゴ・・・?」
ケシゴ「動くな」

 俺はあくまで冷静に対処した。
 目の前にいるペンシそっくりの奴はペンシの偽物だ。たとえ傷ついても何をしてくるか分からない。

ケシゴ「お前は何者だ、俺達を閉じ込めた奴なのか?」
ペンシ?「・・・ヘヘ。
 良かった・・・・・・最後の最後に、貴方に会えた・・・」
ケシゴ「もう一度質問する。
 お前は誰だ?」
ペンシ?「獣だ、その獣の目。黒い眼鏡の奥に隠しても消せないその輝き!
 私は、私はその目に憧れた!その目と共に戦った!救われた!
 素敵だ、なんて素敵なんだ!」
ケシゴ「・・・・・・」

 俺は足を上げる。ペンシに良く似たこいつはペンシそっくりの声でペンシそっくりの顔で笑っている。
 その姿があまりに気持ち悪くて、腹立たしくて、右手を踏みつけて黙らせようと思ったからだ。
 だがその足を降り下ろす直前、ペンシの首に縄が絡みついていく。

ケシゴ「!?」
ペンシ?「ひっ!?あ、ああああああ"ッ!!」

 縄に絡まった首がペンシに良く似た女を強く縛り上げていく。女は絶望の表情でこちらを見る。その目が「助けて」と懇願し手を伸ばす。
 俺の獣の心が一瞬で消え、思わず手をや伸ばし、手を繋ぐ。
 だが、次の瞬間にその手は消えた。その女の姿ごと、闇の中に姿を消してしまった。
 そして悲鳴が一瞬だけ聞こえ、ボキリと何かが折れた音が響いたあと、何も聞こえなくなった。
 俺の手には一瞬繋がれた手の間隔が残り、闇に対しての恐怖が膨れ上がりそうになる。
 何かがいる。人を簡単に殺せる何かが闇の中に潜んでいる。
 俺はサングラスを外そうと手を顔に伸ばそうとしたが、それより早くペンシが俺の手を掴んだ。

ペンシ「急げケシゴ!
 逃げるんだ!」
ケシゴ「ペンシ!だが奴を倒さねば!」
ペンシ「違う!
 アレは私達が戦っちゃいけない奴なんだよ!」

 ペンシは必死に俺の手を引っ張り、何が蠢く方向とは逆方向に走り出す。
 いつもなら考えられない事だった。誰よりも敵と戦いたがるペンシが逃げ出すなんて、今まで長い付き合いで働いていたが一度もそんな事は無かった。
 俺は思わず訊ねた。ペンシは先程闇の中でペンシそっくりの奴と戦った。
 その時に何かを見たのではと推測したからだ。

ケシゴ「おい、あの闇の中に何がいたんだよ!」
ペンシ「お前だよ!ケシゴ!
 ひどく年老いたお前が立っていたんだ!」
ケシゴ「何!?」

 俺は驚いて後ろを見る。もう片方の手に握られていた松明の明かりが廊下をオレンジ色に照らし出す。
 そこにはペンシが言った通り、俺そっくりの奴が立っていた。
 髪は白髪ばかりな上に皺も沢山あり服はボロボロになってはいるが、その老人の顔は間違いなく俺の顔をしている。
 そして、右腕には首をだらんと背中に曲げたペンシの姿が見えた。

ケシゴ「く、く・・・!くそぅっ!」

 俺はあの男から背を向け逃げ出した。あれが誰かなんてどうでもいい。あれが俺の大切な仲間と同じ顔をした女を殺した事さえ、今はどうでもいい。
 あれに近づくのは危険な気がする。
 あまりに曖昧な感覚だが、それが確かに腹部を傷つけられた俺を走らせていた。
 走り、走り、走り続ける。
 あれに追い付かれたら殺される。それが俺を走らせていた。
 何分、何十分と走り続け、ようやく立ち止まり、俺は息をきらせながらペンシに声をかける。

ケシゴ「ペンシ!
 大丈夫か!」
ペンシ「大丈夫だ!奴は追いかけて来る気は無いみたいだな」
ペンシ「ひとまずは安心という事か、本当に危ない所だった。
 ケシゴ、さっき肩が刺されたみたいだが大丈夫か?」
ケシゴ「肩?いや刺されては」

 ない、と言いそうになり俺は言葉を引っ込める。何故ならそこにはペンシそっくりの女性が横にいたからだ。
 俺が手を繋いだペンシと違い、白いスーツのあちこちに赤い染みがついている。
 手を繋いだ方のペンシがもう一人のペンシに気付き、息を呑む。
 だがそれは向こうも同じようで、顔を青くしながら震える声で訊ねてきた。

ペンシ?「お、おい・・・お前、ケシゴ、だよな?白岩ケシゴ・・・」
ケシゴ「そうだ、お前は・・・ペンシ・ミズーリなのか?」
ペンシ?「そうだ・・・そうか、お前はまだ来たばかりの私達、なんだな?」
ケシゴ「まだ来たばかり、だと?
 それはどういう・・・」

「ケシゴ!」「ペンシ!」「良かった!探したんだぞ!」

 不意に、あちこちから声が聞こえてくる。それも全部聞きなれた声だ。
 俺が松明を向けるとそこには沢山の俺とペンシがいた。
 皆体が傷だらけだったりボロボロだったりしている。精神が壊れたのか涎をだらだら流しながらうろついている俺の姿まであった。
 俺は恐怖を感じながら、松明を掲げて辺りを伺う。
 どうやらここは広い空間らしく、目の前には沢山のペンシとケシゴが笑ったり泣いたり狂ったりしたりしている。
 頭が狂いそうになるのを抑えるように、ペンシの手を強く握りしめる。
 今、この瞬間からペンシの手を離してしまえば、二度と俺と共にいたペンシがいなくなる気がしたからだ。
 それはどうやら向こうも同じようで、痛みを感じるほど強く握り返してくれた。
 俺は震える声で、何十人もの俺に訊ねた。

ケシゴ「一つ確認したい。
 お前達は一体誰なんだ・・・?」

 それがこの状況でどれ程愚問だったと気付いたのは、少し後だった。あれだけ騒いでいた何十人もの俺そっくりの男こちらを向き、一斉に叫ぶ。

ケシゴ?「決まっている!「分からないのか!?」「俺だ!俺こそが」「両耳かっぽじって良く聞くが良い!」「俺は」「俺が」「俺こそ」「おぅれがああ」「俺」「が」」
「「「「「「白岩ケシゴだ!」」」」」」「「「「「「「「違う!」」」」」」」」
「「「「お前達は偽者だろうが!」」」」
「黙れ!」「貴様」「死ね」「殺してやる」「失せろ」「邪魔だ」「くたばれ」

 もっと、もっと沢山の罵倒が聞こえた筈だった。だがそれは殴り付ける音や切り裂く音や血しぶきや悲鳴でかきけされていく。
 それを見た沢山のペンシが必死に止めよとして・・・。

ペンシ?「ケシゴから離れろ、偽者があ!」「貴様が偽者だろう!」「ふざけるな、お前こそ偽者だ!」「馬鹿者が!」「失せろ偽者が!」「私のケシゴこそ本物だ!」
「お」「前」「が」「偽」「者」「だ」
「「「「「「馬鹿者共がぁ!」」」」」」
 
 違った。止めようとしてるのではなく、本物のケシゴを助ける為に偽者を殺そうとしているのだ。
 殴り合う音や血が吹き出る音は更に大きくなっていく。
 すぐ側で手を繋いでいるペンシが顔を青くしながら呟く。

ペンシ「私が、私が私を殺し合ってる・・・!私が、私が、私が」
ケシゴ「ペンシ!ペンシ!しっかりしろ!く、逃げるぞ!」

 俺は急いで逃げ出す。だが背後には一人だけになったペンシや俺がついてきた。

ペンシ?「待て、私も連れていけ!
 こんな所で一人は嫌なんだ!」
ケシゴ?「俺もだ!
 こんな異常な状況下で一人になるのは危険だからな!」
ペンシ「ケシゴ、奴等ついてくるぞ!」
ケシゴ「く、走れ!走るんだ!」

 迷路の中を再び走り始める。治療した腹部から痛みが広がり始め、白い包帯が赤く汚れていく。
 傷口が広がり始めたのを感じながら、それでも立ち止まる訳には行かなかった。必死にペンシの手を掴み、一生懸命走り続けている。
 松明の灯りと篝火により暗い廊下が照らされ、沢山の足音が響く。
 走り続ける途中幾つも十字路に遭遇し、それを全て無視して走り続けていく。
 ちら、と振り返ると走り抜けた十字路の横から沢山のペンシとケシゴが現れるのが見えた。

「ギャハハハハハハ!」「まて!」「食わせろ!」「飯だぁ!」「肉をよこせえええええ!!」

 ただしそちらは後ろを走り続ける俺達よりも汚れていて、目が血走り、サングラスをしていない俺がこちらを睨みそうになる。
 俺は慌てて松明を投げ捨て、サングラスを外し、ペンシに無理矢理サングラスをかけさせる。これでペンシが『俺』の魔眼の脅威に晒される事は無い。

ペンシ「ケシゴ!?一体何をする気だ!」
ケシゴ「説明は後でする!今は前だけを見ろ!何も見るな!知ろうとするな!走れ!」
ペンシ「ケシゴ・・・」
ケシゴ「俺が引っ張るから安心しろ!走れ、走るんだ!」

 俺は松明を拾いまた走る。 
 その後ろで沢山の俺やペンシが殺されたり恐怖の悲鳴を上げていくのを聞いた。
 直感で分かる、あれは壊れてしまった自分達なんだ、あれは俺達を殺す事になんの躊躇いもないという事を。

「いやあああああ!」「死にたくないしにたくな」「飯だ!飯が来たぞぉ!」
「あっちに飯の山があるぞ、急げぇ!」
「待てよ、逃げた奴も頂こうぜええ!」「やめろ、やめろやめろやめろおお!」
「同じ俺同士だろ!?なんでこんな事を・・・ぎゃっ!?」
「ケシゴォ!助けて!助けてえええええ!」
「待てよ飯!止まりやがれぇ!」

 背後から何十人もの走る気配がする。それが先程までついてきた奴か、狂った奴が追いかけて来てるのか見たくない。
 仮に振り返り、サングラスを外した俺の目を見た時、恐怖に囚われたらその瞬間おしまいだ。
 俺は汗を流しながらペンシと共に走り続ける。ペンシもサングラスをかけたまま、ずっと走っている。
 走り、走り、走り続け、ある角を曲がった時に壁に人が一人入りそうな穴が、松明に照らされて発見する。
 俺とペンシは何も考えずにそこに飛び込み、松明の灯りが漏れないように隠す。
 何十人もの足音と悲鳴が響き、何十人もの笑い声と、何かを引きずるような音が響いた後、耳が痛くなるような静寂が俺達を支配した。
 俺は息をきらせながら、ペンシの様子を確認する。サングラスを通さずに見たペンシは、体をわずかに震わせながらも俺の手を繋いだ手をじっと見ていた。
 俺は一息ついた後、「大丈夫か」と声をかけようとして、

「大丈夫か、若者達よ」

 空間の奥から俺そっくりの声が聞こえてきた。俺は急いで立ち上がり、松明を声の方に向ける。だが空間はかなり広く、松明の灯りの向こう側にいるのか姿が見えない。

ケシゴ「何者だ!」
「その質問はもうしない方がいい、若者よ。でないと皆無意味に死ぬだけだぞ」
ケシゴ「何故ここにいる!」
「それにも答えられないな。俺は気づいたらこの迷宮にいたんだから。
 だがサングラスは必要ないぞ、俺はその力は無い」

ザッ、ザッ、と闇の中から誰かが歩いてくる音が響いた。俺は松明を握りしめ、音の方を睨み付ける。
 やがて松明の灯りの前に立ったのは、やはり俺と同じ姿をした男だ。
 だがその目は無く、代わりに酷い火傷が顔半分を覆っていた。

「俺の事は、そうだな。
 ドールマンとでも呼んでくれ」
ケシゴ「ドールマン・・・」
ドールマン「先ず、誰がこの状況を作り上げたか教えるとしよう。
 ナンテ・メンドール。
 あのイカれた大量の学者共が、この状況を作り上げたんだ」


続く!

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