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2016年04月26日01:49

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映画 ”孤独のススメ”  ”グランドフィナーレ”

クライマックスでの音楽が感動的という2作を新宿でハシゴ。
結果、それ以外にもいろいろ共通点があり、共に素晴らしい作品でした。

”孤独のススメ”

オランダの片田舎、毎日規則正しく一人で暮らすフレッド。
妻を事故で亡くし、息子とも音信不通、人付き合いも避けて生活していた彼の元に、
言葉も過去も持たない男テオが現れる。
信仰心の厚いフレッドは行くあてのない彼と仕方なく共同生活を始める。
亡き妻の服を着たり、ヤギや子供たちとすぐ仲良くなる自由奔放なテオ、
そんな才能を利用して二人で裕福な家庭の子供達のホームパーティでの余興を始める。
次第に人気が出始め生活に張り合いも生まれ、お金も入るようになり、
フレッドは妻との思い出の地マッターホルンへの旅行を思いつく。
しかし日曜の礼拝にも参加せず余興に精を出すフレッドや得体の知れないテオに
教会関係者や村人たちは彼らを問題視したりホモ呼ばわりし、テオを村から追い出そうとする。
やがて明らかになるテオの正体、フレッドの息子の行方、
隣人が必要以上に干渉する理由、そして最後のフレッドの選択は、、、、。

最後の感動的なマッターホルンとステージで歌われる
シャーリーバッシーの名曲”THIS IS MY LIFE”に、
その景色と歌に秘められた意味とが相まってすごく感動させられました。
そして孤独で殻に閉じこもっていたフレッドの
他人に左右されない純真なテオに影響されて選んだ道はまったく予想外のもので、
しがらみやすべての偏見を取り払って人間としての本能に従うことの素晴らしさを
味わうことができました。

初めて見るオランダ映画、物語の進行はカウリスマキ作品のように淡々としていて、
二人の噛み合わない生活にユーモアを感じます。
そして終盤、あれよあれよとその予想外の結末に向け
ストーリーが転がっていく様は見事でした。

フレッドの地味な生活によりそうようなバッハの静かな曲、
テオの余興でフレッドが歌う童謡、登場人物各々の心の叫びのようなエンディングの歌、
そんなタイプの違う音楽がフレッドの心の変化を表しているようで印象的。
一面の畑の中を走る黄色いバス、積み木のような家といった、
今まであまり映画で見ることもなかったオランダの田舎のやわらかな色彩も
温かみがあってよかっです。

フレッド始めこの村の住人は毎週日曜に教会に行き、
大声で賛美歌を歌う信仰心の厚い人たちです。
でもテオという異質のものが現れたら、さっきまで隣人を助けよ!言ってたにもかかわらず、
泊めることを嫌がり、村から排除しようとする。
そんな排他的な宗教心や閉鎖的な村にすごく違和感を持ちました。
異教や教えに従わない人間は悪魔だといって排除・処刑する、同性愛を受入れない、
他の党の人間を政策論争ではなくアホといって攻撃、外国人へのヘイトスピーチ然り、
一つの意見の違いだけで、何故相手の全人格を否定するのでしょうか?
相手にも良い面、共通する考えや立場が一つはあるはずなのに。
同じ性、同じ人間、同じ世代、同じ親という立場、
同じ街・国を愛する、同じ地球の生き物。
なのに少しの違いで何故に鬼の首とったように敵対するのか?
ちょっと、そんなことを考えさせられました。

その答えの一つがこの映画のいう”孤独のススメ”なのでしょうか。
他人に左右されず、例え仲間がいなくて”孤独”だとしても正しい道を”ススメ”。
なのでタイトルの”孤独のススメ”だとちょっとニュアンスが違うような。
ちなみに原題は”マッターホルン”、これはこれで大雑把すぎるし。
”孤独でもススメ”、意味的にはこうなんでしょうが。

多数が良しとされる今の世の中だからこそ、”孤独のススメ” 
そんなこだわった生き方こそが人生、”THIS IS MY LIFE”.
ということでしょうか。
いい映画です。

https://www.youtube.com/watch?v=mRQzmpiIWf8






“グランドフィナーレ” パオロ・ソレンティーノ監督

世界的に名の知れた英国人音楽家フレッド、80歳の今では音楽活動を引退し、
セレブが宿泊するアルプスの高級ホテルで優雅なバカンスを送っている。
長年の親友で映画監督のミックも現役にこだわり続け若いスタッフたちと
新作の構想を練るために滞在している。
そんな中、英国女王からフレッドの代表曲の指揮の依頼が舞い込むが、
何故か頑なに、”個人的な”理由で断る。
毎夜繰り広げられるホテルの音楽アトラクション、食事、温水プール、サウナ、
マッサージ、高原や山の散策。そしてマネージャーを兼ねたフレッドの娘、
休養と新たな役作りで訪れたハリウッドスター、受賞のご褒美でやってきたミスユニバース、
往年の有名なサッカー選手などホテルに集う人々とのおだやかな交流の日々。
そんなある日突然、ミックと長年コンビを組み次回作にも出演予定だった老女優が
あることを告げに来た、、、。

とにかく映像が瑞々しくて官能的で綺麗。 
前作の”きっとここが帰る場所”(12/7/1日記参照)も綺麗だったけど、
今作は雄大なアルプスの山や高原の風景、美しく趣きのあるホテルの建物や部屋、
プールの水の揺らめき、夜のアトラクションといった
素材自体が美しい物が揃っていてなおさらです。

そしてマイケル・ケインとハーベイ・カイテル、老優二人の深みのある演技が見事。
なにげない会話でも画面に引き込まれます。
方や音楽を引退した寂しさ、方や現役に拘るもいいものが作れないあせり、
それらを絶妙に見え隠れさせたり、硬軟交えて素晴らしいです。

中盤までは映像と登場人物の会話を楽しむ感じです。
体の不調話(特におしっこの量)、若い頃の女の取り合いといったくだらないのもあれば、
人生の意味や後悔、創作への思いといった示唆に富む話まで。
終盤、ジェーン・ホンダ扮する老女優が嵐のように現れて、物語をかき回します。
そこからミックの思いがけない選択、からのフレッドの決断と禊、
そしてラストのフレッドの名曲”シンプルソング”(アカデミー主題歌賞ノミネート)は
予想通り大感動でした。(実在の著名なオペラ歌手出演による熱唱が見事。歌詞も)
いや〜気持ちのこもった音楽・演奏の力はやはり凄い、目頭が熱くなりました。

最後の歌だけでなく全編いい音楽、いい音にあふれてました。
クラッシクからビートの効いたポップス、夜のアトラクションでのアコースティック音楽
(こういう場所でゴンチチを聞きたい)、エンドクレジットでのミニマムなアカペラ、
少年がバイオリンで練習中の”シンプルソング”、フレッドがキャンディの包み紙をすり合わせる音、時間を告げるホテルのベル、鳩時計の合唱、
そして感動的な牛の鳴き声とカウベルと木々の揺らぎと鳥の羽ばたきのハーモニー。

老優二人の話だけでなくフレッドの娘の父への複雑な思い、
特撮もので売れたハリウッドスターの屈折といった話もいいアクセントになってました。
マラドーナもどきや仏教僧、歯を矯正中のマッサージ嬢、若い脚本家達なんかも印象的。

この映画のメッセージは老い、それによる諦念や人生の後悔に対して、
生きることや創作への欲求を忘れず、幾つになっても人生を愛せるのだ、
前を向いて生きれるのだ、ということでしょう。
例えその理由が、ミスユニバースの裸を見て老いても恋をまたしてみたいとか、
老女優がお金のために仕事をするといった下世話のものでもいい。
そして誰かの犠牲が伴ったものだとしても、それをも乗り越えてゆかなければいけない、
フレッドの決意はそういうものでした。
要は立ち止まってはいけない、それこそが原題である”YOUTH”、永遠の若さである。
なのでタイトルは”グランドフィナーレ”ではなくて、”RE スタート”のほうがよいのでは。

ということで映像と音楽を堪能し、
来たるべき”老い”への向かい方を示唆してくれた素晴らしい作品でした。
ただ、時折フレッドが”なにわのモーツァルト”キダ・タローに見えたとは口が裂けても言えません。

https://www.youtube.com/watch?v=6oF_Q2E6_co




というわけで二つの作品とも、最後の音楽で感動するだけでなく、
主人公の名前がフレッド、スイスが重要な舞台つながり、
そして他人や年齢に関わらず自分の道をすすむことの大切さを歌いあげてくれました。
いいハシゴ映画の1日でした。


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