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2016年02月16日13:44

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北が進める「核抑止」の次の段階…ワシントンに「キノコ雲」 防衛大学校教授・倉田秀也

 下記は、2016.2.16 付の産経新聞の【正論】です。

                        記

 米国防総省によると、北朝鮮が人工衛星運搬ロケットと呼ぶ弾道ミサイルが、宇宙空間に達したという。実験であるから分離されたロケットが海上に落下するよう南方に発射しているのであって、朝鮮半島が戦争状態に陥り、北朝鮮が米本土を核ミサイルの標的にするときは最短距離の北極圏を掠(かす)めるべく北方に向けて発射される。

 巷間(こうかん)伝えられるように、今回の弾道ミサイル発射が、先月6日の「水爆」実験に続いて、5月に予定される朝鮮労働党第7回党大会を演出する目的があったことは否定しない。だが、北朝鮮が構築しようとする対米「核抑止力」がどの段階にあるのか、改めて冷静に考えておかなければならない。

 《「最小限抑止」の構築めざす》

 北朝鮮が当面構築しようとする「核抑止力」態勢は、核戦力では劣位に立つ側が第1撃を受けたあと、核戦力による第2撃で報復する「最小限抑止」である。その第2撃は米国と核戦争を戦い抜くためではなく、その字義通り、ワシントンに「キノコ雲」を立たせることで、米国に第1撃を躊躇(ちゅうちょ)させる最小限の核戦力でよい。

 今回発射されたのは、2012年末、東倉里の衛星発射場から発射された「銀河3」を改良したものとみられる。韓国国防省は、弾道ミサイルの射程について、最長の1万2千キロに達するとの見解を示した。これは、北朝鮮とワシントンまでの最短距離を超える。北朝鮮は米国に対する第2撃能力の一つの要件を手に入れつつある。

 確かに、弾道ミサイルが米本土に到達することと、核弾頭を着弾させることは同義ではない。北朝鮮が米本土に確実に着弾させるには、越えなければならない技術的な問題は残されている。

 着弾には、核弾頭を覆い、大気圏に再突入で生じる高熱に耐えうるノーズ・コーンが必要であるが、北朝鮮がその開発を怠っているはずはない。今後ありうるのは、3段目をあえて軌道に乗せず、大気圏に再突入させ、目標に落下させる実験であろう。

 《秘匿化する第2撃能力》

 「最小限抑止」に必要とされるのは、米本土に核ミサイルを撃ち込める能力だけではない。米国から核による第1撃を受けても核戦力が確実に生き残らなければならない。しかも北朝鮮は、米国が第1撃で北朝鮮の第2撃能力を破壊しようと飽和的な攻撃を行うと考えれば、北朝鮮は第2撃能力を秘匿しつつ、直ちに報復できる態勢を整備しなければならない。

 すでに日本を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」の多くは、移動式発射台に搭載されている。さらに、北朝鮮は昨年5月に初の「戦略潜水艦弾道弾水中試射」に成功したと報じ、「水爆」実験と前後して同種の実験を行っていた。それは米国の第1撃は海底には及ばず、確実に第2撃能力を温存できると考えたからに他ならない。もとより、北朝鮮が現有する潜水艦に弾道ミサイルを装填(そうてん)して発射したとは考えにくいが、「水爆」実験と並行して潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発に着手していること自体、北朝鮮が第2撃能力を秘匿化する必要性を認識していることを示している。その限りで、北朝鮮は「最小限抑止」に忠実といってよい。

 《失われる北の「自己申告」》

 インド、パキスタンなどの後発の核保有国と比較してみて、北朝鮮の核・ミサイル開発の際立った相違点は、その過程で行われた実験の多くが、事前に通告されてきたことである。これは、北朝鮮が核・ミサイル開発を対米取引に使っていたことの証左でもある。筆者はかつてこれを「自己申告性」と呼んだことがある。

 現在も北朝鮮が対米協議を望んでいることは確かであろうし、党大会以降、何らかの対米取引を試みるかもしれない。しかし、北朝鮮が米国に対し、核兵器を「取引の具」ではないと公言して久しい。そこで北朝鮮が、これまで積み上げた第2撃能力を切り売りしてまで、米国との合意を望むとは考えにくい。

 北朝鮮が対米取引よりも第2撃能力をもつことを優先したとき、特段の「自己申告」をしないまま、核実験、弾道ミサイル発射を行うであろう。先月の「水爆」実験が予告なく行われたのは、その兆候とみるべきかもしれない。

 今回の弾道ミサイル実験も以前と同様、地上にむき出しになっている実験施設で行われた。米国は衛星で発射台の建設、液体燃料の注入の過程を確認し、その間自衛隊もイージス艦を展開し、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を輸送した。だが、日米韓側に対応準備の時間的猶予を与える実験がこれから何年続くだろうか。

 北朝鮮が「最小限抑止」に忠実である限り、その長距離弾道ミサイルも、中国の長距離弾道ミサイル「東風31」と同様、やがてサイロに格納されるか、移動式発射台に装填される。その燃料も発射の度に注入する液体燃料から、即時発射が可能な固体燃料への転換も試みられているに違いない。そのとき、今のミサイル防衛体制がそれに対応できるとは考え難い。(くらた ひでや)

 http://www.sankei.com/column/news/160216/clm1602160008-n1.html
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