先日、表参道での仕事帰りで駅に向かっていると、交差点近くの瀟洒なショーウィンドーの前に犬を連れてたたずんでいる男性を見かけた。
彼は見たところ五十代くらいで、映画『シザーハンズ』でジョニー・デップが着ていた(この言い方はほんとうは正確ではない。あの映画での彼の役はアンドロイドだかなんだかで、あれが洋服だったのか、それとも洋服を模しただけの機械的装備品なのかは言及されていなかったから)ような黒っぽい、質感がラバーのような不思議な上着を着ていた。髪型もどうやら最新流行のものらしくみえた。もしまだこの世界に「最新流行」なんてものが存続しているのならば、だが。
連れていた犬も洋犬だが、ピレネーでもドーベルマンでもマスチフでもボルゾイでもない、大型犬ということくらいしかわからない不思議な犬だった。
その未来人のような男と犬を見ていて、ふとこう訊ねたくなった。
「えーと、あなたは、ほんとうに、そんな暮らしを望んでいるのですか?この先には、なにを望んでいるのですか?あなたの行き先は、どこなんですか?」
そこまで考えて、自分もその質問には答えられないことに気が付いたので、黙ったままその場を去った。
DATA:Leica M6 Summicron 50/2 Kodak Tri-X 400 f5.6 1/250
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