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2016年01月30日14:50

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ムーティ&シカゴ交響楽団

【プログラム】
1 ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 Op.67 「運命」
       〜〜〜休 憩〜〜〜
2 マーラー: 交響曲 第1番 ニ長調 「巨人」

リッカルド・ムーティ(指揮)
シカゴ交響楽団

2016年1月18日(月),19:00〜,東京文化会館


ムーティとシカゴ交響楽団(CSO)による日本公演第1日目を聴いてきた。ムーティはCSOの団員に請われて,2010年に第10代音楽監督に就任。CSOは今年で創設125周年の節目の年を迎える。CSOのステージを初めて聴いたのは,7年前バレンボイムとの日本公演。こってりしたメタボ・サウンドに辟易した。今回はCSOの機能美を堪能でき,その意味では満足している。

だが,第2日目のプログラムを聴くべきだったのではないかと少し後悔しているのも事実だ。2日目は,プロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」,ヒンデミットの「弦楽と金管のための協奏音楽」,チャイコフスキーの交響曲第4番。演奏曲目の前半には,比較的ユニークな曲目が並んでいる。なぜこのような選曲になったのか訝しく思ったが,あまり深く考えずベートーヴェンの交響曲第5番とマーラーの交響曲第1番の組合せを即決で選んだ。2日目のプログラムの意図するところを察知するべきだった。

あらかじめ予想されたことではあるが,この日の曲目の中ではマーラーの「巨人」が断然面白かった。そうであれば,第1日目よりも技巧的で色彩感の強い曲目,プロコフィエフの「古典交響曲」,ヒンデミットの「協奏音楽」,チャイコフスキーの交響曲第4番の組合せの方がムーティとCSOの持ち味を堪能できたのではないだろうか。ムーティといえばスカラ座の音楽監督のイメージが強く,フィルハーモニア管やフィラデルフィア管のシェフを務めていたことを失念していた。明るく華やかな音楽を志向するムーティの一面を見逃していたことが,プログラムの選択ミスにつながってしまったのだろう。

やはりCSOは機能性に優れたオーケストラだ。とりわけ,管楽セクションの巧さは世界一といっても差し支えないのでは。マーラーの交響曲第1番の冒頭,3本のトランペットがステージの裏で演奏するファンファーレの見事なこと。トランペットにしては希有なほどの柔らかさ,それでいて金管楽器特有の輝かしさをも兼ね備えた,惚れ惚れするようなバンダだった。また,第4楽章で大活躍した8本のホルンの一糸乱れぬアンサンブルも圧巻である。トランペットと同じく柔らかで輝かしい音色のホルン・セクションは,余裕を持って軽々と吹きこなすテクニックを持ったヴィルトゥオーゾを8人も揃えていることに驚く。他の管楽器も柔らかさと輝き,そして他のオケの追随を許さない高度なテクニックが光る。さらに,一糸乱れぬアンサンブルを誇る弦楽セクションの文字通りビロードのような柔らかく滑らかな質感は魅惑的ですらある。この点は,ショルティ時代から変わった点か。

とはいえ,ベートーヴェンの交響曲第5番はやや物足りなかった。CSOのゴージャスで輝かしいサウンドも,ムーティのイタリア・オペラのような歌わせ方も,作品の表面をただなぞっているようにしかきこえない。そもそも,この作品の演奏の推進力となるべきパッション(情熱)が不足しているのだろう。ベートーヴェンの闘争的な音楽が不完全燃焼を起こしているようにきこえる。CSOとムーティのコンビは,マーラーに限らずベートーヴェンでも,豪奢なサウンドと華麗な技巧を売り物にしたいのだろう。

この演奏を聴いていると,ベートーヴェンの交響曲の代わりに,R.シュトラウスの管弦楽作品を取り上げてくれればよかったのにと愚痴をこぼしたくなる。CSOとムーティが目指しているのは,ベートーヴェンやブラームスの作品のような作曲家の思いが込められた音楽ではなく,聴衆を幻惑させる豪華な響きと超絶技巧と断言して差し支えなさそうだ。これは米国の演奏団体や音楽家にありがちな傾向であり,アメリカ的な価値観を体現しているといってもいい。

ムーティがこうした傾向に歯止めをかけるだろうと期待していたのだが,多勢に無勢のためかCSOに押し切られた感がなくもない。たしかに,イタリア風の歌をオーケストラに要求していたのは事実で,そのことがある程度実現していたのも確かだ。だが,指揮者がオーケストラに歩み寄っていた節もある。とはいえ,ムーティもアメリカ風のスタイルがまんざら嫌いでもなさそうだ。

このコンサートを聴いて,個人的にどのような演奏が好みなのか,明瞭に自覚できたように思う。作曲家が作品に込めた思いと演奏家の表現意欲とが化学反応を起こすような音楽表現を演奏に求めているようだ。もちろん超絶技巧や輝かしい響きにも魅かれるが,そうした要素が作曲家の主要な意図である場合の話だろう。

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