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2016年01月14日23:41

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中国の未来を悲観的に見なければならない理由 農民を豊かにできなければ真の大国にはなれない

 下記は、2016.1.14付けの JBpress に寄稿した、東京大学 大学院 農学生命科学研究科 准教授 川島 博之 氏の論考です。

   川島 博之

   東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など

                       記

 20年以上にわたり奇跡の成長を謳歌して来た中国経済が曲がり角にある。2015年の第3四半期の成長率は6.9%、実態はもっと悪いとされる。年明けに株式市場が急落したことを見ても、中国経済が岐路に立つことは明らかであろう。

 今後、中国はどのような道をたどるのであろうか。新年にあたり、少し焦点を引いて、長期的な展望を考えてみたい。

 今後の中国は「農村」にかかっている

 中国の将来についてエコノミストの意見は分かれている。楽観派は、高度成長は無理としても1人当たりのGDPが8000ドル程度であることを考えると、年率数%の成長は可能と見る。それによって2025年頃には米国と肩を並べるようになると考える。

 悲観派は、中国の不動産バブルは深刻であり、その崩壊によって成長が止まると見る。日本ではそれをきっかけにして共産党支配が崩壊するとの予測に人気があるようだ。

 筆者は農業・農村から中国を見てきたが、今後、中国が成長を続けて米国をもしのぐ大国になるかどうかは、その農村政策にかかっていると考えている(「農業」政策ではない)。

 これまでにも何度も言ってきたことだが、中国を人口13億人の国と見ることは適切ではない。中国は都市戸籍を持つ4億人と、農民戸籍である9億人によって構成されている。そして、農民戸籍を持つ人の中の3億人が都市に出稼ぎに出ている。その多くは「農民工」と呼ばれ、工場で働いている。

 彼らを低賃金で働かせることによって、中国は安い工業製品を作り出すことに成功した。それが奇跡の成長をもたらしたが、その果実は都市戸籍を持つ人々が独占してしまった。日本に爆買いにやって来る人々は、ほぼ全員が都市戸籍である。

 工業による成長の限界

 今後、中国がより豊かな国になろうと思うのなら、奇跡の成長に取り残されてしまった農民戸籍を持つ9億人を豊かにする必要がある。だが、それは極めて困難な作業になる。

 農民工の賃金を無暗に上げることはできない。現在、農民工の月給は日本円にして6万円程度にまで上昇した。そのために、工場が中国よりも開発の遅れたベトナムやバングラデシュに移る動きか加速している。“China+1”である。これ以上、農民工の待遇を改善し続ければ、輸出競争力を失う。

 そしてより重要なことは、すでに多くの部門が過剰設備を抱えており、もはや工業によって国を豊かにすることができなくなってしまったことだ。

 このまま農民を農民工として働かせていても、一向に農工間格差を是正することはできない。この先、農民を豊かにするために残された道は、農村にサービス産業を起こすことだ。現在、どの先進国においても産業の中心はサービス産業である。

 一向に埋まらぬ戸籍格差

 そのような目で見ると、中国の未来は限りなく暗い。農民を馬鹿にしてきたことのつけが回って来たとも言ってもよい。

 そもそも、「都市戸籍」「農民戸籍」などと言って、戸籍によって人を区別することがおかしい。戸籍制度は共産党が作ったものだが、このような制度ができた背景には、農民を一段下の人間として見る中国の伝統があった。だが、農民をないがしろにしてきたことは、中国が経済発展を続ける上で大きな足かせになっている。

 国務院人口調査(2010年)によると、中国の大都市(城と呼ばれる)の人口は4億人であるが、そこに住む人の22%は大学を出ている。23歳に限って見れば大卒の割合は42%にもなる。一方、約6億人が住む農村(郷と呼ばれる)の大卒割合は2%に過ぎない。23歳に限っても8%。都市と農村の教育格差は大きい。

 工業が発展する際には勤勉な人材が求められる。学歴は中卒や高卒程度でも十分だろう。しかし、サービス業が発展する際には創造性が豊かな人材が不可欠だ。それには高度な教育が必要になる。

 中国の未来を悲観的に見なければならない理由が分かるだろう。都市と地方の教育格差が中国ほどではない日本でも、地方にサービス産業を根付かせることに苦労している。それを考えれば、大卒人口が2%でしかいない中国の農村にサービス産業を育成することは不可能に思える。

 岐路に立つ中国

 マクロな観点から見ると、戸籍制度によって都市住民と農民を峻別した中国は工業化に適した社会であった。しかし、農村部でサービス産業が発展し難い社会になっている。その結果として、米国を上回るような国になることができない。

 米国は田舎にもそれなりに教育が行きわたり、規制緩和が進み、言論や報道の自由もある。サービス産業が発展するインフラが整っている。それに対して、中国の農村部は教育の普及が著しく遅れ、かつ規制が多く、言論や報道の自由がない。そんな状況でサービス産業が発展することはない。

 農村部の教育に多額の投資をするなどして格差の縮小に勤めれば、少々回り道になっても中進国の罠にはまり込むことなく、少しずつ成長を続けることができるだろう。しかし、農民を馬鹿にして彼らを低賃金労働者としてしか見ないような態度を貫けば、中国がこれ以上に発展することは難しい。

 工業化が一段落した現在、中国はまさに岐路に立っている。2016年は中国が今後どのような道をたどるかを見極める上で重要な年になるだろう。

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45733
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