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2015年11月28日00:21

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2015年版日本映画マイ・ベストテン

 原節子さんの追悼であれこれ見ているうちに、今年も12月が近づいてきました。
この時期、恒例の日本映画ベストテンを選び終えましたのでご報告します。

 初めにお断りしておきますが、映画に順位をつける愚かさをお許しください。
総合芸術である映画は人と出会って、その人の中で初めて輝くものであります。
ですから、あくまでここにあげた順位は今年・この時に私自身がこれらの映画と
どういう出会いをしたかを記憶する作業でしかありません。

 一方で、多くの方から鳥居がどういう選び方をするのか、興味をいただいている
こともあり、またこれを参考に「こんな映画も見てみようかな」と思ってくださる方が
いらっしゃるのがうれしくて、公開させていただくものです。

 という訳で、2014年12月〜2015年11月の日本映画マイ・ベストテンと
各賞はこちらです。

 1  恋人たち   橋口亮輔監督

 主人公の一人、篤が橋梁点検でコツコツと叩くハンマーの響き。それは私たちの
心をたたく音だ。私たちが生きる日本の社会をたたく音だ。オリンピックで浮かれる
同僚を背に、耳を寄せて彼が聞いているのは表面には見えない、奥深くに広がる
ヒビ割れの音だ。主人公3名がそれぞれ、大きさこそ違え心にヒビを持っている。
そのヒビ割れにそっと耳をつけ、寄り添って生きる人がいることで、それだけで
生きる意味がある。

 2  幕が上がる

 映画は青春だ。映画を見ることで我々はほんの少し成長できる。
青春は映画だ。どんな青春だって、その本人にとっては人生で最も輝かしい光を
放つスターであることを許される時期だ。だから、青春は映画になる。最も輝いている
アイドルをそのままに描くことで、普遍的な感動が浮かび上がる。だからここには
不治の病も、強力なライバルも、意地悪な先輩や、不条理に無理解な教師や
理不尽な親や社会の不公平やそんなものは一切必要ない。成長したい、ちょっとだけ
大きくなりたい、そんな思いがあふれて輝く瞬間を見せればいい。

 3  あん

 満開の桜が葉桜となりやがて色づき枯れて散る、そのうつろいと人の命の
つながりのはかなさ。ひたむきに餡を作る手際を丁寧に描くことで「生業」の
美しさ、生きる尊厳を語る語り口に魅せられる。振り返って、現代に生きる我われの、
なんと刹那的なことかと気づかせられる。

 4  百円の恋

 ダメダメ女の胸キュンラブストーリーといえば少女マンガの定番だが、すべては
安藤サクラの肉体が語る。わかっちゃいたが、いや、わかっているつもりだったが
わかっていなかったんだな、彼女のすごさを。ボクサーとして鍛え上げた肉体では
ない、その逆の怠惰でたるみきった肉体が語るのだ。

 5  ラブ&ピース

 卑怯だ。みんな卑怯だ。コメディと思わせてSF。と思わせてファンタジー。と思わせて
クリスマス。と思わせてミュージカル。と思わせて本格怪獣映画。と思わせて泣かせる。
この融通無碍の愛すべき作品を、このクリスマスは大好きな誰かに贈ろう。でも、
わかってくれる人じゃないとだめだけどね。

 6  ピース オブ ケイク

 今や日本映画のメインジャンルとなった少女マンガ原作もの。「俺物語!」も
「ヒロイン失格」もよかったが、ヒロインのダメさ加減を真正面から愛情持って描いた
点で記憶に残る。で、おかまの天ちゃんでワンポイントアップ。

 7  ”記憶”と生きる

 戦後70年が一体なんだったのか、と思うこの一年。日本映画はまったくこの
重さを語ることができず、「あの戦争」の正体に迫ることが何一つできないでいた。
20年前に語られたハルモニたちの思いを丁寧にすくい上げることで、記憶とともに
世を去った彼女たちに想いを寄せる、この「体験」こそが映画だった。

 8  FOUJITA

 あえて、ストーリーを排し、状況を描写することで人と時代を浮き上がらせながら
興味の対象はその時々のフジタの心の中。全編がまったくすき間のない絵画として
完璧な作品。カルロス・コンティの美術設計は特筆に値する。画面はあくまで暗く、
アップにならない俳優の表情は読みとれない。その闇に浮かびあがる孤独にずっと
向かい合いたい衝動に駆られる。

 9  天空の蜂

 クライムサスペンスのおもしろさを、やっと日本映画で見ることができた。
それはアクションや新兵器ではなく、登場人物の駆け引き、すなわち本当の
アクションは心理戦なのだ。主人公の行動原理と犯人(グループ)の行動原理が
衝突する時、アクションの醍醐味が生まれる。堤監督、実は「イニシエーション・ラブ」も
気にいった作品だった。

 10  駈込み女と駆出し男

 女の強さを満喫する映画。原作では男性の役を女性に置き換えることでドラマが
まっすぐに、違和感なく動く。やられた。ともかく女性陣がみんないい。
戸田恵梨香、満島ひかり、内山理名。特に戸田恵梨香の演じる鉄練りのじょごは
日本映画に残る魅力的なキャラクターだ。

 続いて各賞はこちら。

 監督賞    橋口亮輔  「恋人たち」
 もう文句なし。お帰りなさい、橋口監督。

 新人監督賞  三澤拓哉  「3泊4日、5時の鐘」
  27歳でこんな映画がつくれる、人間観察の巧みさ。もちろん、俳優陣の
  アンサンブルが見事だが、個人プレーのギリギリを見極めた演出力は本物。

 脚本賞    橋口亮輔  「恋人たち」
  当然ということで。

 技術賞    芦澤明子  「岸辺の旅」「さようなら」の撮影
  美しい風景と微妙な陰影に富んだ室内撮影。絵の持つ力を浮き上がらせた撮影に。

 主演男優賞  永瀬正敏  「あん」「KANO 〜1931 海の向こうの甲子園〜」

 主演女優賞  百田夏菜子 「幕が上がる」

 助演男優賞  新井浩文  「百円の恋」「明烏」「バクマン」

 助演女優賞  工藤夕貴  「この国の空」

 最優秀新人賞 成嶋瞳子・篠原篤・池田良  「恋人たち」

 審査委員特別賞  「みんなの学校」
  小学校の生活を丁寧に愛情を持って記録したスタッフの誠実さに対して
 特別大賞   根津甚八  
  「GONIN サーガ」 1作限りの復帰に対して
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