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2015年10月20日09:05

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米露の「火薬庫」シリアで、両国が代理戦争に突入する可能性について

 下記は、2015年10月20日付のMAG2NEWSの記事です。

                      記
 
 なぜ米軍の6万回にも上る攻撃に耐えたISが、ロシア軍の半月ほどの攻撃に壊滅状態になったのか―。この疑問に明解に答えてくれるのが『田中宇の国際ニュース解説』。米国はむしろISを支援しているのだそうです。

 深刻化するシリア情勢

 ロシア軍機による「イスラム国」を中心としたイスラム原理主義勢力の空爆が大きな成果をあげている。10月13日の24時間だけでもイラク北部のイスラム原理主義勢力の支配地域に88回の爆撃を行い、「イスラム国」の軍事拠点86カ所を破壊した。すでに「イスラム国」は多くの軍事車両や地上兵器を失い、半ば壊滅状態にあると見られている。

 そのため、「イスラム国」の戦闘員の多くは、ヨーロッパのほか、周辺諸国に逃避し、これらの国々が新たなテロの脅威にさらされる可能性も出てきた。3,000名の「イスラム国」の戦士がヨルダンへと避難したことは広く報道された。

 「イスラム国」の聖戦の呼びかけ

 こうしたなか、「イスラム国」のスポークスマンのアブ・モハメッド・アルアバニはインターネットに40分のオーディオメッセージを発表し、世界中の青年はロシアとアメリカに対して聖戦を行うように呼びかけた。メッセージでは特定の攻撃の目標は示されなかったものの、「イスラム国」はロシアをかならず撃つとしている。またアメリカも悪魔と組んだ敵だとし、攻撃するように強く促した。

 「イスラム国」は世界にあらゆる地域で、社会に強い不満を持つおもにイスラム教の青少年を引き付けている。こうした事実から見ると、シリアから周辺諸国に避難した「イスラム国」の戦士とともに、「イスラム国」の支持者がアメリカやロシアが海外に持つ施設がテロの攻撃目標になる可能性が高くなっている。

 ロシア、ラブロフ外相の発言

 ところでアメリカに対しては、やはり強い不信感が高まっている。ロシアのラブロフ外相はロシアのテレビ、「NTV」のインタビューに応え、次のようにアメリカに対する強い不信感を表明した。

 「(連合軍が非能率的な)理由は、もう1つある。私は、これについては恐らく、我々は理解する必要があると考えている。私もこれについて、話をする他の外相たちに定期的に質問している。もしかしたら、目的は発表されているものとは全く違うのではないか? もしかしたら、やはり目的は政権交代なのではないかと。なぜなら彼らは、シリア問題の最終的な解決は、アサド大統領がいなくなった時にはじめて可能となるという自分たちの立場を放棄しないからだ」

 またラヴロフ外相は、次のように指摘した。

 「我々は、リビアのカダフィ政権を転覆させるために、我々の西側のパートナーと地域の国々が、最も悪名高き過激主義者たちと協力したのを覚えている。この過激主義者たちはその後、悪鬼を解き放つように北アフリカ全体、そして『ブラック』アフリカにまで広がった」

 このように発言し、アメリカの真の目的は「イスラム国」の壊滅にあるのではなく、アサド政権を崩壊させることであり、そのために「イスラム国」を支援しているのではないかという強い疑念を現した。

 事実、過去1年半の間、アメリカを中心とした有志連合は約6万回の空爆を実施したものの、「イスラム国」の主要拠点はまったく無傷だった。9月30日から始まったロシアの空爆で、「イスラム国」は短期間のうちに壊滅に近い状態に追い込まれている。こうした事実からすると、やはりアメリカは「イスラム国」を支援しているのではないかと疑われても仕方がない。

 迷走し混乱するオバマ政権

 ラブロフ外相のこのような発言を待つまでもなく、オバマ政権のシリア政策はとんでもなく混乱し、迷走している。

 オバマ政権はこれまで穏健派の反政府勢力の育成に5,000万ドルの予算をつぎ込んできたが、これが完全に失敗であったことを認めた。日本のメディアでも報道されているので周知だろうが、米軍事基地でトレーニングした54名の戦闘員のうち、いまも戦っているのは4〜5名にすぎず、残りは「イスラム国」に寝返ったことを明らかにした。

 この結果を見てオバマ政権は、反政府組織を直接訓練する方針を転換し、アサド政権と「イスラム国」の双方に敵対している穏健な反政府勢力に武器の支援を行うことに決めた。約50トンの小火器を砂漠地帯にパラシュートで投下するという。

 支援する勢力のひとつは、シリア北部に展開し、「イスラム国」を壊滅するためにアサド政権と協力関係にある「クルド人武装勢力」である。これでオバマ政権は、なかばアサド政権を容認したのではないかとも見られている。

 しかし他方オバマ政権は、支援する予定のもうひとつの穏健派反政府勢力がどの組織になるのかはかは明言していない。組織は複数あるとされているが、シリア政府軍を脱退した将兵が結成した「自由シリア軍」が支援の中心になることだけははっきりしている。

 実質的に機能していない「自由シリア軍」

 しかし、「自由シリア軍」のようなイスラム原理主義ではない穏健派の反政府組織は実際に存在しているのかどうかかなり疑わしいとされている。組織は存在していても、それは弱体化し、戦闘能力を喪失している可能性は否定できない。

 前回の記事で紹介したように、フランスの通信社「エイジェンス・フランスプレス」が2014年、9月12日に配信した記事は、シリアの首都ダマスカス郊外で「自由シリア軍」と「イスラム国」との間で相互不可侵協定が結ばれ、現在は「自由シリア軍」と「イスラム国」の組織は一体化していると報じている。

 穏健派の反政府組織は存在せず、オバマ政権が実際に支援しているのは「イスラム国」をはじめとしたイスラム原理主義勢力であることを示す証拠はそれこそ山ほどある。

 中東の綿密な調査報道で有名なジャーナリスト、ナフェーズ・アーメドは、オバマ政権が穏健派反政府組織と呼ぶ組織は、シリアの「アルカイダ」として知られる「ジャハル・アル・ヌスラ」、「アルカイダ」系列の「アーラル・アルシャム」などのイスラム原理主義勢力だとし、穏健派ではないとしている。

 さらに昨年の10月にはすでにバイデン副大統領は、「シリアには穏健派の反政府組織は存在せず、トルコや湾岸諸国などの有志連合が支援しているのは、『アル・ヌスラ戦線』や『イラクのアルカイダ』など、将来世界に大きな脅威となるイスラム原理主義勢力である」とはっきりと認めている。

 そして、こうしたイスラム原理主義勢力はかならずしも「イスラム国」に敵対しているわけではなく、アサド政権を倒すために、ときとして「イスラム国」と協力していることが昨年から報じられている。「アル・ヌスラ戦線」や「イラクのアルカイダ」などは、「イスラム国」に武器を提供していた。

 また、有名なネットテレビ、「インフォウォアズドットコム」の報道によると、すでに昨年9月に行われたインタビューで、カラモウンという町に展開する「自由シリア軍」の司令官は次のように発言していた。

 「我々は、カラモウンのシリア政府軍を攻撃するために『イスラム国』や『アル・ヌスラ戦線』と協力している。現実を見てくれ。カラモウンにおける最大の勢力は『アル・ヌスラ戦線』だ。彼らの目的が我々と合致する限り、『自由シリア軍』は『アル・ヌスラ戦線』とあらゆる方面で全面的に協力する」

 ちなみに「アル・ヌスラ戦線」とは、「イスラム国」と同盟関係にあるイスラム原理主義組織である。

 また、アメリカ軍の「星条旗新聞」が昨年7月に掲載した「イスラム国」の戦闘員とのインタビューでは、「自由シリア軍」の戦闘員が1,000名規模で「イスラム国」に参加したことを告げた後、次のように発言した。

 「『イスラム国』は『自由シリア軍』から兵器を買っている。これまでに200発の地対空ミサイルや対戦車兵器を購入した。我々は『自由シリア軍』の兄弟とよい関係にある。我々にとっての不信心者は、西欧と協力してイスラムと戦うものたちである」

 ちなみに、「自由シリア軍」が「イスラム国」に売った兵器は、オバマ政権が支援のために提供したものだ。ということは、アメリカ軍の兵器がそのまま「イスラム国」の手に渡っているということだ。

 隠せなくなったオバマ政権の「イスラム国」支援

 ところでこのメルマガでは、かなり以前からオバマ政権が「イスラム国」を実質的に支援している現状を詳しく伝えてきた。それらの情報源はロシア、イラン、イギリス、ドイツなどのメディアだった。

 しかしロシア軍のシリア空爆が、短期間で「イスラム国」を壊滅する大きな成果をあげるにおよんで、

1.アメリカ軍の「イスラム国」空爆は実質的に「イスラム国」の拠点を外して行われていたこと
2.穏健派の反政府勢力は機能していないこと
3.アメリカの提供した兵器が「イスラム国」に渡っていること

 などがアメリカの主要メディアでも次第に報じられるようになっている。つまり、もはや隠すことが不可能になっているということだ。

 なぜアサド政権の崩壊を急ぐのか?

 オバマ政権が、このように直接的にせよ、間接的にせよ「イスラム国」などのイスラム原理主義勢力を支援する目的は、アサド政権を壊滅させることにある。

 しかし、それにしてもオバマ政権はなぜアサド政権をここまで敵視するのであろうか? ロシアのプーチン大統領は、アサド政権こそ「イスラム国」の歯止めであり、これを倒すとシリア全土が「イスラム国」の支配地域となり、極めて危険であることを何度も警告している。その状況を十分に認識しながらもアサド政権の壊滅を急ぐオバマ政権の意図はなんなのだろうか?

 その目的ははっきりしている。このメルマガでは何度も詳しく解説したが、オバマ政権は30年以上前にイスラエル外務省が立案し、その後クリントンやブッシュ政権の中東政策として採用された、「中東流動化計画」を実行することである。

 中東流動化計画

 この計画は、1982年、当時のイスラエル外務省の顧問だったオデット・イノンという人物が作成した「1980年代のイスラエルの外交政策」という文書に記載された計画のことだ。これは、中東に混乱状態を引き起こして中東を小集団に分裂させ、その後、大イスラエルを建設するという計画案だ。

 この文書では、まずイスラエルが積極的に国内の反政府活動を煽ることによって、イラク、シリア、リビア、ヨルダン、レバノン、そしてサウジアラビアの独裁政権をすべて崩壊させることが提案されている。その後、宗派間、部族間、そして民族間の対立を煽ることで、国家を宗派、部族、民族の居住地域に分裂するように誘導する。そのようにして、中東全域を弱小集団が存立する混乱状態に追い込むことを政策として提言している。

 これで、中東ではイスラエルに挑戦できる軍事力をもつ強い国家が存在しない状況になる。この状況でこそ、イスラエルが領土を拡張し、イスラエルの生存が脅かされることのない絶対的な「生存圏」を構築することができるとしている。

 以下がこの文書に実際に記載されている中東の分割案だ。

● イラク
シーア派の「シーアスタン」、スンニー派の「スンニースタン」、クルド人の「クルディスタン」の3つの小国家に分割。

● シリア
シーア派居住地域を「シーアスタン」に併合。アラウィ派の「アラウィスタン」、ドルーズ派の「ジャバル・アル・ドルーズ」に2分割。

● リビア
東部の「シレナイカ」、西部の「トリポリタニア」、南部の「フェザン」に3分割。

● サウジアラビア
独立以前の状態に分割する。ワッハービ派が支配する中央部の「ワッハービスタン」、南部の「南アラビア」、西部の「西アラビア」、東部の「東アラビア」、北部の「北アラビア」に5分割。

 この計画は、1996年にネオコンの牙城のシンクタンク、「新世紀アメリカプロジェクト」の報告書に取り入れられ、当時のクリントン政権に、アメリカの中東政策として提言されている。そして2001年、この案はネオコンの代表の1人であるリチャード・パールによってブッシュ政権に提案され、採用された。

 この中東全域を流動化する計画からすると、独裁的で抑圧的であっても、シリアに安定をもたらし、シリアを軍事的な強国にしたアサド政権は打倒しなければならない第1の敵である。

 またこの計画からすると、「イスラム国」という組織は、イスラエルとアメリカ、およびNATO諸国が中東を混乱状態にして、「大イスラエル計画」を実行するためのツールである可能性が極めて高いことが分かる。

 ロシアの次の動き、イラク空爆?

 こうした巨視的な文脈から見ると、いまロシアが実施しているシリア空爆の意味は非常に大きいことが分かる。「イスラム国」のようなイスラム原理主義勢力を壊滅し、アメリカと有志連合、そしてNATO諸国が推し進める「中東流動化計画」を全面的に阻止するという意味がある。これにより、中東には平和と安定をもたらす可能性がひらけるだろう。

 しかし、2003年のイラク侵略戦争以降、リビアをはじめとした中東の独裁政権を崩壊させ、中東全域を流動化させてきたアメリカとNATO諸国が、ロシアの空爆成功で簡単に諦めるとは考えられない。アメリカやトルコ、湾岸諸国などの有志連合は、「イスラム国」を中心としたイスラム原理主義勢力への支援を公然と続けるだろう。

 これは、シリアにおいてアメリカとロシアが実質的に代理戦争を戦う可能性があることを示唆している。アメリカ軍は隣国のイラクからシリアを空爆しているものの、アメリカ軍がシリアに展開しているわけではない。したがって、少なくともシリアに関する限り、両軍が衝突することはないだろう。

 しかし、ロシア軍の今後の動き次第では、アメリカとロシアが鋭く軍事的に対立する可能性も出てくる。前回の記事でも紹介したが、イラク議会は、将来ロシアに、イラク国内の「イスラム国」の拠点を空爆するよう要請する可能性があることを示唆している。

 また、CIA系のシンクタンク、「ストラトフォー」はロシアのシリア空爆の今後を予想する分析を発表し、ロシアが「イスラム国」を本格的に壊滅したいのであれば、シリアのみならずイラクの拠点を空爆せざるを得ないだろうとした。そしてそのためには、シリアからの空爆ではなく、イラク国内にロシア軍の基地を持つことが一番効率がよいとした。

 しかし、イラクの状況はシリアとは大きく異なる。シリアは反米、反イスラエルのアサド政権が統治する国家なのでアメリカ軍は展開していないのに対し、イラク侵略戦争以降のイラクは、国内にアメリカ軍基地を抱える親米国家である。2011年12月に国内のアメリカ軍地上部隊の過半数は撤退したものの、アンバル州のアサド空軍基地をはじめ、いまでもアメリカ軍はイラク国内に12の基地を保有している。これらの基地の多くは、イラク治安部隊との共同使用である。

 このような状況のイラクにロシアが空軍基地を持ち、そこからイラク国内の「イスラム国」の軍事拠点を直接空爆することになったらどうだろうか? いまだに「中東流動化計画」を手放さず、「イスラム国」を直接間接に軍事支援しているアメリカ軍とロシア軍が直接的に対峙し、鋭く緊張した関係になることも十分に考えられる。

 このような方向に動くのかどうか、注視する必要があるだろう。

 i mage by: Orlok / Shutterstock.com



 『田中宇の国際ニュース解説』
  国際情勢解説者の田中宇(たなか・さかい)が、独自の視点で世界を斬る時事問題の解説記事。新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します。

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