カナダ・ケベック州は、北米大陸の中のヨーロッパだ。カナダの人口３０００万人中２割以上がケベック州に居住し、フランス語を話す。ケベックの特徴は、音楽が盛んなことであり、プログレでも伝統的にメロディーの美しいバンドが多い。メロディーの豊かさでは、オランダとケベックが双璧ではないだろうか。
２１世紀にはますます洗練されて、清冽な純粋さを感じさせるバンドが多数輩出している。
・ 曲 バンド アルバム
�� Snowwhite / Mystery [ Beneath the vail of winter's face 2007 ]
現代カナダを代表するミステリーは、４人組。１９９６年から５枚の作品があるが、３作目の本作から、べノワ・デヴィッドがヴォーカルを担当。彼は、イエスの「フライ・フロム・ヒア」に参加した。ミステリーのサウンドは、イエスよりも神秘的でドラマチック。「スノーホワイト」って、白雪姫のことだろうか。張りつめた冷気が漂う。冬の妖精たちがささやき合う。ギターが劇的に泣き叫ぶ。吹雪。これぞプログレというべき幻想性だ。「警笛が静寂を破る。道は門から宮廷へと連なる。天使の声。神の創造。稲妻が光り、女王は舞台に向かって歩む。たくさんの眼が祝福する。彼女は道を指し示すだろうか」
�� Nameless / Hamadryad [ Conservation of mass 2001 ]
ハマドライアドは、ジョスリン・ボーリウをヴォーカリストとする５人組。ハードなオープニングのあと、はっとするほどの超ハイトーン・ヴォーカル。このヴォーカルが、高く低く舞い踊るように歌う。海を舞うカモメのようだ。ヴォーカルだけでも、清涼感がたまらない。加えて流れるようなメロトロン。しかし、次作では低音のヴォーカリストに交替してしまっていて、猛烈に落胆した。じゅんウェットン様の推薦。
�� La course aux papillons / Ere G [ Au-dela des ombres 2002 ]
エレ・ジーは、ロビン・ガドロールが、ヴォーカルのほか、ベース、ギター、キーボードを担当しているプロジェクト。この曲では５人で、専任のフルート奏者、ヴァイオリン奏者が演奏している。フランス語で、アルバムは「影を超えた外側」、曲名は「蝶の飛翔」。ハードで整合性の高い演奏だが、途中からアルモニウムのように度外れたほどのメロトロンの瀑布。そして、メロトロンに乗せてフルートの２重奏。更にヴァイオリン。ＰＦＭ「人生は川のようなもの」のイントロ部分がずっといつまでも続くかのような演奏だ。リリマフィ様の推薦。
�� Eve / Jellyfiche [ Symboise 2011 ]
ジェリーフィシェは、シドとジャン・フランソワ・アルスノーとのデュオだが、これに８人のゲストが加わって、分厚いシンフォを聴かせる。特にこの曲では、低いピアノに絡んでいくチェロの優雅さが印象的だ。チェロ、ヴァイオリン、サックス、トランペットと凝った音造りだが、何よりも悲しみを込めて歌い上げるシドのヴォーカルが、どこまでもドラマチック。感動のあまり胸が一杯だ。
�� Going home / Sense [ Going home 2007 ]
センスは、５人組で、専任のフルート奏者がいる。ヴォーカリストのフランクＢは、ギターも担当。メロトロンの流れに乗せた３声のコーラスがとても豊潤で、まるでムーンサファリのようだ。ヴォーカル・メロディーも優しい。ところが、間奏でフルートが入り、激しくも華麗に宙を舞う。しかも、更に音楽は反転して、キング・クリムゾン風に暗黒で暴力的に展開。様々な要素を自己流に消化している。
�� It's 3 o'clock / Qwaan [ The word of Qwaan 1994 ]
クワーンは、５人組で、マシュー・ルサールがヴォーカルを担当。フルートのイントロで曲に入ると、ジェネシス・クローンだとわかる。ピーター・ガブリエル風に演劇的なのだ。ギターは間奏で泣きを見せる。ヴォーカリストが声を張り上げると、なかなかメロディアス。ピーター・ガブリエルには今ひとつ似ていないので、今までのピーガブ擬態１０選に選出していないのだが、バンドとしては魅力を感じるバンドだ。ダリのようなジャケットも幻想的。
�� Burning bush / Nathan Mahl [ Exodus 2008 ]
ネイサン・マールは、４人組で、ギ―・ルブランの速弾きギターがものすごい。なぜかルブランは、キャメルのアンディ・ラティマーと気が合うようで、近年のキャメルにも参加した。しかし、ネイサン・マールの音楽は、キャメルのように甘くなくて、シリアスだ。まるでヴァイオリンであるかのような音のギターが弾きまくり、速弾きで、しかも長く引っ張る。くるくると変わるギターの表情だけでも芸術的だ。
�� Sursis / Direction [ VA 2011 ]
ディレクションは、３人組で、セルジュ・トレムブレーが、ヴォーカルのほか、ベース、ピアノ、キーボードを担当している。いきなり２枚組トータル・アルバムで３２曲、２時間という作品を発表した。３２曲の半数以上は、インストルメンタル。この曲のようなフランス語で歌うヴォーカル曲は、なかなかメロディーが繊細だ。コーラスも分厚い。そして、背後には、音の河のように、キーボードが流れ続けている。
�� Symphonia / Kaos Moon [ After the storm 1994 ]
カオス・ムーンは、４人組で、ヴォーカルとキーボードのベルナール・オウレットが作詞作曲もする。この人の声は、透明感があり、コーラスも含めて清澄さを醸し出す。キーボードも洗練されていて、典型的なシンフォニック・ロックである。曲も良い。何も悪いところはないのに、なんか地味。いつも忘れてしまって、今回ようやく登場させたバンドなのだ。
�� Over years / Indiscipline [ A non-obvious ride 1994 ]
インディシプリンは、４人組で、フランソワ・テリオールがギターとヴォーカルを担当。ジャン・フィリップ・グーレは、ヴァイオリン、ピアノ、キーボード、ギターのほか、ヴォーカルも担当。キング・クリムゾンの曲名をバンド名に冠しているだけあって、シリアスで、無調芸術的なところがある。しかしヴォーカルのテンションが高くて、メロディアスなのが魅力。
[次点] Look at this world / Irrgarten [ Home and sanctuary 1997 ]
イルガ―テンは、３人組で、ミシェル・デックがヴォーカルのほか、フルートとキーボードを担当。このほか、７人のゲストがキーボード、ベース、サックス、チェロ、コーラスで参加しているので、音は厚くて凝っている。男女の語りの声から始まるサウンドは、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレイターのように暗黒だ。溜めのある抑揚の効いたヴォーカルが、暗鬱ながら表情豊かである。
[番外] The healer / Visible Wind [ Barb-a-baal-a-loo 2000 ]
ここまで書いてきて、やっぱりヴィジブル・ウィンドを出さないのはまずいかという気になった。カナダ叙情派シンフォの最高峰。１９８８年にファーストを出しているので、２１世紀バンド１０選からはちょっと遠慮しておこうと思ったのだった。しかし、サウンドは素晴らしい。テルミンのような幽玄な音響のイントロに始まり、メロトロンの瀑布。そして、ヴォーカルはジョン・ウェットン似。英語の曲とフランス語の曲がある。どちらもメロディーが美しくて、シンフォとしての構造も秀逸だ。
○このほか、候補にしたバンド（どれも甲乙つけがたく素晴らしい）
Dagmahr, Ex Cubus, Growing Dream, Sloche, Unisphere
○１９７０年代以降のケベック・バンド
Dionysoss, Et Cetre, Galolou, Harmoniume, L'engoulevent, Nightwinds, Maneige, Miliodor, Milkweed, Morse Code, Octobre, Offenbach, Opus 5, Pollen, Vo Visions
○プログレ／カナダの清涼な曲１０選（２０１１年１０月３０日）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1790742323&owner_id=9666295
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