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2015年08月15日10:41

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天風先生・ある日の夏期修練会で



神渡良平「宇宙の響き―中村天風の世界」より。

天風先生のお話は続く。
「君たち、よーく考えてみろ。会社がうまくいかなくなったり。人間関係が気まずくなったり、体の調子がおもわしくないときこそ、自分の生命力を強化しなけりゃならないのじゃないのか? 何でもないときにはまだいいけれども、悪くなったときこそ、命を守る戦いを開始しなければならないんだ。人生の戦いに勝つものはだよ。その力を得るためには、何をさて置いても心を積極的にしなけりゃいかん。

なのに、現実ばかりにとらわれて、悲観したり、心配したり、ああでもないこうでもないと取り越し苦労ばかりしている。いつしか心が消極的になってんだ。それじゃ、火種なしに火を起こそうとしているのと同じじゃあないか。こんな割に合わないことはないぜ」。

場所は東京・大塚の護国寺。その二百畳はあろうかと思われる大広間から、天風先生の伝法調な声が聞こえてくる。歯切れのいい口調は江戸っ子気質の天風先生の性格そのもので、立て板に水を流したように、説いていく。

昭和41年(1966)8月、天風会恒例の修練会。上半身裸で、下は白の半ズボンをはいた天風先生が、90歳とは見えない張りのある凛とした声で聴衆に語りかけている。

「病に陥っている時なんか、『なにくそ! こんな病気に負けてたまるか』と考えればいいんだけど、考えられないのはなぜだろう? 赤提灯で何本も銚子をひっくり返して、『これが悲観せずにいられるか!』と、くだをまいている奴もいる。さあ、そんなときどうしたらいいんだ。

取り越し苦労するのが人間の悪い癖だ。心配や悲観する癖がつくと、物事を悪い方に悪い方にと考えてしまう。あれがああなって、これがこうなって、ああ、おれはもうだめだ、ペチャンコだ、ってね。

人間はこの良くない癖と習慣的に付き合っている。これを悪い癖と反省しないと、人生の光明をどんどん押しやってしまい、哀れな気分だけが人生を支配してしまうんだ。さあ、これをどうする! 」

下町言葉で語りかけてくる天風先生の問い掛けにみんな腕組みして考える。

「結論から先に言えば、いつの間にか消極的になっているのは、大宇宙の大根大本、つまり森羅万象一切の根源である造り主と自分との関係が切れているからなんだ。何回も言っているとおり、この大宇宙には精気というものが偏在している。だから、普段から生命の根源とのパイプを太くし、プラスの精気をいただかなくちゃあ。

自分の人生だもの。人生を空しく終わりたくなければ、われわれの生命の根源である宇宙の<気>を活用して、自分の生命を力強くすることを考えなくちゃ。積極的なことを考えれば、プラスの気が入ってくるし、消極的なことを考えれば、マイナスの気が入ってくるんだ」

東京の8月は暑い。しかし、天風先生の講話に聞き入っている修練会員は、暑さのことをまったく忘れていた。

「いいかい、どんな人間だって、造物主の無限の生命が宿っているんだ。学校の成績が良かったとか、いい大学を出たとか、一流企業に勤めているというだけで人生は決まってしまわない。むしろ、宇宙霊の生命エネルギーを充分に受け、自分の生命を積極化し教化することを学べば、人生はどんどん好転していくんだ。

運河の水を考えてみよう。
運河水だけを考えてみると、はかない水量に見えるよな。でも、運河は大海につながっているから、無限の水量とつながっている。実は運河の水は無限なんだ。

それと同じ意味で、人間を考えてみよう。
人間を、ただそれだけで考えてみれば、ちっぽけな存在だ。すぐ風邪を引いて寝込んでしまう弱い存在だし、起きて半畳、寝て一畳、極めて小さい存在だ。でも、その心は留まることを知らないほど、広がりが大きい。昔の人も言っているではないか。

大いなるかな、心や。
天の高さや、極むべからず。
しかも、心は天の上に出ず。
地の厚さや、測るべからず。
しかも、心は地の下に出ず。
日月の光や こゆべからず。
しかも、心は日月の明の外に出ず。


心は天よりも高く昇ることができるし、地よりも深いところに潜ることができる。太陽や月の光よりも速いものはないが、人間の心は別だ。人間の心は広大無辺の大宇宙よりも大きい。

だから、無限の造物主と自分の心の結び目を堅固にすれば、だれでもどんな人間でも栄えていくんだ。どんな場合でも、心を曇らせてはいけない。生命の流れを涸らしてはいけない。自分より優れた人や、出世したり、成功したり、栄えている人は、特別に生れついているんじゃないんだ。凡人といえども、造物主と自分の結び目を堅固にしていけば、驚くべき優れた人間になるんだ。

いいか、もう一度、言うよ。造物主の幽玄霊妙な叡智を、諸君の心の中に導入しなさい。諸君の生命に無限の宇宙エネルギーをアタッチしなさい。そうすれば、諸君一人ひとりの健康も運命も幸福になる。諸君が幸福になり、運勢が増せば、諸君の周囲にいる人々も次第に良くなってくるんだ。いいか、諸君一人だけが良くなるためにここに来ているんじゃない。『選ばれし人』としてここに座っているのだ。自分も良くなり、周囲の人々にも良い感化を及ぼすんだ。
分かってね。それでは『甦りの踊句』を唱えよう!」。

・・・・略・・・・

天風先生の講話で、宇宙に遍満している気を活用するためには、真理瞑想が欠かせないことが分かった。能力がないのではない。ただ宇宙の法則を知らなかったばかりに、いたずらにエネルギーを浪費するばかりで、効果を上げることができなかっただけなのだ。

遅すぎたのではない。これからなんだ。目覚めたそのときから充実した行終をすれば、きっと生き甲斐に満ちた人生を送ることができる――修練会員の顔はそんな<気づき>で輝きが増していた。



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