私と面識のある方はご存じかも知れないが、自分は極度の病院嫌いだ。
それはとても愚かなことで、時として事態を酷く悪化させてしまう。
これまで自身の怪我を縫い針で縫うところから始まり、工具で抜歯をするなど散々な愚行を繰り返してきた。
家族を持ち、多少はまともになったものの、やはり骨身に沁みついた愚かさは抜けきっていなかった。
10年以上前から、腎臓以下尿道まであちこちに幾つもの結石があることは知っていた。
ボクシングをしていた時にブラジル人から受けた足が浮く程のボディブローが生ヌルく感じる程の激痛が、この結石の持ち味だ。
自分の知る限り、これの上を行く痛みは経験がない。
年に何度か結石による痛みは繰り返していた。
それでも、(たかが石。こんなモンで死ぬワケじゃねぇ)とごまかして過ごしてきた。
ところがここ数日の痛みは、仕事にも直に影響する次元の強烈なものだった。
とてもじゃないが人前で気取って講演なんてできる状態じゃない。
これではまずいと病院へ行くことにした。
紹介状を書いてもらい、いざ総合病院へ。
『すごく大きいねぇ…。痛みは無い?』
とてもおおらかな先生だ。
『信じられないかも知れませんが、真っ赤に焼けた鉄パイプを差し込まれたように痛いです。』
『そうだよね。1.5cmくらいの大きさがあるからね…』
という訳で緊急で衝撃波による手術を勧められたが、種々の兼ね合いにより2日後に改めさせて頂くことになった。
『とても痛いだろうから、無理をせず、いざという時は救急車で来なさい』
救急車は人命に係わる重大な場面で使用するものだと教えられてきた。
たかだか石ごときで要請してはならない。
結局、予定通りに衝撃波による施術をして頂くのだが、自分の業務は社内で代われる人間がいないので、休まずに昼頃に向かった。
全体で10個程もある結石のうち、腎臓の出口付近にある1.5cmの尿管結石のみを粉砕することになった。
仕事中ということもあり、結果的にあらゆる痛み止めを使用せずに施術を開始した。
(施術後、麻酔なんかでボーッとしていられないからね)
この時、自分はあまりにも無知だった。
なにもしなくても痛い結石に強烈な衝撃を与えるのだ。
しかも図解によるとこんな奴だ。
痛いどころの騒ぎではない。
強烈な痛みが激烈な痛みへと昇華していった。
耐えること1時間程度。
これで10年来の痛みとも別れられると思った。
やはり無知だった。
ここからが痛みとの戦いだった。
その日の残りの仕事を終え、帰宅したが、痛みは退かない。
それどころか、差し込まれた焼けた鉄パイプでそのまま腹から背中をかき混ぜているかのように痛い。
焼けるように痛い。
もう駄目だ。
救急車、イヤ、駄目だ。
自分の痛みは命に係わらない。
この時間にどこかで事故でも起きたら…。
結局、向かいの家の若旦那に送ってもらった。
結局、そのまま緊急入院。
金曜の晩から先程まで2泊したものの、月曜を休むわけにはいかないと、主治医を説得してどうにか退院。
ところが、痛い。
自宅では病院でバンバン打って頂いた筋肉注射が使えない。
座薬も飲み薬も数に制限がある。
女房の実家に行くように女房に勧められたが、断った。
割れた結石が動くたびに痛いようだが、動かなければ永遠に出てこないのだ。
ならば痛みと戦うしかない。
若大将に送られていった時、豪騎は痛がる親父を見送って、大泣きしていたと聞いた。
『お父ちゃんが死んじゃう!!』
昨日の面会でも
『お父ちゃんとお別れしたくない!!』
大丈夫。
豪騎と魁盛の父ちゃんは強いぞ。
先程、女房と2人の倅らは女房の実家へ向かった。
これでタオルを噛み締めどんなに呻こうが、惨めな姿を晒さず、心配もかけない。
飲めば必ず痛みが襲う、水分。
PETボトル1本と、マルチビタミンのゼリーを1本飲み干した。
さぁ、来るなら来てみろ。
痛み止めなんざ使わねぇぞ。
今日の俺はいつも以上にクレイジーだゼ。
昼間の仕事の時用に座薬も飲み薬も確保しておかなければならない。
痛みでショック状態になる人もいると看護師に脅されたが、少なくとも今日の俺はそっちのグループじゃねぇ。
さっきから左の脇腹から背中のあたりがジワジワ痛てェ。
間違いねぇ。
例の焼けるような痛みの前兆だ。
上等だ。
とびきりの痛みを食らわしてくれ。
お前なんざ、病院で頂いた紙コップに注いで、小っさなスポイトでそっと吸い取って、最後は細長い容器に入れて…。
なんか情けないが、まぁ、痛みには耐えぬこうと決めました。
心配してくれた豪騎。
大丈夫だぞ。
父ちゃんはちゃんと、石を捻り出してやるからな。
冷房も付けていないこの部屋でも寒い。
吐き気も強い。
とうとう来たな。
本当に痛みが強くなってきたので、閉めます。
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