せなかがかゆい日記

日課のウォーキングにいそしもうと家を出て十分。
突然の背中のかゆみに襲われたのです。
しばらくぶりに着た服が、素肌にチクチクするなーとは思ってたんだけど、そのチクチクが次第にかゆみとなって襲い掛かり……
こりゃ我慢できない、と思った時は本当に「身震いして飛び上がって全力疾走」したいぐらいのかゆみに発展していたのでした。
じゃあ遠慮なくかけばよかろう、と思われるかもしれませんが、私左手が今、淑女だけがかかるという噂の○十肩とかいうやんごとなき病に侵されており。右手の届く範囲でもなく。公園の中の歩道で一人悶絶したのでございます。
これはかかないことにはほんとに蚤に襲われた猫のように駆け出して車に轢かれるれないとも限らない。とりあえず、ええと、長くて背中に届きそうな何かを探そうときょろきょろしたらば、
そこは公園なので木の枝ぐらいあちこちに落ちてるんですね。
まず手頃なのを拾ってみた。
いや、持ってみると太い。これは誰かを殴るためのツールにふさわしい。
放り出して細めで曲がってるのを見つけた。ぶんぶん振ってみた。うん、なかなかお手頃。後ろから来た女子高生が不審そうに追い越していきました。どうもすみません、無邪気な大人もいるもんだと考えてください。
近くのベンチに座って人通りが絶えるのを待ち、いざ、背中に突っ込んでかいてみた。
がりがりがり。あいたたた。
思ったより木の枝は凶暴です。うちにあるまろやかな孫の手とは違う。
折れた部分がささくれ立ってるし胴体にも折れた枝の後があるし汚いし、細かい傷から猫や犬のおしっこ成分が肌にしみてかぶれでもしたら自慢の背中が大変なことに。
怖いので枝は捨てました。じゃあこのかゆみを何としよう？
なんかながっぽそくてやすいものそこらに売ってないかなあ。
動揺しつつ財布をのぞいたら、てもみんのカードが。たしかココ、1200円ぐらいで20分コースの肩もみしてくれるんじゃ……
「今日はどこがこってますか？」
「背中かいてください」
そりゃいやとは言うまい。でも背中かきかきで1200円は馬鹿しか出さないおねだん。
美容院でシャンプーだけしてもらうのはどうだろう。ほら、「おかゆいところございませんか」っておねーさんが聞くじゃない。「背中！」って言えば一応は。
でも1200円は取るだろうなあ。後々笑い話にもなるだろうなあ。でもここまでかゆみがたまったからには思いきり上手に優しく誰かにかいてもらいたい。どんなに気持ちがいいだろう。それでもそれでも、やはり500円程度の価値かなあ。
悩みつつ、手も足も出ないかゆみに身を震わせながら繁華街に出ちゃった。耳にあてたイヤホンからは、大槻ケンヂの「おりゃしらね〜おりゃしらね〜よ猿だからな〜♪」というバカソングが流れてる。わたしはIpodじゃなくポータブルDCプレーヤーにBGM入れて流して歩くのが趣味なんだけど、ジャネットジャクソンのベストのはずが筋肉少女帯の「UFOと恋人」が入ってたんで、のっけがおさる音頭だし、他の曲にもやたら猿が出てくるし、とにかくケンヂクン何かというと絶叫するし、歩きにくいったらない。
で、インドとか南米とかの民芸品をごちゃごちゃ売ってる店の前に来た。こういうテキトーでやっすいものばかり売ってる店には、安くて長いなにかもきっとある。と信じ、藁にも縋る思いではいってみた。
イヤホンからは相変わらず大槻ケンヂの怒鳴り声。
「何っ？何もわからんのかっ、おう？お前の脳髄は、おさるの脳かあ〜！！」
怒鳴られながら長いもんを探す。
ジャグ用ストロー。35円。短くて軟弱そう、却下。
メキシコの蝋燭。60センチ、7800円。な、な、なんだってー！論外。
用途はよくわからないけど、木の板。350円。横幅がありすぎて無理。
おっ、いいサイズの紙の細い筒だ。長さもお手頃。何が巻いてあるのかな？
「神様ポスター、100円」。
広げてみたら、インドの神様が鮮やかに描いてある。別に信心もないし罰も信じてないけど、これで背中かいてポイしたら許されないような気もする。さりとてせなかかきかき記念に部屋に貼るのもいやだし。
……ん？あれ、何だかピッタリな代物が！

「ウッディ孫の手」

まごのてやないかい！しかも350円。
なんか神様か痩せた人みたいなのが彫ってあって、上げた片手でかくようになってる。
安い。これは、買いかも！　ご縁かも！

……買っちゃいました。

だってさ。これ買わなかったら、わたしは今まで何を求めて財布あけてうろうろしてたのかって話でしょ？　当然の選択だよね。
で、ほくほくして買ってから気が付いた。
もうこれっぽっちも、背中なんかかゆくない。

お前の脳は、おさるの脳かー！！

……一応うちかえって背中かきましたけどね。
バカ背中が、「何？　もういいよ」っていった。
そして気づいた。今日の性悪な服、この店で買ったんだった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　すでにいらない。