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2015年04月10日16:11

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荒馬・ビリー

もう一カ月近く前になるのですが、TVでクリント・イーストウッド主演、監督の『ブロンコ・ビリー』という映画を観て、心に残ったので書いておきます。

クリント・イーストウッドは、わたしが子どもの頃は『ダーティハリー』や『夕陽のガンマン』などのアンチヒーロー物の演技で好きでした。

大人になってからは監督として、良い仕事するなあ、とさらに好きになりました。

今話題の『アメリカン・スナイパー』はまだ観ていないのですが、以前観たイーストウッド監督の『ミスティック・リバー』は本当に良い映画でした。

『ブロンコ・ビリー』は1980年の映画で、宣伝用スチールだけだと一見西部劇に見えるのですが現代劇です。

派手さは全くありませんが、脚本も演出も非常に良く考えられていて、これまでイーストウッドが演じてきた孤高のマッチョ・ヒーロー像を裏返しにした意匠が効果的。

主人公ビリーは早撃ちやナイフ投げ、乗馬のアクロバット、ロープ投げなどを見世物にする、ワイルド・ウェスト・ショーの座長で、アメリカの田舎町をどさ回りしますが、西部劇は時代遅れで興業はさっぱり。

しかもビリーは本当は西部のガンマンなどではなくて、中西部出身の元サラリーマンで、おまけに浮気した奥さんを撃って怪我させて、ムショで七年臭い飯食ったお人です。

そんなビリーの一座の団員が刑務所で知り合ったインディアン夫婦に、黒人、片腕の男、後で拾った若造レオナードもベトナム戦争の脱走兵だったことが分かります。

そこに、遺産相続の条件が「結婚するべし」だったため偽装結婚したら、男に逃げられて無一文になった令嬢のリリーが成り行き上着いてくることになります。

お話は棲む世界の違う、ビリーとリリーの衝突と恋愛を中心に展開するのですが、有色人種に障害者、前科者に一族に見放された女と、一座の団員が社会の落後者ばっかり。

酒場でケンカしてしょっぴかれたレオナードが脱走兵だったことが分かって、ビリーは警察官になけなしの一座の貯金を掴ませて、見逃してもらいます。

そのとき腹の出た初老の警官はビリーを、「俺はお前より早く撃てる。どうだ抜いてみろ。銃を捨てろ」とさんざんコケにします。

他の映画では無敵のガンマンを演じてきたイーストウッドが、仲間を助けるために歯を食いしばってひたすら侮辱に耐えるシーンは見物です。

現実社会での本当のヒーローは、拍手喝さいされるカッコいいガンマンなどではなく、地味な汚れ仕事を誰かのために誰にも知られずにやってる、どこにでもいる普通の人のことなのさ。

その後、一座のテントが事故で燃えてしまいますが、新しいテントを作る予算もないビリーたちを救ったのは、慈善興業で必ず巡業していた精神病院だった、というのも、アイロニカル。

クライマックスは、今までのボランティアのショーのお返しに、精神病患者たちが無償で作ってくれた星条旗の布を縫い合わせたテントで、満員の観客をまえにビリーとその一座が最高のショーを披露します。

ショーのカーテンコールが映画の幕、という粋な演出。

ラストシーンは、テントの星条旗を上空から撮影したショットです。

弱い者たちが家族のように手を取り合って生きている古き良き一座の姿が、強者が弱者を搾取し続けている残酷な現実のアメリカ社会に、本当のアメリカって何だろう?と問いかけている気がしました。
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