避妊手術を終えた灰色猫は
しばらくうろうろとうすぐらい家じゅうをさまよい
鳴き声をなくしたかのように口をとじて
かたくとじて
月夜のよく見える二階の出窓を居場所に定めた
そうして終日空を見るようになった
ひるはひるのみかづき
電線に群れるむくどりの群れ
風に乗って広がってゆくさくらの花びら
夕暮れの小雨
宵の明星 風に揺れて窓を叩く楓の枝
途方に暮れたように 気がふれたように
ただ黙って空を見る 灰色の小さなこねこ
夕焼けが燃え尽きたころ背後から声をかけると
黙って振り向いた
ふたたび名前を呼んだ
しばらく黙ってこちらを見たあと
ムササビのように両手を広げて
灰色ねこは私に飛びついた
いやああああうー
悲鳴のような甲高い声
いやああああうー
いやああああうー
いやああああうー
いやああああうー
さがしものをしていたの
なにをなくしたかわからないけれど
どこにいったのかもわからない
そんなふうにおもえて
かたにくいこむつめを上から撫でながら
しがみついてくるちいさなからだをだきしめた
……何このポエム。
いえね、センチメンタリズムだってわかってるんですよ。
必要だからした。後悔はしていない。
でも後悔と心の痛みは別で、これはとめどもない。
わたしは神じゃないんだから、こんなことしていいのかどうかはそれこそ、いるのかいないのかわからない神様に聞かないとわからん。
で、痛みぐらいは感じていられるようでありたいなと。
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