かつて７０年代の英国ロックは、メロディーの美しさを競っていたし、それは英国トラッドから来る伝統であると思えた。しかし、その後の英国ロックは、現在に至るまで、メロディー重視の傾向から離れて行った。
しかしもちろん例外のミュージシャンは、いつの時代にもいる。シンフォニック・ロックにおいてメロディーが重視されると、やはり英国サウンドの陰影の深さ、繊細さには、比類のないものがある。
・ 曲 バンド アルバム
�� The cause / Comedy Of Errors [ Fanfare & fantasy 2013 ]
コメディ・オブ・エラーズは、５人組。ジョニー・ケアニーが専任ヴォーカルのほか、バック・ヴォーカルが３人おり、しかも１人はバック・ヴォーカルの専任だ。いかにヴォーカルを重視しているかがわかる。不毛な時代を超えて、遂にメロディーの美しいバンドがやって来た。声がボーイ・ソプラノで高く響くが、それだけでなくて、演奏の音造りもシンフォニックだ。ギターの泣きも期待通り。間奏は、かなりへヴィだ。バックにメロトロン・コーラスを配して、じっくりと歌い上げる。
�� Secret garden / Times Up [ Snow queen 2012 ]
タイムズ・アップは、４人組で、ヴォーカルはジェフ・スミス。４人の中にキーボード奏者がいないが、３人ものゲストがキーボードを弾いている。雪の女王をテーマにしたトータル・アルバムであり、冒頭でいきなりイエスのようなハイトーン・ヴォーカル。生ギターから泣きのギターに移り、メロトロンも入る。英国の伝統を大切にして、幻想的な物語を描き出した。
�� The dangers of strangers part 1 / Abel Ganz [ The dangers of strangers 2005 ]
アベル・ガンズは、３人組。ヴォーカル、ドラムス、ギターの奏者だ。しかし、誰が弾いているのだろうか。キーボードの音が分厚くて、３人とは思えないシンフォとなっている。ヴォーカルは男性的だが、泣くように歌うので、哀感たっぷり。長いイントロは柔らかなキーボード音であり、間奏もキーボード・ソロ。決してギターが前面に出ないで、靄のかかったような光景を描き出す。
�� Reason to change / Merchants Vice [ Amber 2003 ]
マーチャンツ・ヴァイスは、基本編成の５人組で、レス・ワードルが専任のヴォーカリストだ。空間一杯を占めるキーボード・オーケストレーションで幕を開け、透明感のあるヴォーカルがこれに続いて、メロディーをじっくりと歌い上げる。リズム隊はかなりハードだが、間奏で展開するキーボードの音像は暖かい。
�� Nightingales / Lyrian [ Nightingale hall 2008 ]
リリアンは、３人組。ギター奏者、ベース奏者、キーボード、ドラムス奏者の３人ともヴォーカルを歌う。この作品は、自主制作で５００部だけ発売された。音は薄いが、ロマンチックな香りが全編に漂う。繊細なことでは、今回一番。結晶のような透明感があるが、それでいて独特の翳りがある。薄暗い中で遠くへ鳴り響くキーボードに、爪弾かれる清らかな生ギター。ヴォーカルは哀愁を湛えて、英国的な田園の自然を感じさせる。このまま埋もれさせるには、あまりに惜しい。美しさに胸を打たれて涙が出そうになる音楽など、今の世には少ない。ヨッシー様の推薦。
�� Awake and dreaming / Gift [ Awake and dreaming 2006 ]
ギフトは、５人組で、マイク・モートンがヴォーカルとギターを担当している。メロトロンを含むキーボードが、幅広く空間を占めて流麗だ。細く高いギターに、２人の男性ヴォーカルのハーモニー。バックにメロトロン・コーラスらしき合唱が鳴り響く。へヴィネスはあまりなくて、弱弱しい印象を与えるが、メロディック・シンフォはこれで良いのだ。ヨッシー様の推薦。
�� Sand / Jebo [ Sinking without you 2006 ]
ジェボは、基本編成の５人組だが、ヴォーカリストが３人いる。専任ヴォーカルは、ジェームズ・ホリングスワース。男性的な声で、ポンプ感覚のヴォーカルだ。演奏もあまりシンフォニックではなくて、ヴォーカル中心で切々と歌い上げる。ギターがかなり前面に出ているが、泣きになることはない。このバンドも、ヨッシー様の推薦。
�� Trough the dawn / Red Jasper [ Anagramary 1997 ]
レッド・ジャスパーは、４人組で、ヴォーカリストが３人。ドラムスも叩くＤＣという名前のヴォーカリストの声が、中性的なハイトーンで非常に美しい。やっぱりシンフォのヴォーカルは、澄んだハイトーンであってほしい。アコースティック感覚の楽曲で、ギターのアルペジオとピアノで進行するところがフォーク調の味わい。間奏のギターは長く引っ張り、哀切に号泣する。メロディック・ロックの鑑である。
�� Three jumps the devil / Autumn Chorus [ The village to the vale 2012 ]
オータム・コーラスは、ロビー・ウィルソンをヴォーカリストとする４人組。感心するのは、４人全員がマルチ奏者であること。例えばヴォーカリストは、ギター、トランペット、オルガンも弾く。ジャケットに秋枯れの森。曲はグロッケンシュピールで幕を開けて、枯淡なトランペットがこれに続く。そして、メロトロンのようなキーボードで、荘重な流れが秋の情景を描き出している。ヴォーカルが弱弱しくて、へヴィネスがなさすぎなのが好みを分けるところ。これもヨッシー様の推薦。
�� The song / Riversea [ Out of an ancient world 2012 ]
リバーシーは、マーク・アトキンソンとブレンダン・イ―ルの２人組ユニットで、ゲストに１２人ものミュージシャンが参加している。いきなりのハイトーン・ヴォーカル。ダブル・ヴォーカルが悲哀に満ちている。ゆっくりゆったりとした曲が多くて、ヴォーカルも感傷的に切々と歌う。ヴォーカルが弱弱しいのをどう評価するかだろう。なんと、このバンドもヨッシー様の推薦だった。結局、今回の１１バンド中、５バンドがヨッシー様の推薦。
[次点] Until the end / Next [ The virtual cage 1994 ]
ネクストは、５人のメンバーが掲げられているが、リッキー・マッザを中心とするプロジェクトのようだ。この人は、ヴォーカルのほか、キーボード、ドラムス、プログラムを担当し、サウンドの多くを支配する。ネクストというのも、この人のニックネームのようだ。ほかのメンバーは、ギター、サックス、ベース、生ギター。専任のサックス奏者がいるところが特徴的で、トランペットがイントロと間奏で活躍する。ヴォーカルはささやくようで、シンフォとポンプの中間。サビのメロディーは、なかなか聴かせる。
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