１９６０年代後半に勃興したサイケデリック・ロックは、アメリカ西海岸のドラッグ・カルチャー、反戦平和運動フラワー・ムーブメント、ヒッピー文化などの中から出てきた。
薬物による幻覚を音楽にして、極彩色に描こうとしたものであり、ロックのサウンドとしては、ギターあるいはオルガンが鋭角的に鳴り響くところに特色があった。サイケが肉体的な「幻覚の音楽」だとしたら、そこから発展したプログレは、薬物を否定して内界を旅をしようとする精神的な「幻想の音楽」なのだ。
・ 曲 バンド アルバム
�� Purple haze（紫の煙 ）/ Jimi Hendrix Experience [ Smash hits 1967 UK ]
ジミ・ヘンドリクスは、「ギターの神様」と言われる。彼のようには当時誰も弾けなかったという。歯で弾いたり、背中にギターを回して弾いたり、火をつけて燃やしたりした。速弾きというだけでなく、催眠的な幻覚性のあるギター音だった。薬物の過剰摂取により死亡。死後出されたライブ・アルバムだけで５０枚は下らない。
�� Phallus dei（神々のファルス） / Amon Duul �� [ Phallus dei（神の鞭） 1969 Germany ]
サイケデリック・ロックが到達した芸術的な頂点として、私はアモン・デュール�兇痢嵜世諒棔廚鮨笋靴燭ぁＥ纏匆散舛涼蝋�絵巻、呪術的な男女の声の掛け合い、太鼓とヴァイオリンの乱舞。これに追随することのできた作品は、その後も輩出していない。アモン・デュールは、ミュンヘンで共同生活をする政治的コミューンであった。楽器経験のない者や子供までもが一緒にパーカッションを叩いていたらしい。その中から演奏技術に優れ、芸術志向だった７人が分派してセカンド・グループを作ったのだった。
�� You keep me hangin' on / Vanilla Fudge [ You keep me hanging on 1967 USA ]
サイケデリックのムーヴメントの中から出てきたヴァニラ・ファッジは、重いビートとハードなオルガンが特徴であり、当時としてはあまりに芸術的であったため、「アート・ロック」と呼ばれた。今聴いても、実にヘヴィである。しかもポップ。メロディーが哀切で、この曲は大ヒットした。アルバムでは７分強の長い曲だが、シングル盤は２分代の短い曲になっている。
�� Heroin / The Velvet Underground [ The Velvet Underground & Nico 1967 USA ]
ヴェルベット・アンダーグラウンドは、ポップ・アートの鬼才アンディ・ウォーホールに見出された。演奏も歌もうまいとは言えないが当時の潮流に合致したのだろう。この曲では、一貫して鳴り響くエレクトリック・ヴァイオリンと思われる音響が神経に触るが、ラストでは暴力的なヒステリックさに変貌する。ＣＤよりもＬＰ時代の方が、超音波が耳から脳に突き刺さるような苦痛を感じたものだ。
�� Lord of light / Hawkwind [ Space ritual（宇宙の祭典 1973 UK ]
サイケデリック・ロックが終焉したかに見えたプログレ時代に、最も正しくサイケデリック・ロックを承継していたのは、ホークウィンドだろう。新しく登場したシンセサイザーをピヨピヨと鳴らしながら、短調なリズムにからむブラス音で宇宙的なトリップ感を現出した。スペース・ロックとも言われる。
�� Interstellar overdrive(星空のドライブ） / Pink Floyd [ The piper at the gate of dawn（夜明けの口笛吹き） 1967 UK ]
ピンク・フロイドのファースト・アルバムは、今でこそ「夜明けの口笛吹き」と言われているが、日本に登場したときは、「サイケデリックの新鋭」という邦題だったのだ。ときは１９６７年、プログレの誕生の年と言っても良い。シド・バレットがリーダーシップを取っていたファースト・アルバムでは、歌詞も含めてサイケデリックな色彩と幻想が支配的だ。「星空のドライブ」はその後のピンク・フロイドの実験性、前衛性をすべて既に備えている。前半はサイケで、後半はプログレ。
�� Save yourself / Soft Machine [ The Soft Machine 1968 UK ]
ソフト・マシーンのファースト・アルバムは、１９６８年。ロバート・ワイアットが歌い、ケヴィン・エヤーズがベースのリズムを刻み、マイク・ラトリッジがファズをかけた攻撃的なオルガンを奏でる。この時点で既に精神的な中核だったデヴィッド・アレンは、脱退している。ブルース・ロックでなく、ポップでもない。当時としては奇妙なサイケデリック・ロックというしかなかった。それは、カンタベリー・ミュージックの誕生の瞬間だったのだ。
�� Somebody to love / Jeferson Airplain [ The 60's sound track USA ]
ジェファーソン・エアプレインは、アメリカ西海岸のバンドで、サイケデリック・ムーブメントの代表的なバンドだった。「サムバディ・トゥ・ラブ」は、メロディアスなヒット曲。当時日本でもよく知られており、グループ・サウンズの定番の曲だった。ヴォーカルのグレース・スリックはロックにおける女性ヴォーカリストのパイオニアの１人。
�� Light my fire（ハートに灯をつけて） / The Doors [ The Doors 1967 USA ]
ドアーズは、ヴォーカリストのジム・モリソンが魅力的だということで人気があった。しかしこの人も薬物の過剰摂取で死亡。続いてジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリクスが若い命を失ったことから、ロック界で薬物に対する拒否反応が出てきた。この曲は、ヒット曲だが、単なるポップな小曲ではない。間奏のオルガンが延々と続き、サイケデリックな空間を描いている。
�� Long gone / Syd Barrett [ Mad cap laughs 1970 UK ]
ピンク・フロイドの美しきフロントマンであり、精神的支柱でもあったシド・バレット。彼も薬物の過剰摂取により、セカンド・アルバムの途中でバンドへの参加ができなくなった。それでもピンク・フロイドのメンバーの助力により２枚のソロ・アルバムを完成させている。この曲に歌われている女性は、かつてシド・バレットの恋人であった人が、死去してしまったらしい。彼女はロックが好きではなかったようだ。この曲では、シドの哀切なヴォーカルとドラマチックなオルガンが印象的。
[次点] Satori part 2 / Flower Traverin' Band [ Satori（サトリ） 1971 Japan ]
フラワー・トラヴェリン・バンドは、もとはグループ・サウンズの中から出てきた「内田裕也とフラワーズ」だった。トラべリン・バンドとなって北米に渡り、カナダでこの曲をヒットさせた。「サトリ」いう曲名、和太鼓など日本的な意匠を凝らしているが、決して奇を衒ったのではない。ジョー山中の本格的な超高音ヴォイス。石間秀樹の「ラーガ奏法」という、シタールのように空間一杯に広がるギター。そして、催眠効果を催す粘着的なリズム隊。誰も真似することのできない至高のサイケデリック・ロックとなっている。
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