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2015年01月23日16:53

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見直される「対テロ戦争」

 下記は、2015.01.23付のJBpressに掲載された Financial Times の記事です。

                       記

           (2015年1月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 通常戦争の様相を強めるイスラム過激派との戦い

「グローバルな対テロ戦争(global war on terror=GWOT)」は嘲りの大合唱の中で一蹴された。懐疑的な向きは、ジョージ・W・ブッシュ大統領のGWOTは、グローバルではなく、戦争でもないと冷笑した――テロは戦術であって、敵ではないからだ。2009年に米大統領に就任すると、バラク・オバマ氏は密かにこの言葉の使用をやめた。

 GWOTは不器用なフレーズで不正確な概念だったかもしれないが、悲しいかな、言葉の粗探しは根本的な問題を取り除かなかった。

 どんな名前を付けようとも、世界はジハード(聖戦)主義者の暴力と問題を抱えており、問題が悪化しているのだ。

 この5年間でイスラム過激派の脅威が増大した具体的な特徴が2つある。まず、ジハード集団が活動する地域が広がった。次に、攻撃の頻度と死者数が増加している。

 昨年12月16日にペシャワルの学校で起きた148人(大半は子供)の大虐殺は、パキスタンでは2007年以来最悪の残虐行為だった。それに続き、今月、ナイジェリアでは「ボコ・ハラム」によって最大2000人が殺害され、パリでは2件の襲撃事件で17人が死亡した。

 3つの異なる大陸での3件の残虐な襲撃は、イスラム主義者のテロ攻撃の頻度が高まっているという印象を与える。この印象はデータによって裏付けられる。

 データが裏付けるテロ活動の拡大

 米ランド・コーポレーションの最近の調査は、2013年に全世界で活動している49のサラフィー主義ジハード集団を特定した。対して2007年は、その数は28だった。これらの集団は2013年に、記録されているだけでも950件の攻撃を実行し、その6年前の100件から増加している。

 ランド・コーポレーションのこの報告書は、ナイジェリアでの襲撃事件が急増する前に発表されたものだ。米国務省の最近の報告書は、2013年にテロで殺害された人の数を1万8000人と推定していた。だが、同報告書は、米国人の死者は非常に少なく、減少していることも指摘した。

 西側諸国でのテロによる死者の減少は、この問題が米国と欧州で散発的な関心しか集めないことを確実にした。しかし、欧米以外の世界各地では、ジハード武装組織が自由に活動し、訓練できる無法地帯の数が増えている。

 10年前、西側のテロ対策にとって懸念となる主な地域は、アフガニスタンとパキスタンの国境周辺で、もう1つの重大な心配の種がソマリアだった。しかし今、自称「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」は、イラク第2の都市モスルを含め、シリア、イラク両国内の広大な領土を支配している。

 アフリカでは、恐らくはISISの成功に触発されてか、ボコ・ハラムが領土を掌握し、今ではナイジェリア北部のベルギーほどの広さの地域を支配下に置き、さらにはカメルーン、ニジェールなどの隣接国を脅かしている。

 リビアの大部分は暴力が横行する無政府状態に陥っており、イエメンでもジハード主義がはびこっている。

 当然問題になるのは、なぜこの問題がエスカレートしているのか、そしてどんな対処が必要かということだ。

 西側の軍事介入の影響

 米国政治の唯我論的な世界では、政治家が問題はどういうわけかワシントンで始まると考えるのは自然なことだ。民主党はイラク侵攻を決めたブッシュ前大統領の決断を引き合いに出す。共和党は、オバマ大統領は早計にイラクから撤退したと主張する。

 実は、近年の歴史は西側の軍事介入の影響について多義的な教訓を与えている。米国がもっと早くにシリアに介入しなかったことが、ISISの台頭の原因だと言われることがある。その一方で、リビアに対する西側の軍事介入は、同国が無政府状態に陥る一因となり、ジハード集団が成長する余地を生んでしまった。

 現実には、この問題は、一義的には米国の外交政策と西側の悪行に関する問題ではない。近年、国連安全保障理事会の常任理事国は1つ残らず攻撃を受けている。米国は2001年9月11日に攻撃された。英国は2005年にロンドンの通勤客を殺した「7.7爆破事件」を経験した。

 ロシアでは、チェチェンのジハード主義者を相手に長く残虐な戦いを仕掛けた。中国は天安門広場での爆破事件や、各地の殺傷事件を経験した。そして先頃フランスが襲撃された。インドも最前線に立たされている。

 西側の大国としては、イスラム主義のテロに見舞われたすべての国と連携したくもなるが、政治的に難しい。そうした連携は潜在的に、チェチェンに対するロシアの言い分や、ガザ地区に対するイスラエルの言い分、新疆ウイグル自治区に対する中国の見方を受け入れることになるからだ。

 最近の暴力急増の背景にある要素には、アラブ世界の革命後に、数カ国で脆弱性が増したことがある。これに加え、ジハード主義者がメッセージを瞬時に拡散し、かつてないほど多くの聴衆に伝えることを可能にするソーシャルメディアの増幅効果もある。

 まるで通常戦争

 イスラム過激派が勢力を伸ばすにつれ、彼らとの衝突は次第に通常戦争と似た様相を呈するようになった。今では正規軍が領土の支配を巡ってジハード集団と戦っている場所がいくつかある。欧米の空軍はISISを爆撃している。

 ナイジェリア軍はチャドとニジェールからの派遣部隊の支援を受け、あまり効果的ではないとはいえ、ボコ・ハラムと戦っている。フランスは、ジハードの脅威を撃退するために、マリに軍を配備した。パキスタンはペシャワルの襲撃事件に突き動かされ、タリバンに対する軍事行動を再開した。

 ジハード集団の暴力の問題の解決は、長期的には、軍隊同士の戦いというよりは思想の戦いになるだろう。しかし、当面は、アフリカ、アジア、中東でイスラム主義運動に対する軍事作戦が行われている。結局、「対テロ戦争」はやはりあるかもしれないのだ。

By Gideon Rachmanコピーライト The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut andpaste FT articles and redistribute by email or post to the web.

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42749
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