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2014年11月22日17:45

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ユンディ・リ ピアノ・リサイタル

【プログラム】
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 「月光」 Op.27−2
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 「悲愴」 Op.13
     〜〜〜休憩〜〜〜
ショパン: ノクターン 第1番 変ロ短調 Op.9−1
ショパン: ノクターン 第2番 変ホ長調 Op.9−2
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 「熱情」 Op.57

《アンコール》
任光(王建中編曲): 彩雲追月
青海民謡(張朝編曲): 遥か遠くのそのまた彼方
リスト: タランテラ(巡礼の年報第2年補遺「ヴェネツィアとナポリ」の第3曲)

ユンディ・リ(Pf)

2014年11月11日(火),19:00〜,札幌コンサートホールKitara


ベートーヴェンの「月光」,「悲愴」,「熱情」,そしてショパンの「ノクターン」2曲。行き届いたマーケティングにもとづくプログラムだ。だれもが知っていて,多くの人が聴きたいと思う曲が並んでいる。それを弾くのがユンディ・リとくれば,鬼に金棒である。事実,ホールを見回したところ,ほぼ9割近い席が埋まっていた。

あくまでも素人考えなのだが,ピアニストにとっても与しやすいプログラムなのではないだろうか。それぞれの楽曲の性格や雰囲気が際立っているので,各曲目の個性を弾き分けるのが比較的容易なプログラムだろう。また,ベートーヴェンの「月光」やショパンの「ノクターン」が演奏曲目に入っているため,夜の気配が立ち込めるプログラムであり,リサイタル全体をまとめ上げるにもさほど苦労しなくて済むような気もする。

これまでもユンディ・リのリサイタルは何度か聴いているが,このピアニストについては,思い返しても漠然としたイメージしか浮かんでこない。今回,彼の演奏を聴いて,ルックスとは正反対といってもいい,パワーとテクニックで勝負するタイプの演奏家という印象を持った。

リサイタルの1曲目からパワー全開。「月光」は,明るく照りつける日の光のよう。ピアノの音に込められたエネルギーが強烈である。その乾いた音が力強くホールに拡散してゆく。詩情などというものには目もくれずに,ひたすら弾きまくる。とはいえ,この演奏がベートーヴェンのピアノ・ソナタのエネルギッシュな一面を捉えていることは確かだ。

「悲愴」もベートーヴェンのエネルギッシュでダイナミックな側面を強調した演奏である。哀しみや愁いを帯びた情感豊かな表現なぞどこ吹く風,即物的な演奏に終始していたのは「月光」と同じ。このソナタの魅力のひとつであるベートーヴェンの美しいメロディーも,ほとんど歌っていないユニークな表現である。

ショパンの「ノクターン」第1番と第2番では,ピアノの響きが少し引き締まり,ピアノから夜の雰囲気が漂いはじめる。ユンディ・リのヴィルトゥオージティとショパンの技巧性との相性が好いのだろう。だが,この作品の濃やかな情感や甘美な歌は置き去りにされたような演奏であり,聴く者の心に訴えかける力はさほど強くない。

「熱情」には思いの丈をストレートにぶつけたような強靭さがあり,納得の行く演奏だった。この作品は往々にして演奏者の気持ちが空回りしがちなところがあるが,ユンディ・リはあふれる思いを冷静にコントロールしつつ,持てるテクニックを自在に操り,この楽曲を気品高く造形してゆく。ピアニストの内に秘めたエネルギーを音楽のエネルギーに巧く変換できたところが,成功の秘密のような気がする。拡散しやすい乾いた音が,しつこさを中和したことも良かったのだろう。

ユンディ・リの持ち味が最大限に発揮されたのは,アンコールの最後に演奏されたリストの「タランテラ」。リサイタルの最後を飾るのに相応しく,このピアニストが持つ超絶技巧が遺憾なく発揮された痛快かつ爽快な演奏だった。抒情的な要素とは一切無関係に,ピアノを弾く技巧だけで聴く者を興奮させることに関しては,かなり秀でた才能を持っているようだ。

このリサイタルのプログラムをみて,抒情性に富んだ演奏もできるピアニストであると思い込んだのが,間違いの元のようだ。容姿に惑わされた面もあるだろう。重慶市に生まれ,香港の市民権を獲得した経歴に象徴されるように,パワフルなヴィルトゥオーゾというのが,どうやらユンディ・リの実像らしい。
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