プログレッシブ・ロックにおいて、キーボードは特に重要な地位を占めているが、シンフォニック・ロックとなれば、なおさらだ。キーボードの音響を何重にも多層に配置して、まるでオーケストラのように壮麗に空間を彩ることができる。
キーボード・オーケストレーションの極致、非メロトロン系シンフォのベスト・オブ・ベストを集めてみた。
・ 曲 バンド アルバム
�� Schoolyard fantasy / Flamborough Head [ Unspoken whisper 1988 Holland ]
オランダのフランボロー・ヘッドは、５人組のツイン・キーボード。シエベ・レイン・シャーフがヴォーカルも歌う。私にとってこのバンドとの出会いは、３０年に１度といったほどのものだった。ツイン・キーボードが分厚く織り成す空間を縫って、ハイトーンの哀切なヴォーカルが少年期の思い出を訴える。キーボードの洪水を背景に泣きのギターも、色彩豊かなドラムスも完璧。それだけにこのキーボード奏者が脱退して、女性ヴォーカルのバンドに変身してしまったのは、非常に残念だった。
�� Eigth kisses / Collage [ Safe 1995 Poland ]
ポーランドにおいてシンフォのムーブメントが形成されたのは、コラージュの成功によるところが大きい。５人編成で、ヴォーカルのロバート・エミリアンとギターのマレク・ギルは、今やポーランドの大御所と言える。壮大にして甘美なシンフォの最高峰。一分の隙もなく構築されたキーボード空間に、甘いヴォーカルの奔流だ。キーボードは、オーケストラよりも壮大だ。それでいて、森の奥深くや月光の滴りのような繊細な叙景を描き出す。
�� K eresd nmagad ( Search yourself ) / East [ Huseg 1982 Hungary]
ハンガリーのイーストは、１９８２年という年代を考えると、東欧に現れた驚異の突然変異であった。５人組で、ゲーザ・パールベルヂィのキーボードは壮麗な上にも壮麗。しかもドラムスのテクニックがまたすごい。一糸乱れぬ演奏に、憂いを秘めた暗めのヴォーカル。これがなんとハンガリー語だ。しかし、東欧にありがちな田舎っぽさ、ダサさはなくて、極めて洗練されている。あまりにハイレベルだったためか、後継者は出なかったが、最近再編成したようだ。
�� The river / Knight Area [ Nine paths 2011 Holland ]
オランダには、このタイプのバンドがいくらでもいるが、９０年代に先駆けとなったのは、ナイト・エリアではなかったろうか。最初はゲルベン・クラジンガを中心とするプロジェクトだったが、人気が出てバンド編成となり、最近は５人編成。荘重なキーボードで始まり、繊細なヴォーカルがこれを受け継ぐ。静と動の落差が極端で、まるで、キーボードの大瀑布のようだ。
�� Adonis ��: Epitaph / Anyone's Daughter [ Requested document live 1980-1983 Germany]
いつも１０選に登場させてしまうのだが、やっぱりエニワンズ・ドーターは、このタイプの最高峰。
特に１９８１年夏までは、コノ・コノピクがドラマーを務めており、完璧なドラミングを見せる。キーボードはマチアス・ウルマ―。たった４人で、壮麗な音宇宙を描ききる。特に「アドニス」は、透明感あるヴォーカルが遥かな神話世界を夢見る最高傑作だ。
�� As good as gold / Pendragon [ The masquerade overture 2005 UK ]
英国ポンプ勢からは、４人組のペンドラゴンを挙げておこう。ポンプ勢は、メロトロンをほとんど使わなかったが、キーボードの使い方はメロトロンのように空間を埋め尽くす。空間を埋め尽くすキーボードの代表が、クライブ・ノーランだろう。ニック・バレットのヴォーカルは、ちょっとひねったメロディーが多い。そして泣きのギターが、優雅に舞い踊る。
�� Ad infinitim / Ad Infinitim [ Ad Infinitim 1998 USA ]
アメリカ代表は、アド・インフィニティム。６人編成で、トッド・ブレイバーマンを中心とするツイン・キーボード、ツイン・ギター。イアン・ゴールドマンのヴォーカルは、ジェネシス・タイプの曲のときはピーター・ガブリエル風になり、イエス・タイプの曲ではジョン・アンダーソン風になるという、節操のなさが素晴らしい。重厚なキーボード群の洪水を背景に、ヴォーカルは情感たっぷりだが、透明感を失わない。
�� The healer / Visible Wind [ Barb-a-baal-a-loo 2000 Canada ]
カナダ叙情派の最高峰は、ヴィジブル・ウィンド。５人編成で、分厚いキーボードは、ステフ・ゲイセンス。テルミンのような高音も出す。溜めのあるヴォーカルは、ルイ・ルー。ジョン・ウェットンに似た響きで哀愁を誘う。ケベック州のバンドだけあって、英語・フランス語両方で歌う。洪水度には、曲によって濃淡があり、ギターがメタルっぽくなる曲もある。
�� Mirade de luz / Entrance [ Entrance 1999 Chile ]
南米代表は、チリのエントランス。５人組で、キーボードはジャイム・ロサス。細いハイトーンのヴォーカルと流麗なキーボードが合わさって、叙情的な情感を歌い上げる。ギターは、メタルっぽくなりがちだが、この曲ではギターの泣きもみごとだ。壮大さでは、南米１のサウンド。後にヴォーカリストは、もっと男性らしい声質の人に交替したが、サウンドは、不変である。
�� La citta di dite / La Conscienza Di Zeno [ Sensitivita 2013 Itary ]
イタリア代表は、コンシエンザ・ディ・ゼノ。６人編成で、ツイン・キーボードの１人が、鳩森様が懇意にしている若者ルカ・スケラーニ。上品なピアノの爪弾きから始まって、すぐに強引なキーボードが炸裂する。押しのパートは、ＥＬＰとイエスとポンプを合わせたような怒涛の快進撃。引きのパートはバンコのようにじっくりと静謐に歌う。ヴォーカルが張り上げるところでは、イタリア特有の息苦しいまでの情熱が支配している。鳩森様、ヨッシー様の推薦。
[次点] Secret gardner / Leap Day [Awaiking the muse 2009 Holland ]
好みでバンドをもう一つだけ選ぶとすると、やっぱりオランダになる。リープ・デイは、６人編成でツイン・キーボード。ドラマーが以前、フランボロー・ヘッドにいた人であって、技術が素晴らしい。流麗、壮大にして、甘美で哀切なメロディーのバンドが多いのがオランダのシンフォ・シーンの特徴だ。間奏では、まるで弦楽器群による本物のオーケストラのような音響が鳴り渡る。しかし何より魅力的なのは、英語で歌われるヴォーカル・メロディーの切なさだろう。
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