mixiユーザー(id:2230648)

2014年03月02日21:38

18 view

やりがいを召しあげるお話。

最近,谷本真由美(@May_Roma)著「日本が世界一「貧しい」国である件について」という本を読了した。
谷本氏の本は,「日本が世界一「貧しい」国である」のは人々が自ら考えることなく「空気」に合わせて行動するからであり,その結果として,どう考えても受けている対価に見合わないような分量の労働・労力を提供して過労死したり自殺したりする,そんな日本社会と日本人は世界(アングロサクソン系社会)から憐れまれているということを指摘するものだった。

谷本氏が指摘するとおり,職業などというのは所詮は生活の糧を得て自己の暮らしを快適にするための手段に過ぎない。
その,自己の生活を快適にするための手段によって自己の生活が破壊されてしまうとすれば,本末転倒も甚だしい。
だから,従業員を過労死させるようなブラック企業が責められるべきなのは当然のことだ。

しかし,それよりも何よりも,そんなブラックな職場からは過労死する前にとっとと逃げ出すことを,自ら考えて行動に移すべき。
そこを自ら考えて行動することができない日本人というのが,アングロサクソン系のいわゆるグローバル人材の人たちにとっては理解しがたく,憐れむべき存在になっている,というわけだ。

もちろん,実際にブラック企業で仕事をした人,そして過労死した人にしてみれば,反論はいくらでもあるだろう。
ただ,そのようなブラック企業を撲滅できない我が日本社会と日本人とが国際社会から憐れみの目で見られているという指摘については,そういうこともあるかもしれないとは思った(私はアングロサクソン系の「グローバル人材」の方々との交流がほとんどないので,谷本氏の指摘が当を得ているのかどうかを判断する材料を,残念ながら持ち合わせていない)。
------------------------------------------------------------------------
昨年11月10日のこの日記で,「おもてなし」は実はサービスの不当廉売に該当するのではないか,ということを記した。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1915728010&owner_id=2230648「非モテのお話。」)

得られる対価に見合わないような分量の労働・労力を提供するのが,過労死につながりかねない日本社会の悪弊であるとするならば,「おもてなし」というのも実は日本社会の悪弊であるのかもしれない。
でも,果たしてそうだろうか。

「おもてなし」に限ったことではない。
得られる対価に見合う分量の労働・労力を提供するのが職業の本来の姿であるというのはその通りだろうけど(だから,職に殉ずるとか仕事のために心や身体の調子を壊すとかいうのは本末転倒なのだ),それならば,例えば芸術家とか職人とかいわれる人たちはどうなるのだろう。
職業・仕事というのは,対価を得るためだけのものではないとも思えるのだ。
それはたぶん,「誇り」なのだと思う。

職業として何らかの仕事を遂行するとき,できれば誇りを持ってその仕事を成し遂げたいと,そう思っている。
それは滅私奉公とか会社のためにとかそういうことではなく,職業人としての自らの誇りということだ。
(「やりがい」と言っても良いかもしれない。)
外から客観的に見ると,得られる対価からすると不相当な労力を注ぎ込んでいるようにみえるときでも,自らの誇りのためにやり遂げようとする。
そういう要素は,あるのではないか。
------------------------------------------------------------------------
しかし,従業員を使用する使用者側が,その従業員の「誇り」につけ込んで働かせようとすることは,許されない。
私の職場で,労働組合のミニコミペーパーが「それは『やりがい搾取』というものだ」と指摘していたが,そのとおりだと思う。

ブラック企業のブラックな使用者が許されないことは当然として,働いている本人にしても,誇りややりがいのために心や身体の調子を壊してしまうのは,やはり本末転倒だ。
結局はバランスの問題であって,東京オリンピックの際に日本人と日本社会の誇りにかけて外国からの訪問者を「おもてなし」するということはあるかもしれないが,その「おもてなし」のせいで日本社会が甚大な被害を被ることになるのなら,それはやはり本末転倒だと思う。

誇りとかやりがいとか,そういうものは,市場経済になじまない。
------------------------------------------------------------------------
と,ここまで思考を進めてきて,これは,谷本氏の著作の直前に読了した,マイケル・サンデル著「それをお金で買いますか」での問題提起だったな,と思い当たった。
思わぬところで,最近の読書傾向がつながったのだった。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2014年03月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031