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2013年04月16日06:01

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「落語の国の精神分析」

 図書館本「落語の国の精神分析」を読了。精神科医かつ精神分析家で、さらに天狗連(素人落語愛好家のうち、自分でも人前で演じる人のこと)でもある著者が、
  「落語の登場人物に対する精神分析
    ≒落語ネタに人間性の本質がどう現れているか」
と、
  「落語家であるとはどんなことか?」
について綴った本。巻末に談志論と、著者と立川談春師との対談が載っている。

 取り上げられている落語ネタは、「らくだ」「芝浜」「よかちょろ」「文七元結」「粗忽長屋」「与太郎もの」「居残り佐平次」「明烏」「寝床」。このうち、明烏を除いて全て談志の十八番。

 著者は、談志、とくに円熟期(60代)の彼に心酔し、その時期の首都圏での口演はほとんど観に行ったそう。



→ 登場人物の精神分析が新鮮で面白い。落語ネタが人間描写としても良くできていること、談志による改良がその描写をさらに深めていることが良く分かる。

 他の名人達は職人であり芸人だったが、談志は「他人の目を常に自覚した近代的な意味の芸術家」だった、というのが著者の評価。なので、談志より前の名人達は先人が残したネタを改変することは先人に対する冒涜だと捉えていたが、談志は常に身もだえしながら落語ネタを改良し人間の業を描き続けた、と。



 以下、気になった記述をメモ。

・フロイトは著書「素人による精神分析の問題」の後書きに「サディスティックな素質の派生物である、悩める人を助けたいという欲求」とある。つまりフロイトは「人を助けたいなんていう人間は、本来すごくサディスティックな人間で、人を助けたい気持ちはその裏返しに過ぎない」と考えていた。

・自殺願望者が望んでいるのは、乳児のようにまったく「空白」の状態。何も「考えない」状態を「死んだ」状態のことと勘違いしている。


 談春師との対談メモ。・が談春、△が著者。

・談春師は真を打つ随分前、談志から「お前は一切、現代を語るな」とアドバイスされた。談志からのアドバイスはこれ1度だけ。ショックだったが適切だった。

・入門10年目「談志にはなれねぇ」と諦めたら売れ出した。志の輔兄さんは3ヶ月で気づいたそうだが年齢的には自分が2歳早く気づいた。

・△志の輔は談志を離れ、談志の十八番はほとんど演らない。談志が嫌いな、人間が向上していく話などを演る。逆に談志は人の業を描く噺などが好き。

・芸事は才能だけ。上手いのは最初から上手い。ただ魅力は違う。魅力は、どうすれば良いんだという答えは誰も持たない。
  △魅力の部分を自ら演出出来たのが談志。

・演ってる最中に新しい台詞のアイディアが浮かぶことがある。

・登場人物の中にいったん入って演じるようにしたら、単にスラスラ喋っていた時期より良く(面白く)なった。

・ネタはさらわない(復習しない)。初めてのネタなのに出来たりする。

・ネタの暗記は、自分は書かずに視覚的に覚える。頭の中にページが見える。

・談志は、実は努力の人で、自宅近所の根津神社や自室でよくさらっていた。あんなに稽古していた人はいない。ただ弟子には努力している姿を見せない。「寝る」と言って自室に籠もり百回でも稽古している。

・「よかちょろ」に父性がないのは、談志に父親の陰が薄いことと関係あるかも。

・業界が逆風の時の方が、「喰えない」ことを承知で腹をくくった人が来るので、人材が集まる。志の輔、昇太、志らく、喬太郎、たい平、花緑、皆、落語では喰えない時期の入門。

・自分の落語も他人の落語も聴くのは大嫌い。聴けるのは志の輔と昇太だけ。師匠談志のも今は聴けない(ので志らくに怒られた)。
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