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2013年01月31日18:53

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神戸尊の事件簿.2.5 『つきすぎている女』 第三章 【狙われた女】.2

第三章.1
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                           ▽

そしてその頃、尊からのメールを受け取った伊丹は、幸子が描いたと言う男の画像を見ながら「ほお?」とつぶやいて、にやりと片方の口角を上げる。

「いかにもって感じの特徴ですねぇ〜」

と、伊丹は誰かさんの口調を真似ると、「どんな特徴の人間なんすか」と芹沢が覗き込み、次に老眼鏡をずらしながら三浦がその画像を確認する。
尊が多少修正してソフトにはなってはいるが、その見た印象は『いかにもストーキングをします』と言うような感じで、少々意外性に欠ける。
と、言うかストーカーならば彼女が何者であったのか当に知るところだと思うから、余程の物好きかと言える。

「でも確かに、暴力団の大物幹部の愛人だった女性をストーキングって、かなり勇気がいりますよね?」

と、芹沢もその違和感に賛同する。が、その言葉に三浦は何かを思いついたように顔を青ざめさせた。

「おい、てぇ、事はもしかしたら月本幸子をつけている男って言うのは、その暴力団の元カタキの可能性もあるって事じゃねぇのか?」

「「ああああ!!!」」

伊丹も芹沢もその事に顔を青ざめさせ、大声を上げた。

「おい!ソンに連絡だソンに」

「でも警部補に連絡してもどうにもならないっすよ」

「バカか!角田課長だ角田課長!」

「あ!そうか」

そんな漫才を車内でやりながら、伊丹は携帯電話の遍歴から尊の番号へ発信する。
暴力団の組織編成や構成員は、おおよそ見当がついているものなので、尊から角田課長にこれと同じ特徴のある暴力団組員がいないかどうか、調べてもらおうと言う魂胆である。
そんな事なら彼らから直接言えば良いとも思うのだが、角田は違う課の課長であるのだから、やはり彼らとしてもプライドが邪魔をする。
それならば、快く応じてくれる特命係からの方が都合が良いのである。

『伊丹さん、何かあったんですか?』

そして当然ながら電話に出た尊の声は緊張を含んでいる。

「警部補殿、月本幸子はそばにいませんか?」

『今、部屋の奥にいますけど・・・』

「では、会話を聞かれないように注意してもらいたいのですが」

『分かりました』

そう返事をして、電話の向こうからバタリと言う扉の開閉する音が聞こえ、『大丈夫です』と、返した。
そして、尊と会話する伊丹の様子を芹沢と三浦は息を殺して見つめる。

「警部補殿、月本幸子をつけている男と言うのは、暴力団関係者の可能性があります」

『暴力団関係者?』

「いいですか?よく考えてもみてください、月本幸子はムショから出てきたばかりで、しかも暴力団の大幹部の愛人だった女です。いくら女性と言っても、カタギの男がそんな女をストーキングするとは思えないんですがね」

『・・・確かに。本当にストーカーなら当然そうした事も調べているでしょうから、一般男性なら恐いと思うかも』

「そんな女をストーキングするってったら、おのずと限られて来ると思いますがね」

『確かにそうですね。伊丹さんたちはかつての幸子さんをご存知ですから、そこは僕は思いつきませんでした』

そして、伊丹がその次の言葉をはき出そうとした時、『つまり、用があるのは角田課長ですね?』と、言葉がかけられる。

「そう、この特徴と一致する暴力団構成員がいないか調べてもらえませんか?」

『分かりました。ただ、しばらく時間がかかるかもしれませんが』

と、その言葉を聞いて電話は切れた。

しかしこの前からそうであるが、特命係が自分たちの言葉に対して妙に素直なのは、何だか調子が狂う。
まあ、それもそうだ。亀山薫は自分たちの事は右京よりも格段に下だと見ていたのに対し、尊はむしろ右京を尊敬するのと同時に、三浦と特に伊丹と米沢を尊敬してもいる。
見ている方向が全く逆なのだ。

「でも先輩、本当に暴力団関係者だったら嫌っすよね・・・」

すると、運転席の芹沢がぽつりとそんな事をつぶやいた。

「しかし可能性は否定出来ねぇからなあ・・・」

そして、次に後部座席の三浦がそんな事を言って脅す。
その言葉に思わず沈黙し納得しかけたが、助手席の伊丹はそれを振り払うようにいつもの調子でキレる。

「って言うか二人ともビビり過ぎなんだよ!」

しかし考える事は皆同じで、次には息を潜めながら、結局は何も無いことを祈るばかりだった。

                           ▽

それからしばらく時間が過ぎるが、幸子をストーキングしている。と、言う男は、間宮邸にいる尊や。外で車内にて張り込んでいる伊丹たちの気配を察しているのか、一向に現れる気配がない。

「あのう、そろそろロッキーの散歩に行かないといけないのですが」

と、幸子は張り込みのために窓の外を見ている尊に尋ねた。
確かに、そろそろ夕方も近くなっている。
それに家の中に篭っているよりも、いつもの行動パターンから推測する方が、何が原因で彼女はつけられる事になったのか、予想がつきやすくもあるし、ひょっとしたらその犯人も現れる可能性も考えられる。
しかしもちろん、彼女を一人で外に出す事はあり得ない訳だが。

「分かりました、じゃあ、散歩には僕も同行します」

と、尊は幸子に向けて答えると、椅子の背にかけていた真冬用の黒い厚地の膝丈までのレザーコートを手にした。
が、いつもの事ながら幸子は何だか不安そうに尊をしげしげと眺めている。

「本当に大丈夫ですか?神戸さん、弱そうですから・・・」

「大丈夫です。何かあった時のために伊丹さんたちにもついて来てもらいますから」

「そうなると何だか黄門様ご一行みたいですね・・・」

黄門様ご一行。
そうなるとあの中で誰が助さん格さんになるのかは不明だが、用心棒に囲まれていると言う点では合っているのかもしれない。
そして、もし右京がここにいたら、この中性的な容姿をからかう事が好きだったから、おそらく「だとしたら君は、あの色のあるくの一になりますかねぇ」とか、言われ。
自分はきっと「お言葉ですが。男の入浴シーンなど見ても誰も喜ばないと思います」とでも言い返しただろう。と、尊はふと思った。

「あ!いえ、伊丹さんたちは見えない感じで後ろについてもらいますので」

そう答えると、残念そうに「何だかあなたじゃ頼りなさそうで・・・」と更に幸子は付け加える。

ええ、いいですよ。いいですよ。いつも弱そうに見えるのは慣れていますから。
そんな事を思いながら、尊は伊丹に電話で犬の散歩に出かける事を伝えると、幸子とともにシェトランドシープドッグのロッキーを連れて外に出た。

ロッキーは散歩についてくる尊をはじめは不思議そうに見上げていたが、一度顔を見ているためか特に気にすることもなさそうで、ふさふさの尻尾をゆるゆると振りながらいつもの散歩コースを歩いていく。
そして散歩コースを歩きながら、ふと今まで話に出てこなかった部分に気がついた。

「そう言えば、ロッキーの散歩の際に、後ろからついてくる気配とかは無かったんですか?散歩の時間は定期的だと思うのですが」

その言葉に、幸子は「あ!」と、何かに気づいたように声をあげた。

「確かに、犬がいる事で安心していたのかもしれませんが、そのような気配はありませんでしたね?」

「犬がいる時は気配が無いんですか?」

と、尊は答えるといつものように唇に手を当てて考える。

「幸子さんをつけている犯人は、もしかしたら犬嫌いなのかもしれませんね」

「犬嫌い?だったら、ロッキーを殺そうと仕掛けたりするのが普通じゃないの?」

「でも、そういう大それた事が出来ないからって事も考えられるから」

「まさかそんなあ」

そんな会話をしながらも、尊は周囲に神経をめぐらせている。この会話はそもそもこれが狙いなのだから。
自分以外の誰かが家から一緒に出てきたと思ったら、犬を散歩させながら、楽しそうに会話をしている。もしストーカーだとしたら、それが男でも女でも、この状況は犯人にとっては許しがたい事であるには違いない。
もし目の前に現れなかったとしても、気配だけは表に出す可能性が考えられた。
それに何より、自分は強そうには見られない。いくら自分の事に関してはとことん天然ボケの彼でも、これだけはさすがに自覚はある。

尊は警備部出身ではあるが事務系の部署であり、SPではなかったから。
まだ彼が警察庁のスパイだった頃に、伊丹が狙われた事件にて彼を狙った犯人が、以前に事件の関係者だった事に傷ついた伊丹を慰めるためついた嘘のような、いわゆる要人警護などの経験は無いが、警察官としての警護の“いろは”くらいはある。
角を通り過ぎる際は、視線を角の上下を見てわずかに体を幸子の方に傾ける。
そんな事を続けながら、尊たちは広い公園にたどり着いた。
東京は世界中の主要都市の中でも特に緑が多いと言われているが、そうした所以はどんな街の中にも緑道や公園や神社がある。と、言うところにあるのだろう。

そして実のところ、人が交差してもさして何があったのか目につきにくい、公園の入り口付近と言う場所が一番緊張する場所でもある。

                           ▽

第三章.3に続く
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