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2013年01月15日22:10

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神戸尊の事件簿.2.5 『つきすぎている女』 第一章 【ついてない女】.2

第一章.1
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                           ▽

ちょうどその頃、『ついてない女、警視庁に出没』の噂はすぐに組対五課へと伝わっていた。
いつもの角田、大木、小松の三人は肩を寄せ合いながら、大木と小松がロビーで見てきたと言う様子を角田に伝える。

「おいおいマジかよ」と角田。

「マジです」と小松。

「今下で神戸警部補と頓珍漢なやり取りをやっています」と大木。

「まあ、そうだろうな」と再び角田。

この三人にとっても、暴力団に司法書士の立場を利用され、犯罪の片棒を担がされていた夫が殺され、その妻であった彼女が生活のためにその暴力団の大物幹部“向島茂”の愛人にされていたが。
その向島こそが夫を殺した張本人であり、自由を手に入れるために銃を向け、そのまま国外に逃亡しようとしたが、ひょんなことから右京と会う事になり、結果高飛びの直前で逮捕されたものの。
頼っていた香港の協力者は既に逮捕されており、向島は死んではおらず、彼女が捕まった事によって組織そのものを壊滅にまで追い詰める事が出来たのだが。
その2年後、向島を含む残党が彼女への復讐のために、また別の麻薬密売組織の復讐に協力し、月本幸子と吉井春麗(よしい・しゅんれい)と言う若い女性を刑務所から連れ出すのだが、彼女の機転から復讐に利用され、そしてまた彼らの殺害対処となっていた春麗も、彼女と一緒に右京と薫を含む仲間たちに助けられる事に成功したのだった。
つまり月本幸子という人物は、彼らにとっても印象深い女性なのだ。

しかし何でまた警視庁なんかに?
しかし、その疑問はここでこうしていても解決するはずがなく。角田は面倒くさそうに大木と小松に指示を出す。

「仕方ないな・・・通してやってくれと神戸に伝えてくれ」

「「合点!」」

そんな訳で、幸子は『特命係』に来たはずなのだが、肝心の『特命係』は全く役に立たない状態で、迎えに来た大木と小松から説明を受けた尊は、特命係の部屋で角田の話をただ聞いているだけの状態になった。

「で、特命に用ってのは?」

「あのう、課長さん?尋問みたいです」

「しょうがないだろ、元々こんな顔なんだから」

確かに普段は少々寂しくなった頭と黒斑眼鏡に、ベストと言うよりチョッキを着て「暇か?」などと愛嬌良く言ってはいるが、実のところ角田は銃刀器、麻薬覚せい剤と言う主に暴力団の資金源となるものを扱っている部署の課長らしく、かなりの強面である。
そのストレートな発言に尊は思わず「はははww」と声を出して笑うが、角田は実は何気に気にしているのか、「笑うなよ」と、ふて腐れた。
その様子に、幸子は思わず目を細める。

「なんだか、相変わらず楽しそうですね」

「相変わらず特命は暇だからね。こいつ一人で間に合うほど」

と、角田は主のデスクにいつものように尻を乗せる尊をくいっと親指で指す。

「まあそんなわけで、後はあんたでこいつに説明してやってくれ。あんたの事は全然知らないんだから」

と、一応暇じゃない角田は彼女から一応の話を聞き終えた後、尊にバトンタッチして席を譲ると、パンダのついたマイカップにコーヒーを入れて部屋から出て行った。

「で、つまり、今まで全然運がなくてついてなかったのに、こんなに運がいいのはおかしいって訳ね」

「そう!そうなんですよ!」

少々呆れ気味に答える尊に、幸子は熱っぽくその異常性をアピールするためなのか、彼女の事を知らない彼に向けて大袈裟に頷いた。
しかし、はたから見ればそれは笑顔で「良かったね」で済ませられてしまうことで、右京ならどうなのかは知らないが、特に何がそれで悩みであるかもよく分からない。

「良いじゃない。運が良いのは悪いことじゃないんだし。それにせっかく能力が認められたんだから」

と、尊は鼻息を荒くする幸子にあっさりとした答えを出すが。
「全然良くありません!」と、幸子はデスクをバン!と叩きながら立ち上がった。

彼女の相談事はこうだった。
四ヶ月前、無事刑期を終えて模範囚で異例の早期出所した幸子は、ハローワークで紹介された清掃の仕事をしながら安アパートを借りて、慎ましく暮らしていたと言う。
前科者の彼女からすれば、それだけで幸せな満ち足りた生活だった。
が、彼女はとある外食チェーンの会社社長宅のハウスクリーニングを任せられていたが、その真面目な仕事振りが評価され、スカウトされるような形で清掃業者を辞め家政婦として働く事になったと言う。
家族は現社長とその父親の前社長、そして現社長のまだ6歳の息子。妻は病気で数年前に亡くなったそうで。幸子の前に家政婦が一人いたそうだが、彼女が仕事を辞めたため、新たに幸子を雇う事にしたと言う。

仕事内容は部屋の掃除や食事の準備と言った家事一般と、息子の遊び相手と飼い犬の散歩と言う、何と言う事も無いものなのだが、びっくりするほど給料が良く、通勤に不便だろうからと、安アパートから今の立派なマンションを社宅としてあてがわれた。
そして幸運な出来事はそれだけではなく、自分の作った料理が美味しいと評判になり、彼の食品会社の正社員として採用しメニューの企画を任されるようになったそうで。そのメニューが採用されるたびにボーナスが支給されると言う。
そしてついこの間、若社長からもプロポーズを受けたそうだった。

まるで絵に描いたような幸運の数々。はたから見れば全く問題があるとは思えない。

しかし問題はここからで、仕事中はなるべく地味な服を着て、出来るなら黒にしてほしい。そして髪は黒髪のままで後ろに縛り香水は禁止、化粧も控えめにする事。そして施錠されて鍵も持たされていない、『絶対に入ってはならない部屋』があるらしい。
そして、その家の幼い一人息子は前の家政婦に慣れていたせいか、勤め始めてしばらく経つと言うのに未だに慣れてくれない。
しかも家政婦の仕事をはじめてからしばらくして、後ろから何者かがついてくる気配があると言う。
だからこれは何か怪しげな組織の陰謀か?と、言う事だった。

「そりゃあ、男所帯なんだし、まさか。怪しげな組織の陰謀って・・・」

と、話を聞いた尊はますます呆れるが彼女は一行に引かない。
いよいよ熱を加えてこう吐き出した。

「私は一つの暴力団組織を壊滅させるきっかけになったのだから、誰が狙っているか分からないでしょう?きっと、私がこの幸運にうつつを抜かしていると思って、虎視眈々と始末する隙を狙っているのよ」

                           ▽

第一章.3に続く
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