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2012年12月23日23:55

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神戸尊の事件簿 Story Of 0.5

以前に一度上げたのですが、切りが良いのでここらへんでもう一度、少し加筆修正したものを再度UPします。
(※以前のものは非公開にしました)

危険・警告こちらは右京さんがいなくなる直前の話で、こちらには右京さんは登場します。
あと、2.5の冒頭にも登場しますが、以降は登場しませんので、貴重な回になります。

設定では“季節外れのリコリス”は11月26日からスタートなのですが、それまでにSeason10の前半は全て終わっている。と、言う事にしてあります。
前半最終話『あすなろの唄』あらすじ。
http://www.tv-asahi.co.jp/aibou/story/0009/index.html

ついでに、Season10前半に登場した右京さんの大学の頃の友人であり、とある事がきっかけで高校生の一人娘と冷戦状態になってしまった加藤さん。(『すみれ色の研究』)
健康診断で親知らずに異常があるので、歯科へ行けと言われた右京さんが、病院で出会った余命いくばくもない女流歌人の高塔さん。(『晩夏』)の名前もあります。
最後はきっちり『1』のプロローグと繋がっていますので、要チェックですウインク
※土曜日だったので、8時半ではないって事は多分ないと思うけど、9時なんじゃないか?と・・・。


                     ▽          ▽

                   神戸尊の事件簿 Story of 0.5

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「珍しいですね。杉下さんがそんな事を言うなんて」

しかし彼は「君はまたおかしな事を言いますね」と、言う感じに、いつもの「はい〜ぃ?」と言う疑問符を僕に向けた。

思えばそれがきっかけだったのかもしれない。
今ここで「君がこの前考えていた事と同じことを考えています」と、言った。犯罪にしか興味のない彼の中に、『国家』と言うものが生まれたと言うことは、彼にとっては革命とも言うべき事であったはずであろう。
僕は元官僚だから、国の事を第一に考えるのは当然の事で、それで度々衝突しては互いの意見を受け入れてきた。
殺人の凶器となり、日本やもしくは世界の未来さえも救うかもしれないあの藻の一種の微生物は、いつもの彼であれば『単なる犯罪の証拠品』でしかないはずなのだが。
犯人となったこのもの一種の微生物の研究者が、罪を免れようと僕たちを殺そうとした事で起こった完全な死滅を、結果として僕が防いだ事になった事へ親指を上げて喜んでくれた時はただ、驚きしかなかったのだ。

そしてバクテクロリスの生き残りを城南大学に返しに行くと、それを見た研究ゼミの助手や学生たちが泣いて喜んでくれた。
単なる犯罪の証拠品が、誰かの罪を暴いた後、それがまた多くの誰かのためになることにもある。
何て言うんだろう。とにかく昔の人はよく言ったものだと思う。

その帰り道、信号待ちでふと目にした店に人が行列を作っていた。
『行列の出来る』と、言えばラーメン屋がお馴染みであるが、比率的に女性が多いのですぐにスイーツの店であると分かった。
ラーメン屋なんかは流行りで並ばれる事も多くあるが、スイーツは味の差がストレートに出やすいから、人気があると言うのは本当に美味しいのだろう。

その時尊の中で、あれ?と、疑問が浮かんだ。
米沢さんは長いこと杉下さんに協力してきたけれど、落語のCDやチケット以外に、何かをご馳走になったりした事はあるのだろうか?
実際椅子の後ろにあるあの本棚の中には、いわゆる高級メーカーのチョコレートが入っている事を知っているし、紅茶だって日本で売っているものは質が落ちる。とか言って、わざわざヨーロッパから取り寄せている事だって知っている。

今回米沢さんずいぶん機嫌が悪かったけど、そうだよな。頼まれていたことを伝えに来たのに、何で来たの?みたいな事を言われれば・・・。
まったく米沢さんも人がいいよな。
と、思いつつ、右京に小言を言われるのも癪なので、尊は気になりつつも米沢へのお土産を買うのをやめたのであった。

                           ▽

「他の人ならともかく、まあ、それも良くないのですが。杉下さんが米沢さんとの約束を忘れるなんて珍しくありませんか?」

と、また何か忘れてやしないか?と、尊は帰るなり確認してみたが、右京はオーディオセットのヘッドフォンでなにやら音楽を聴いていて、すっかり無視を決め込んでいる。
まったく、立って聴くこともなかろうに。
そう。ここの主(あるじ)の行動はいちいち気にしていたら、こちらがノイローゼになるだけなのだ。

「ようやく杉下さんも人並みになってきたんですかね?」

「はい〜ぃ?」

『人並み』と言う言葉が引っかかったのか、右京は紅茶のカップを持つ手を止め、尊に聞き返す。

「だって、人に頼んだ事を忘れたり」

「あれは単に考え事をしていただけですよ」

「でも考え事をしていても忘れていましたか?あと、女流歌人の高塔さん。杉下さん実は惚れちゃってたんでしょ」

そう言ってふふんと、鼻で笑ってみる。
当然ながら、右京は眼鏡の奥のただでさえ大きな目を、ぐりんと丸めて尊を映している。

「たまきさん、お店閉めちゃったのそのせいもあるんじゃないですか?」

そして痛いところを突かれたのか、その後珍しく右京がチェスの対極を申し出たので、尊は駒を進めながらもう一度訊いてみる。

「だってあんな綺麗な人、いつもなら君の専門分野でしょう。なんて僕の方に押し付けて来るくせに」

その言葉にぴくりと右京の手がとまる。どうやら図星らしい。

「それに杉下さんが文学に興味があるのも意外でしたよ」

しかし、このサイボーグのような人がまるでSFのように、ある日突然感情を持って、その能力が失せる。なんて事が実際ありえるのだろうか?
しかし彼は紛れもなく人間であって、サイボーグではない。結局はどっちなんだろう?
そう言って揺さぶりをかけたつもりだが、クリスタルの盤を見つめる右京はいつもの杉下右京のままに見える。
が、「あ!」と、尊はチェス盤を見て声をあげた。

「チェックですねぇ・・・」

「杉下さんが負けるなんて」

「脳内では君の方が勝っていましたから、盤上でも君が勝つのは時間の問題でした」

「・・・」

そう言って気にもしないように、いつものように紅茶を淹れてそれを味わいながら、「ほうっ」と一息をついている。
本当にいつもの杉下さんなのだろうか?と、尊はいつもどおりの杉下右京と、いつもとはどこか違う今の杉下右京を見比べるしかない。

相変わらず特命係の部屋には、尊のデスクの横にあるテレビからニュース番組がただただ流されていて、右京はデスクから仕切り越しにそれを眺めている。
犯罪にしか興味のない人が、興味を持つ犯罪と言うのは、つまり凡人には解決出来ない犯罪をかぎ分けると言うことなのだろうか?
しかし今ここに流れている殺人事件のニュースは、テレビの向こうと言うフィルター越しに映されている『未解決事件』と言う映像なのだ。
それを凝視する横顔を眺めながら、尊はこの人の頭の中に流れる思考を思う。

そして「あ!」と、あることに気がついた。
杉下さんは官房長の死と、たまきさんという今まで当たり前のようにいた人が突然そばにいなくなった事で、初めて誰かがいなくなった寂しさを知ったのかもしれない。
そしてそれが寂しさだと言うことに未だに気づかないのかもしれない。

結論として言えば、事件は『凡人が捜査すると所詮未解決になるから、天才が捜査をするから解決する』のでは断じて無い。
この人は、動ける範囲で事件を捜査しているに過ぎない。天才とは言われているが、自分が解決出来る許容範囲を知っているのだ。

今日もまた、隣の課長が尊の淹れたコーヒーを飲み、時にその部下の凸凹コンビも寛ぎに来る。
そして米沢さんからの電話に、右京はいそいそと鑑識課へと出かける。
今日は右京の目に敵うような事件は無いらしい。あるとしたら右京の中で生まれたのであろう、ほんの少しの、しかし大きな矛盾なのだろう。

杉下さんは僕に対して、何だか照れながら話す様子がおかしかった、少しだけときめきを覚えたのだろう高塔さんが、自ら命を断った後にはその事は話さないし。
そしてここ数日は特に大学に返してきたバクテクロリスの事や、気にしていた杉下さんの大学の友人である加藤さんの娘さんの様子も、僕から全く聞こうともしない。
また何かのきっかけで、本格的に人間不振に陥ったのだろうか?

「杉下さん」

「何でしょう」

「最近顔色が悪くありませんか?」

その言葉に、右京はむっつりとした顔を尊に向けた。
が、その顔はいつもの不機嫌なむっつりとは違っており、例の加藤さんのいる研究所で起こった事件の時のように、まるで触れられたくない場所に触れたような顔だった。

「元々僕は君のような色白なんですよ」

え?!そうだったっけ?男で僕くらい色が白い人なんて、日本人ではあまり見たことがない。しかも血色も無くて青白いなんて・・・。

「でも、最近はたまきさんもいないですし、食事面は気を付けないと・・・」

「大丈夫ですよ。君が気にする事もありません」

そう言われてしまうと、尊は何も言い返せなくなってしまう。

「なら、いいんですが・・・。晩御飯一緒にどうですか?と、思って・・・」

すると、今までのむっつりからとたんに右京は、いつものくしゃっとも例えられる笑顔を見せた。

「はじめからそう言えば良いんですよ。やっぱり君はナポリタンの方が良いですか?トマトに含まれるポリフェノールのリコピンは、加熱した方がよく働くそうですから」

「トマト食べたいんですか?あ!そう言えば以前奥多摩に行った時もビーフシチューでしたね。何だ杉下さんトマト好きなんですか。なんかやたらとナポリタンナポリタン言って来るんで」

「それは君がナポリタンが好きだと言っていましたから」

「はい、はい、分かりました。じゃあ行きましょうか」

そしていつもどおり定時より1時間ほど過ぎた頃に、入り口の横の木札を赤い色の文字に反して隣に挨拶をしながら部屋を出る。
いつもどおり。

だけどこの時僕は、これがこの『いつもどおり』の最後になってしまうことを知らなかった。
次の日の朝、この人はたった一枚の手紙を置いて何処かへ行ってしまった。
僕はいつまで経ってもこの人からは置いてきぼりだったんだ・・・。

                            ▽

2011年11月26日 午前8時45分 警視庁ロビーにて。

ロビーの先にある自動ドアの奥に並ぶエレベーターは、いつものように混みあっている。
刑事部所属のはずの特命係のある組織犯罪対策部は、警視庁本庁舎3階にある。

尊は混みあうエレベーターを見ながら「ったく、警察官なんだから階段を使えよな」と、吐き捨てると、ロビー正面横にある階段用の自動ドアを抜けようとする。
すると、毎度の事ながら「きゃーーハート達(複数ハート)ハート達(複数ハート)神戸警部補ハート達(複数ハート)おはようございまーすハート達(複数ハート)ハート達(複数ハート)」と、制服姿の女性職員の声を浴びる事になる。

クリスマスシーズンに入るし世間は週末だから、イベントでもあるのだろうか?
これから外回りに行くのであろうあのこたちは、多分交通執行課のこたちだろう。
一般男性から見ると女性警官の中でもアイドル的な存在。
だからどうかは分からないが、交通執行課の女性職員は他の部署のこよりも可愛く見せる事に長けているような気もする。

まあいつもながら尊ご本人も気づいていないが、彼も刑事のくせに十分に警視庁内でのアイドル的存在な訳だが。

「おはよう。気をつけていくんだよ」

と、笑みをつけて返すと、「はあいハート達(複数ハート)ハート達(複数ハート)ハート達(複数ハート)」と彼女たちは頬を染めてそれに返した。
そしてとんとんと、薄手のレザーコートの裾をひるがえしながら、足取り軽く3階まで昇ってくると、ここでもまた女性職員からの黄色い声がかかる事になる。

「おはよう」

そう微笑んで尊は少し乱れた前髪を手櫛で直した。

→be continued on 『季節外れのリコリス』

神戸尊の事件簿.1 『季節外れのリコリス』まとめURL日記
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1852629608&owner_id=1883219

オープニングテーマ

              THE BUGGLES 『Video Killed the Radio Star』


http://www.youtube.com/watch?v=Wd_pU80mGXk
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