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2012年12月21日22:31

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神戸尊の事件簿.2 『TIGER&BUNNY』 エピローグ

最終章.Last
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                          ▽

【エピローグ】


世の中は『クリスマス』とか言う、西洋から入って来た祭日を日本風にアレンジした祝い事で浮かれていたが。
肝心の『クリスマス当日の夜』になると一気に浮かれ気分は終息し、今度は『正月』に向けててんてこ舞いになる。
現に今日までは街中にあふれているクリスマスツリーの群れは、少なくとも日が変わる頃には一気に解体され、たいがいが今冬一杯まで飾られる並木のイルミネーションのみが、その名残を留める事になる。

要は『正月があるから25日まで浮かれていられない。』と、言う事なのだろう。

先ほど空港でサルウィンに帰る亀の奴を送ってから、被疑者は退院後に逮捕送検になるため、ひとまず捜査本部が解散するなり。
「今日はクリスマスなんでっ!」
と、そそくさと帰ってしまった『彼女とクリスマス当日を過ごす。』なるリア充の芹沢。
「僕はまだ、これからひと仕事残っているので」
と、言う今回の事件の発端となった(と、言うか悪いのは亀山のやつだが、警護についていたのはソンなんで。)特命の神戸ソン(尊)。

結局今年もこの浮かれ気分には好かれない自分がいて、何でこんな日があるのか?とさえ思う。
って言うか何でオレこんな事を考えているんだ?冬至を過ぎて、少し日が長くなったせいもあるのだろうか?

先ほどソンのやつから
「伊丹さん、『ジングルベル』ってクリスマスソングだと思っている人多いですけど、実はただのそりの歌だって知ってました?なので、来年からはそりの歌が流れていると思えば良いんですよ」
とか、余計な知識を吹き込まれた。

余計なお世話だ!!

しかし、杉下警部がいなくなってから、ふと今までを振り返ってみると、何だか不思議な感じがする。
オレたちは今まで特命係を疎ましく思っていたが、ソンは嫌いではなかった。
いや、むしろちかしい間柄で、それは芹沢もどうやら米沢も同じらしくて、むしろいた方が良い『大好きな存在』。

いや、もちろん恋愛感情って事ではなく・・・。

と、言う事はオレたち、特命係が大好きって事か?!!
それはまずいだろ。俺たち捜査一課なんだから。
いつからこうなった?
確か一昨年から既にそうなっていたような・・・。
しかしそれは、杉下警部がいるので亀山薫がいた時代からの『いつもの特命係』でいられたような気がする。

しかし肝心の杉下警部からはソンの奴は愛されず、あのとおりだ・・・。
この前よりもだいぶマシにはなったが、見ていると亀山のバカのせいでかえって傷口は広がってしまったらしい・・・。
無理して明るく振舞っているが・・・。さっきは本当に痛々しくて、見ていられなかった。
どうせあいつも予定はねえだろうから、残ってるって仕事が終わったら、あいつを誘い出してみようか?
そして思い切り泣けばいい。と、言えればいい。少しは楽になるだろ。

そう言えば、『福猫』の知識は誰が教えてくれたんだっけか?俺が初めからあんな事を知るはずもない。
闇に紛れた厄や邪を祓い、人々を良い方向へと導く黒猫。
しかし、その厄や邪を全てお前自身が抱え込んでどうするんだ。
『黒猫のご利益』に、気づかないうちそれにすがっていたのかもしれねぇな・・・。

そう考えれば、案外あっさりしていたのは米沢かもしれねぇ。
あいつ友達警部殿しかいねぇんじゃなかったのかよ。いつからソンとダチになってたんだ?

ってか何で俺がソンの事こんなに気にしてんだよ!

『んもう、素直じゃないですね。伊丹さん』

って、てめーもだろうが!!

ああ、今日の俺は何かおかしい。
クリスマスなんか大嫌いだ!!!

                          ▽

尊が伊丹に伝えた「まだ一仕事が残っている」と、言うのは、友人の前に警視庁首席監察官の、大河内に呼び出されているためであった。

もちろん今回は私用ではない。
結局事件は脱法ドラッグの密輸ルートに、民間人への殺人の摘発と言う大事件の解決へと大きく貢献したが、尊のミスで薫が人質になった事には代わりなく、さすがに帳消しとは行かないため、何らかの処分が下される事は明らかであった。
普段は何らためらいもなくこの部屋のドアを開けているが、やっぱり今回もノックくらいした方が良いのだろうか?と、トントンとノックをしてがちゃりと執務室のドアのノブを回す。

「失礼します」

と、控えめにドアをゆっくりと開けて、大きな国旗の横に据えられた重厚な作りの机の向こうに、尊に対しては珍しく仏頂面を向けて座る大河内を見る。

「ふん、さすがに立場は分かっているようだな」

そう言って「そこに座れ」と、大河内の正面に置かれた椅子を指さされた。

「さすがに今回は帳消しじゃ無いですよね?」

と、正面に座り、恐る恐る上目遣いに大河内を見るが、逆に眼鏡の奥からギロリとした視線を向けられる。

「当たり前だ。今回は亀山さんは民間人の上に公用で来日していた。それを警護を任せられながら、ぬけぬけと人質にされるのを許したんだからな。本来なら左遷と言うところだが、お前は既に降格の上に左遷までされている。しかし大規模な事件の解決への道筋を作ったとしても、何らかのペナルティーは必要だ」

「そうなりますよね・・・」

と、尊はとりあえず言ってみたのか、分かってます。と言うような表情を大河内に向けた。
そして大河内も仏頂面をそのままに続けるが、その内容は少々呆れるものだった。

「でだ、もう暮れも差し迫った事だし、警視庁中の正月飾りの準備をお前に任せようと思う」

「は?!それってペナルティーじゃないんじゃ・・・?」

呆れて思わず出たその言葉に、大河内は再び尊にギラリと睨みを利かせる。

「正月飾りを舐めるな」

「ま、まあそうなんですけど。何でそんなに気合いが入っているんですか?」

その質問に、大河内はしばし何かを考えるように、視線を上に向けると次に一言こう言い切った。

「どうせなら、正月飾りは豪華な方が良いだろう」

「まさか、俺のペナルティーのために正月飾りを豪華にするんですか?」

「こう景気が悪いのが続くと、辛気臭くていけないだろう。厄払いもかねている」

「はあ・・・」

こうして、大河内の独断が通ったのか、今回の警視庁内の正月飾りは後に「今年に限って」と、言われるほどいつもよりも気合の入ったものになるのであった。

                          ▽

「あ!神戸警部補!!」

寛大な対処をもらい首席監察執務室から解放されたものの、何だかもやもやとした感じが残る。
気持ちが悪いので、気分転換に外に出ようと思い、尊はロビーへと降りると、正面から芹沢が彼のことを呼んだ。

『あれ?今日はこれから彼女とデートだったんじゃないの?イルミネーションのはしごするんだ。とか言っていたのに』
と、不思議に思いながら「あれ?芹沢さん。どうしたの?」と、さり気なく返事をしてそばに寄ってみる。

「神戸警部補、せっかくなんで伊丹先輩に差し入れに来ました」

と、芹沢は目の前に明らかにその中に何が入っているか分かる、白い箱をぶら下げた。

「ああ、ケーキ。確かに今日は25日だからね。しかもこれって結構大きいんじゃない?」

そこをつっこまれて、芹沢はばつが悪そうにちょいっと肩をすくめたが、持ち前のいつもの明るさで事も無げに続ける。

「神戸警部補はこれから何か予定は?」

「ん?何もないけど」

「だったら警部補もどうすか?1人じゃ先輩絶対食べないだろうし」

「あはは、確かに」

「でも先輩の事っすから、『誰が好き好んで野郎と顔を付き合わせながら、ケーキなんか食わないといけねえんだ!』って言うと思いますけど」

と、芹沢は眉間に皺を寄せて伊丹の真似をする。

「素直じゃないからね」

そう言いながらお互いに「ふふふ」と、笑いあって、尊は「どうもありがとう」と、ケーキの箱を受け取った。
そして「じゃあ、おれ彼女待たせてるんで」
と、言い残して、芹沢はロビーから立ち去っていく。

さて、問題はこれをどうやって伊丹に食べてもらうかである。
今回の功労者は、毎度ながら米沢と伊丹なので、とりあえず特命係の部屋に置いて、まずは米沢のところへと鑑識課へと向かう。

「米沢さん」

と言いながら、鑑識課の奥の部屋のドアを開けると、すぐそこに小太りでおかっぱ頭の米沢の後ろ姿が目に留まった。

「おや、これは神戸警部補、どうかされましたか?」

「まだお仕事中ですか?」

「いえ、ちょうど終わったところですが」

と、米沢はいつもの八重歯をちらりと見せながら、少々怪しげな笑みを向ける。

「良かった!今ちょうど芹沢さんから差し入れがあったところなんです」

「芹沢刑事から?それは珍しいですな」

「ええ、なのでこれから食べに来ませんか?杉下さんのとっておきのお茶用意しておきますから」

そう言って尊はいつものにこにことした笑顔を見せると、「いつもお世話になっていますから」と、付け加える。

そう言えば、今日はクリスマスでしたなあ・・・。
と、今更のように米沢は思うと、いつものような『クリスマスなど、しばらく思いもつきませんでした』的なネガティブ発言を追い出し、「杉下警部のとっておきのお茶とは?」と、聞き返した。
そう言えば、行く度に新しい茶葉が見つかるような気がする。

「食器棚の戸棚に買い込んでありましたので」

確かに、尊には右京のように人の持ち物を勝手に見る。と、言うことはしないだろうから、たまたま開けたらそこからどんどん見つかった。と、言う形なのだろう。
そう考えると、向こうが勝手に持ち物を見せてくれる。と、言うテクニックを持ち合わせている尊は米沢にとっても、なかなかに興味深い。

「そうですか。では少ししてからそちらに伺います」

と、米沢は尊に告げると、「じゃあ、お待ちしてます」と、楽しそうに部屋から出て行く。
そして鑑識課の部屋を出、渡り廊下のところでスマートフォンが鳴る。電話の相手は今からまさにそちらに行こうとしていた伊丹だった。
思わず「わあ」と、声を上げて電話に出ると、何やら伊丹は言いにくそうに言葉を吐き出した。

『伊丹です・・・』

「うふふ、どうしたんですか?」

との明るい返事に、電話の向こうの伊丹はますます何か言いにくそうに小声で話しはじめる。

『あ・・・。あのですね、これから何もねぇなら、一緒に飲まねぇ、じゃない、飲みませんか・・・?』

その何やら妙に緊張した口調に、思わずくすくすと笑いがこぼれると、「ちょうど良かった。今から僕も伊丹さんを誘おうとしたんです」と、尊は返した。

『は?』

「ですから、伊丹さんに差し入れです。今から食べに来ませんか?」

『え?どう言う事ですか?警部補殿?』

「ですから、伊丹さんに差し入れです。嫌ですか?」

伊丹もまるで子供のようなそんな可愛らしい声で言われると、仕方がない。と、言う気分にさせられる。まさに神戸マジックである。
「分かりました」
と、返事をすると、向こうから『やったーー!じゃあお待ちしています』と、一方的に喜ばれて電話を切られる。
何だかなあ・・・。こっちは気を遣ってやっているのに。
全然元気じゃねぇか。心配して損した。

何だかしてやられたような気がして、なんとなく面白くない気分で組対五課の扉をくぐり、特命係の方を見ると、そこには既に先客がいた。

「何で米沢がここに居んだよ」

と、伊丹はやたらとここに馴染みまくった鑑識員の名前をドスの利いた声で呼ぶが、向こうは妙に明るい声で、しかもにやりと嫌味をつけて返してきた。

「やや、これは伊丹刑事、伊丹刑事もさては神戸警部補からお呼ばれですかな?」

「う、うるせえ!」

と、顔を赤くして一喝したところで、目の前のデスクに鎮座するアーモンドスライスと、サンタクロースの砂糖菓子付きのホールのショートケーキが目に飛び込む。

「ま、まさかこれを3人で食うのか?」

「ええ、芹沢さんからの差し入れで。本当は伊丹さんにだったんですが、伊丹さんだけじゃ食べないだろうって」

と、のほほんとした声でホワイトボードの裏から現れたのは、特命係係長代理の尊である。
手には何やら布製のカバーのようなものを両手で持っている。

「芹沢の野郎・・・」

「怒らないで下さいよ。気を遣ってるんですから」

そうしてその半球体のカバーのものを、デスクの真ん中にコトンと置いた。
ご丁寧に、既に3人分のカップと皿とフォークまで用意されている。
そして「もう少し待っていて下さいね」と、にこりと微笑んで、尊は時間になったところでティーコージーを外す。

そう言えば、10年も前からここには来ているのに、ここで紅茶は警部殿からは一度もご馳走になった事がなかった。と、今更に伊丹は思う。
そして尊が病院の屋上と空港で自分にあんな顔を見せたのも、彼にとっても自分は更にちかしい人間になっている。と、言う事に今更になって気付く。

『なんだ、あんたにとっても俺はダチなのか。福猫さんよ』

そう心の中で呟いて、「そんじゃ、こいつをいただくとするわ」と、伊丹は用意された椅子に座った。

Ending Theme:       Celtic Woman 『You Raise Me Up』


http://www.youtube.com/watch?v=AQ-fM5LKTbU

フォト


神戸尊の事件簿.2 【Tiger & Bunny】 END

フォト


あとがき&おまけに続く・・・。
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=1883219&id=1885578851

神戸尊の事件簿.2 『TIGER&BUNNY』まとめURL日記
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