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2012年12月11日00:49

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神戸尊の事件簿.2 『TIGER&BUNNY』 最終章 『Joy To The World』.4

最終章.3
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                          ▽

そして朝の10時になる頃、米沢から件の香水の成分の結果が出た。と、連絡が入った。
結果のファイルを持ち、捜査本部のある捜査一課7係の部屋にやって来た米沢は、尊と共にその他の刑事たちに話が聞こえる範囲で周囲を囲まれる事になる。

「香水そのものには、中毒症状を起こすような成分はありませんでしたが」

と、米沢は香料の成分構成と化学式の書かれたファイルを尊の目の前に置いた。

「アロマオイルにもその香り自体に効能があるように、ものによって意識を混濁させる作用がありまして、バラの香り成分の他に、人間に不快感を与える香りの成分が、そうですな意識をすれば分かる程度に混じっていました。いやはや、これぞ拷問の賜物と言いますか」

ああ、なるほど。
東西構わず聖人が修行の際に悪魔が様々な誘惑を見せる。と、言う話は聞いたことがあるが、その手のものか。
難解とも言える、その物質の症状である『意識の混濁』と言う状況は、彼らもざわざわと顔を見合せる事となっている。

「つまり、意識の混濁によって変な想像が無意識に起こされる。って事ですか?」

「ええとですな。臭いものの上に甘いにおいが被さった場合、脳が混乱して不快であるそれをシャットアウトしようとする。と、言う事でしょうな」

「まあ、分かるような分からないような気がします。つまり、このもの自体は幻覚作用などの症状は無いと・・・」

「まあ、日常的に存在するものを組み合わせて、似せて作られている。と、言った方が分かりやすいでしょうな」

「なるほど」

しかしまだこの時点であれば警察も出る事になるが、単なる『異臭騒ぎ』だ。
そして尊は例の『ユーカリ』と記載された植物の葉と、ユリの実の中に隠されていた種の検査結果を手に取る。
すると、それを待っていたかのように米沢は眼鏡の奥の小さな目をギラリと輝かせ、饒舌に語り始める。

「神戸警部補のおっしゃるとおり、こちらには現在確認されている幻覚、幻聴作用のある毒物によく似た構成を持つ毒物が確認されました。そしてユリの実に隠されていた種も、その植物の種かと・・・?」

「つまりやっぱり」

「脱法ドラッグですな」

「で、この香水と『ユーカリっぽい葉っぱ』を一緒に焼いたらどうなりました?」

尊が米沢に頼んで結果を待っていたのは、まさにこれの事だった。
そして米沢もそれを待ちかねたように軽妙に語りだす。

「それがですな。ナス科に代表されるアルカロイドに近い化学構成と作用が確認されまして」

「って事はつまり・・・」

「ええ、組合わさったこれらは立派な毒ガスです」

                           ▽

薫が目を覚ました時、左手に冷たいものがかかっている事に気がついた。
しかもその輪は思ったよりも小さく、薄さに対して重さがある。
いわゆる市販のおもちゃの手錠ではない。
ちらりと横目で見てみると、寝かされたベッドの横に立てられた、病院のベッドのような転落防止の柵にその黒光りする輪の片方をかけられ、拘束させられていた。

さて、一体自分に何が起きたのか、昨日の夜。と言うか、結局あのやかましい音楽に慣らされて、夢か現(うつつ)か酒に酔ったときとはまた別な、記憶を失うように眠ったのが、もう空が白みかけていた時だったように思う。
って事は今は何時なのだろう?昼間ではあることは確かだ。
しかもオバラとモヤシの気配が無い。単に眠っているだけなのだろうか?

昼間であるから当然、自分のいる部屋の外の廊下や隣の部屋、マンションの外の道には人の気配があって、身動きの取れない自分への情けなさと言うか、町の真ん中で拘束される事がどれだけ心細い事か。
確かに薫は何度も人質にはなったが、このような状態は右京と間違われて、山中に監禁されて以来ではないだろうか?
しかしまだあの時は誰もいない山中だったのだから、不安とあの頭のイカれた犯人への恐怖心が先立ち、今のような心細さと情けなさは無かった。

右京さんがいたらきっと、『おやおや君はまた人質になったんですね?しかも手錠とは情けない。これで7回目ですねぇ』とか言われるんだろうな。
と、独り言を思っては苦笑する。

しかも今は右京はいない。
それだ!情けないくらい俺が不安で仕方ないのは。
絶対に自分を見つけ出してくれると言う確信が、何故にこんなに心強いのもだったのか。
あいつがいくら伊丹や芹沢がすげえ奴だって言っても、こんな状況で落ち着けって言うのも無理なんだよな。自業自得だけど。
『自業自得』
そう。そもそもこれは薫自身が“元刑事”と言う自分の身分を過信しすぎたところにある。

『やっぱりあいつの言うとおりだったな』

あれ?だったら俺、やっぱあいつの事認めてるのか?
確かに『相棒』だなんて言っちまったしな・・・。あれは対等の関係のつもりだったんだけど。
やっぱりいい加減認めた方がいいのかな?右京さんは今、あそこにはいないことは確かなんだし。そうなったらやっぱあいつが特命係守ってるんだし・・・。

そんな事がぐるぐると頭の中を巡る。

あいつはもちろん俺がここにいることは分かっているだろう。
しかしどうやって。
あいつがここに来たとしても、どちらにしろ巻き沿いを食らうだけだろう。
わかんねぇよ方法が。

そんなネガティブな思考も途端に沸きだし、ここで考えるのをやめようと思い立つ。
自分が色々考えたところで、それを尊に伝える術もなく、ただただその無念さだけが大きくなって、時間が過ぎていくだけなのだ。

そして薫は左手にかけられた手錠をちらりと見る。
妙に見覚えのある。しかし型の古い手錠。
おそらくだが多分30年くらい前の日本の警察のものだろう。
警察章とシリアルナンバーの刻印があると思うので、誰のものだかすぐに分かってしまう。
きっとあいつらの先輩なんかが昔、警官を襲って手に入れたかなんかしたものなのだろう。
少し前まで、警官の手錠や拳銃を盗むのが流行ったからな。何でこんな事になったかな。

そう思って、薫は再び目を閉じた。

                           ▽

「警察車両が撤退していくだと?」

尊の思ったとおり、張り込んだままの警察車両に何かしらを嗅ぎ付けたマスコミの連中は、『一期一会』のあるマンションの周りでその様子を見ていた。
滞在しているホテルから、サルウィンからの代表の人物が消えたと言う話はすぐに漏れてしまうと思うし、それに警護の為に警察だと名乗っている尊も戻っていないとなれば、いよいよ事件だと思うだろう。
そして東南アジア風の音楽が一晩中大音量で流れていれば、大概目星はつけられると思う。

が、昨日の夜から張り込みをしていた数台の覆面車両が、12時頃から今まで、刑事たちのマンションへの出入りを確認してから、しかしここから移動を始めたのが、現在午後3時頃。
『騒ぐ若者、合法ドラッグか!?』
と、まあマスコミ受けの良いネタも転がっているとあり、近所の人からの情報による。今日の夜にあると思われる『クリスマスパーティー』と名乗る、“多分”ドラッグパーティーを待っていたのだが。

「見込み違い?」

と、ロケバンの中の一人の記者が呟くと、張り込んでいた他のメディアもざわざわと始める。
が、それをミスしたとなれば警察の失態の大スクープだ。ここで帰るほど彼らもバカではない。
そのネタが取れれば、この事件を許した警官は懲戒処分間違い無しだから、それに尾鰭をつけて味付けをして1ヶ月は持つだろう。
パーティーが始めると思われる、午後7時までにはまだ時間がある。
しかも今日は冬至だ。闇に紛れるにはちょうど良い。

「しかしイブイブじゃなくて今日ですか?」

「バカ、明日は旗日も旗日の祝日だ。いつも以上に苦情が出るのは目に見えている」

「はあ、よく考えますね」

「まあ、うちらにはちょっと有名な人物だし」

そんな会話で場を持たせながら、いよいよ日が沈み辺りが暗くなり始めるのを見る。
が、未だ7時まではあと3時間だ。
日が無くなった事で、急激に冷えていく気温に、今か今かと手をこすりあわせていると、午後6時前、複数の携帯電話の鳴る音を聞く。

「はあ?パーティーをやる場所は違う場所だって?」

そんな声が車の中から複数聞こえた。
確かに例の角部屋には明かりがついているものの、警察車両が小原学の持つ物件の一つに集まり始めたと言う。

「クソ!あいつらダミーを使いやがった」

と、電話に出た男は悔し紛れに、暇潰しのために手に持った雑誌を打ち付けた。
こうした取材は普段は少数精鋭だから、見込み違いとなれば移動する以外に他がない。
それにこの主催者は犯罪行為を犯罪行為と見せず、ネタには困らせない“小原学”である。
そんな訳で、彼らはこうした事に関しても彼を応援し期待しているのだ。

こうしてマスコミの車もこの場から立ち去り、再び辺りは窓をきっちりと閉め切った、冬独特の静けさを取り戻すのである。

薫は手錠の拘束は外されたものの、左手には片方をかけられっぱなしで、パーティー会場となるテーブルとオーディオセットのある、コミュニティースペースの横にある、暗い寝室に鍵をかけられ未だ閉じ込められていた。
何しろお客様だ。トチ狂った連中の『合法ドラッグ』を浴びせる訳にはいかない。
そして彼をここに送り込んだ、駐サルウィン日本大使館の目的も見当がついている。
何しろサルウィンの役人を買収して、日本に送っているのだから。

「なんかあー。外にいたマスコミみたいなのとぉ警察みたいな人たち、どっか行っちゃったけどぉ」

と、扉の向こうで今の若者に多く見られる、口をあまり開けずに喋る、何を話しているのか分からない喋り方で、今ちょうど部屋にやって来たのか?オバラに話し掛ける女の子の声に、薫は青ざめる。
まさかあいつが、ここを見つけられないなんてあり得ない。
しかし、扉の向こうでざわめく声は次第に増えていく。

「小原さん、向こうに誰かいるの?」

「ああ、何か義援金名目で金を集めて、向こうの役人買収してるのバレたみたいでさ。その調査だろ?そいつに前の事件を捜査してた刑事をつけられたんで、隙を見て誘き寄せて、邪魔だから閉じ込めてんの」

「きゃは!で、いつまで?」

「24日まで。その日には新しいのが大量に来るからさ。可哀想だけどその葉っぱ預かってるやつはブタ箱で、あそこに閉じ込めてるあいつはまた、あのサルウィン人みたいに、そいつを酒と一緒に食って東京湾に浮かんでもらうことにするよ」

そして、BGMのように流された音楽とともに、オバラの言葉を聞いた者たちは奇声を上げ始め、いかにもドラッグが売買されるような場所に流れていそうな、なにやら物騒な雰囲気の音楽のボリュームが、どんどんと上げられる。

「もうダメだ・・・」

今度こそおしまいだと、薫は暗闇の中きつく目を閉じた。

                           ▽

最終章.5に続く
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