1980年代前半、世界ラリー選手権(WRC)のトップカテゴリーは、量産グランドツーリングカー(グループB)によって争われていました。
ホモロゲーション取得に必要な最低生産台数がたったの200台だったこともあり、様々なメーカーから様々なマシンが登場しました。
PSAグループのシトロエンも、1000ccのコンパクトモデル『ヴィザ・ミルピスト』を投入していましたが、本腰を入れて総合優勝を狙うためのマシンが開発されました。
それがシトロエンBX4TCです。
前後のブリスターフェンダーとエアダム、4連フォグランプなど特徴的な外観を持つBX4TCは、コンパクトな5ドアセダンのBXをベースに、ターボエンジンと4WDという必要不可欠なパワートレインを採用したモデルです。
エンジンはプジョー505ターボ用を起源とする2141ccの4気筒OHCターボを縦置きに搭載。
これによりフロントのオーバーハングが延長された上、ノーマルのBXよりもホイールベースが短くなっています。
ボッシュKジェトロニックを採用したこのエンジンにギャレット製のターボチャージャーが組合わせられ、200ps、30.0kgmを発生しました。
トランスミッションはSM用の5速マニュアルで、4WDシステムは初期のアウディ・クワトロと同じセンターデフを持たない直結フルタイム4WDであり、リヤへの駆動はマニュアルでカットすることが可能でした。
サスペンションはノーマルのストラット/トレーリングアームから前後ともダブルウィッシュボーンに改められていましたが、ハイドロニューマチックはそのまま採用されています。
インテリアは同じ85年に限定販売された19スポール(2リッターツインキャブ128ps)のものとほぼ同じでしたが、メーターはご覧の通り、競技車両並みの多連メーターとなっています。
BX4TC透視図
さすがに、このレイアウトではフロントヘビーになっていることは容易に想像できます。
珍しい黒いBX4TCです。
こちらは日本にあるBX4TCです。
日本には2、3台あるようです。
85年9月にホモロゲーションモデルが発表された後、10月にはグループB仕様のエボリューションモデルが公開されました。
エボリューションモデルとノーマル
ロードバージョンとは似ても似つかないグループB仕様のBX4TCです。
フロントヘビーを少しでも解消しようという考え方は、アウディ・スポーツクワトロS1と同様でした。
すなわち、エンジンルームに搭載する補機類は最小限に留め、ラジエターやオイルクーラーを車体後部に搭載し、ラジエターへの空気はリヤクォーターから、オイルクーラーへの空気はウイングの下から、それぞれ取り入れられるようになっています。
近年のイベントで撮影されたエボリューションモデル。
リヤ周りの仕組みがよく判ると思います。
エボリューションモデルのエンジンはKKK製のターボチャージャーを採用し380ps、46kgmを発生しました。
しかし、いささか急造品であった感は否めず、デビュー戦の86年モンテカルロでは全滅、2戦目のスウェディッシュでかつて308グループ4や耐久レースで512BB/LMをドライブした名手ジャン−クロード・アンドリューが6位入賞を果たしますが、3戦目のアクロポリスではSS2で3台全車リタイヤという結果に終わり、この後グループB廃止が決定されたこともあり、その後WRCの舞台にBX4TCが姿を現すことはありませんでした。
ホモロゲーションモデルも実際には200台分のパーツが生産されたに過ぎず、実際に完成車として販売されたのは50〜60台ほどで、残ったパーツはスクラップにされたといわれます。
現存するBX4TCのロードカーは、世界で40台ほど。
華やかなグループB時代の影に埋もれた、悲運のマシンだったと言えます。
○車両諸元
1985シトロエンBX4TC
全長:4512mm
全幅:1830mm
全高:−−−−mm
ホイールベース:2612mm
トレッド(F/R):1548/1548mm
車両重量:1280kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHCターボ
ボア×ストローク:91.4×81.6mm
総排気量:2141cc
圧縮比:7.0
燃料供給装置:ボッシュKジェトロニック
最高出力:200ps/5250rpm
最大トルク:30.0kgm/2750rpm
トランスミッション:5速マニュアル
ステアリング機構:ラック&ピ二オン/パワーアシスト
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン/ハイドロニューマチック
ブレーキ:4輪ベンチレーテッドディスク
タイヤ:ミシュランTRX 210/55VR390
○車両諸元
1986シトロエンBX4TC グループBラリーカー
全長:4540mm
全幅:1915mm
全高:1380mm
ホイールベース:2612mm
車両重量:1050kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHCターボ
総排気量:2141cc
最高出力:380ps/7000rpm
最大トルク:46.0kgm/5500rpm
トランスミッション:5速マニュアル
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン/ハイドロニューマチック
ブレーキ:4輪ベンチレーテッドディスク
☆参考文献
CG別冊自動車アーカイブ〜80年代のフランス車篇
ラリー&クラシックスVol.02
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