最終章.4−1
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『神戸警部補のおっしゃるとおり、都内の織原聡美さんの物件には誰もおらず、誰かがいる様子もありませんでした。で、予想通り奴は位置情報をあげていました。リアルタイムはSNSの非公開設定したコミュニティBBSの方です。こちらの方が安全だと思ってしまったのかもしれませんな』
「タイムラインと、その際の位置情報は特定出来ますか?」
『位置情報は生憎基地局の特定で広範囲になりますが、タイムラインは警部補のおっしゃるとおり、2時50分の杉並区から始まって、その頃から通報も出ていますな。『逃亡者TOSHIO』のスレッドが立っていて“ちょっと遠出してこようと思うので、今から始発までどれくらいかな”だそうです』
「そんな事はいいですから!次は何処です。あと書き込みに目撃証言は」
と、東北自動車道を進む芹沢の車の助手席の尊は、警視庁内にいる米沢と、情報が入る度に電話と添付ファイルを受け取っている。
SNSのBBS、つまり掲示板は仲間同士の“コミュニティ”と言うブロックが作られており、そこに参加しないと書き込めないようになっている。
そのため、そのコミュニティを参加者以外見えない設定にする事も可能であり、“非公開”と言うものがつまり参加者以外見えない状態になっている状態である。
書き込みの中には今回のように当然犯罪性のあるものも存在するため、サイトを運営する会社にも通報ができ、場合によってはこのように警察にも協力できる仕組みが出来上がっている。
電話の向こうの米沢は、去年の警視庁人質籠城事件の際に右京をロープで支えた際もこんな感じだったな。と、苦笑する。
後部座席に座った伊丹も、むずむずとするように首筋を掻いている。
『目撃証言らしき痕はありますが、消去されていますな』
「くそ!劇場型かよ」
しかし会話は右京よりもずっと自分たちに近いような気がする。
『なので次は5時半の“今新宿です。これから何処へ行くでしょう”になりますな』
「だったら次は大宮」
『当たりです。しかし何故?』
「僕が警備部にいた頃、カルト教団がテロを起こしたじゃないですか。その時の実行犯が八王子に逃げたって情報があったんで。八王子は山間部があって潜伏にはこと欠かない他に、交通網が西にも北にも南にも通っています。そうした選択肢のある場所から書き込みするんじゃないかな?って」
『なるほど。さすが元警備情報係』
「と、するともしかして次は本当に栃木?」
『いや、場所は書かれていませんが、写真がUPされていますのでそちらを送ります』
と、メールに添付されていたのは建物もポツポツとした、何処かの片田舎のような風景だった。
『フェイクか』
非公開であったとしても、明らかに場所が特定出来る駅前は撮らないだろう。
そして次のメールで添付ファイルの地図上に大きく丸がつけられ、特定された発信場所はやはり栃木市周辺であり、以後金山の発信は途絶えている。
「ビンゴか」
「ビンゴです」
「まさかそのまま死ぬ気じゃねぇだろうな」
「それは無いと思います。いくら混乱しているとはいえ、逃げるだけの判断力は残っていますから、しばらくこの周辺を歩き回る可能性はあります」
しかし、とにかく一度犯罪から足を洗ったと豪語した後の無差別の殺人未遂行為である。
次にどんな手に出るのかは予測不可能だ。とにかく手っ取り早いのは死ぬと言う行為だろう事は確かではあった。
そして再び尊の携帯に米沢から電話が入る。
『今入った情報なんですが、我々は見つけられなかったようなんですが、とりあえず織原聡美さんのガセ情報は何処かに書き込まれていたようでして、彼女の今日の仕事先に向かいましたところ、面白い事が起きたようで』
「何です?」
『佐野恵美の犯行の共犯である、自称ジャーナリストで詐欺のアイドルオタクの2人が現れたそうで』
「はい?」
『いやはや、所詮はアイドルオタクはアイドルオタクと言うことなんでしょうなあ』
彼らは掲示板に書かれていた嘘の情報を真に受け、『あの情報は本当だったんだ。』と、絶望して、グラン・フェリス・パレスにいた仲間と、とりあえず真相を確かめに行った。ところを、捜査員に捕まってしまった。との事だった。
下手をすれば彼女を殺して、また金を騙し盗る気でいたようだから、要は仲間で仲間を釣ってしまった形となる。
事実、後ろ暗い金なのだから、騙し盗ろうとしても罪はない。と、供述しているそうだ。
今回の個人と個人の繋がりを駆使した犯罪は全容が見えにくいものの、組織のように仲間意識が無いために、連携はなかなか行き届かないものなのである。
その結果、より仲間意識の強いオタク同士が繋がったと言う次第である。
「で、小原学の行方については?何か言っていませんでした?」
『不謹慎ではありますが、今回の件でどなたかがホトケになれば分かりませんが、今のところは・・・』
「そうですか。どうもありがとうございます」
尊の言葉に米沢は『いえいえどういたしまして』と、付け加えて電話を切った。
どちらにしろあの場所に現れ、わざわざ小原学のいた場所からカメラを外した群衆写真がある以上、彼は金山の件に関しても何らかの関与はあるはずなのだが、明確な関連性が未だになされていない。
容疑が固まっていない以上令状も取れないから、電車を使った事により、今に映像となって足取りが集まってくるであろう金山とは状況が変わってくる。
結局いつもの振り込め詐欺系の事件と変わりないのか。こいつが黒幕なのは間違いないのに。
『くそ!』
と、尊は心の中で唇を噛んだ。
「あ!もうすぐで栃木市っすよ」
と、芹沢の言葉で尊は我に返る。窓の外を見ると、確かに今まで遠かった低い山並みが近づいてきていた。
「潜伏しているとなると、どこらへんになると思います?部屋は借りてるってても名義は人の物件なんだから、すぐには鍵は借りれないだろうし・・・。鍵はいつも持ってるのかな?」
「栃木市にしては建物が少ないので、西鹿沼町になるかも」
明らかに街なかではない風景の写真に、尊はこうした状況に陥った人間の心理を考えた。
人の多すぎる東京ならともかく、ここはある程度金山の顔の知れた街である。
と、なると街なかをさまよい歩いたとして、声をかけられる確率が高い場所であるより、見知った人間の多い場所を選ぶだろう。
しかし、織原聡美が持っている物件も街の外れであるから、待った方が良いのだろうか?
と、口元に手を当てて考え込む尊に、伊丹と芹沢は推理モードに入ったと、会話を止めていた。
「とりあえず、駅周辺と織原さんの周りで聞き込みしましょう」
「了解」
見ると、栃木市への出口はあと1kmに近づいていた。
▽
指定されたそこは、写真の風景とは違っていた。
しかし一本しかない大きな道は、そのまま進めば西鹿沼町に行き着く栃木市の外れであった。
地方と言っても比較的大きな街であるため、路線バスは頻繁に通っている。レンタカーなどと言う、目立った行動は取らないだろう。案の定、駅の周りのレンタカーは金山を見たと言う者はいなかったが、栃木駅のカメラには金山俊男らしき人物は写っていた。
「撒いたつもりなんすかね?」
「でもこうやって、行方が分からなくなった犯人はいくらでもいるよ」
「まあそうなんすけど」
と、今度は伊丹が聞き込みに出ている間、例の物件をばっちりととらえる場所に車を停め、尊と芹沢はコンビニで買った弁当を食べながら張り込んでいた。
とはいえ、あちこち回ったせいで昼食とは言えない時間になっている。
「もうすぐで暗くなりますね」
「そうだね」
昼間の聞き込みでは今日は見かけてはいないが、数日前には頻繁に見かけているそうで、近所ではすっかり顔馴染みらしく、今朝起きた事件の事を疑う者はいなかった。
さすがに運転手が出ている。と、言う理由でバスの乗客にまでは確認は取れなかったが、鍵は既に持ち歩いているから、やはりここに寄る気なのだろう。バスの時刻表を見ると、最終は9時だった。
とうとう日も沈みかけた頃、車の窓を伊丹が叩いた。どうやら運転手の確認が取れたらしい。
日曜日とはいえ、この路線バスを利用する乗客は顔馴染みが多いため、特に若者は目立つようだ。
「まだ帰ってきて無いのか」
「そんなに早くに来ないと思います。ここ周辺でも誰も疑う人がいないんですから、おそらく向こうでもそうなんでしょう」
「待っていて正解か」
「正解でしょう」
と、何故か芹沢の方が自信満々に答える。が、ここは東京からだいぶ離れている。
「ところで応援って来るんですか?」
「まだ奴を確認した訳じゃねぇからな・・・」
「最悪僕たちだけですか」
「まあ緊急措置な時にな」
「分かってます」
と、伊丹に念押しされた事を理解した尊は、静かに答えた。
そしてそれから2時間は経とうとした頃、夜でも光に溢れている東京にはない暗さの中を、外灯に照らされた人影を見た。
「金山?」
「金山ですね」
そして金山俊男らしき人影は、そのマンションの中へと消え、その通りの4階にある部屋の灯りをつけた。
逃げる様子はない。
それを確認すると、伊丹は電話をかけた。
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最終章.4−3に続く
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