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2012年06月01日00:02

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神戸尊の事件簿.1 『季節外れのリコリス』 最終章.ニホンズイセン.2−1

最終章.1−6
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「神戸警部補って、警備局の警備企画課にいる前って警備部警備第一課の警備情報係にいたんすよね?」

と、伊丹と芹沢はランチに入ったレストランで、尊がいない間にそんな会話を始めた。
当の警部補殿はいつものとおりナポリタンで、相変わらずのお子ちゃま舌っぷりを発揮している。
それなのにあのとおりだ。自分たちに普段見せる天然ボケが素なのか。それとも捜査の時のような、まるで杉下右京をコピーしたようなのが素なのか、よく分からなくなる。

「ああ、確かそうだった。どちらも事務系だ。なのにあんなに強ええってのも妙だが」

「だからじゃないすか?」

「あん?」

「どっちも犯罪の中でも、外事関係やテロなんかの情報を扱う部署っすよ。どんな思想や心情があろうと、破壊行為は一律にしてテロ行為なんすよ。まあ実際はどうか知らないっすけど」

そう言えばそうだ。考えてもみれば尊がいた部署は、本来であれば杉下右京の考え方に近いはずなのだ。
だからあいつはついこの間まで自分を嘘で塗り固めてまで、何かに苦しんでいたんじゃないか。

「そう言や警部殿もギリギリだがそんな世代なんだよな。それで警部補殿と徹底的に対峙しちまったか?まあ、俺達には知るよしもないが」

その言葉に芹沢も口をつぐむ。
そうなのかもしれない。もちろんそうではないのかもしれない。

そう言えば4年前の年末の遊園地で人を殺し、復讐のために北海道のホテルごと吹っ飛ばそうとした翻訳家の女に、警部殿は公安部の保管庫から爆弾を作らされ、それを誤爆させて死んだと言う恋人の遺品を贈ったらしい。
と言う話を聞いたことがある。
そして、チェスに託つけて起きた猟奇殺人の真犯人は、結局は一体誰だったのか?
被疑者は全員死んでしまったが、どちらにしろ墓を掘り返してまでも真実を暴こうとするようないつもの彼らしくはない。

そして事実上亡霊となった本多篤人を再び地上に呼び起こすために、自分たちも特命係を利用したのが3月。その時からだ。
あいつは、あんなになるまで傷ついたって事なのか?
そしてもしかしたら今までにも、見えない部分でそんな事をしてきたのかもしれない。あの人は。

そんな事を考えていると、芹沢がよく分からない方向に話を転換しはじめた。

「あ!フォークソング世代っすか?合唱コンクールとか決まってその頃の歌だったっすよね。先生がその世代だったんすね」

が、その理由がすぐに分かった。

「あ!電話終わりました」

と、電話を終えた尊が2人のところへ戻ってくる。
電話の相手は、野塙菫の姉の木崎百合江だった。
2日前に尊は何かあったら。と、名刺を渡したが、まさにその事で電話をしてきたと言う。

「分かりやすく出てきましたよ。でも何でグルだって分かったんです?」

と、スマートフォンを内ポケットにしまいながら、尊は不思議そうに訊くが、いつものように答えるのは芹沢で、その後に伊丹が続いた。

「勘だそうっすよ」

「罠をかけやすくなるって言ったのあんただろ」

「でも100%うまくいくとは限らないじゃないですか」

その言葉に、伊丹は「け!」と嫌みったらしく横を向くが、それに応えるように尊はにこりと微笑みながら続ける。

「だから伊丹さんってすごいなって。尊敬しますよ」

と、また照れ臭いセリフをさらりと言ってのけると、にっこりといい笑顔で笑うのだ。それがもちろん、彼が好かれる理由でもあるのだが。
でもどちらにしろ、とりあえずは大丈夫そうだ。
そして芹沢が気付いたように言う。

「でも、自習室のあの本どうしますか?」

「とりあえず借りていきましょう。それか伊丹さんが調べますか?」

「は?!」

「だって、用があるのって僕なんですし・・・」

その言葉に、芹沢はぷっと吹き出す。それに反応して伊丹はきっと睨み付けると、店内なので小声で啖呵を切る。

「うるせー芹沢。上等じゃねーか」

「良かった。だってあれだけ借りるんだったら一度戻らないといけないでしょう?」

と、また悔しいくらいにいい笑顔を見せた。

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「と、言う訳で先輩撃沈です」

と、本を広げたまま芹沢が答える。
そしてその向かいには、その状況をまさに物語るように伊丹が突っ伏している。

「何で園芸植物には横文字が多いんだ。意味わからねぇ」

まあ、真っ当な意見ではある。
最近は全部引くるめて学名読み。と、言うものも多いし、種類名は商標がついているものも多い。
図書館でこうして調べなければならないほど、性質をややこしくしているのはその事にある。

「あ!もしかしたらそれこそが動機かも」

と、戻ってきた尊は呟いた。

「ん?どう言う事っすか」

「商標や学名表記のせいで、それそのものの性質が分からなくなっている」

確かに、学名と言うものはいわば記号のようなものだから生物学的な判別の意味合いは持つが、個別の存在としての深い意味合いは持たない。
それに商標となると、そこらへんの商店に売られているものと変わりないのだから、それは植物そのものからかけ離れたものになってしまう。

「じゃあ、続きは持ち帰ってやりましょうか」

と、尊は散らかった本を一まとめにする。

「は?まだやるのかよ!さすがお勉強が得意なだけありますね」

「いえいえそれほどでも」

と、にこりと笑うと、すっと伊丹の耳に耳打ちする。

「これ以上はここでは話せませんから」

それは、自分たちの職業を考えれば当然の事だ。調べものでない限り、こんなところでスーツ姿の大の男が集っているのも妙な光景であるし、今から話すことは捜査本部にも伝える事のため、二度手間になる。
そして尊はまとめた本を抱えると、伊丹を置いて自習室から出ていった。

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最終章.2−2に続く
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