(日記の内容はレビューと異なります)
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=1833905&id=1599823
4月20日、昼過ぎにやっと時間が空いたので、食事も取らず映画館に駆けつけた。
窓口でもう予告編が始まったと教えられ、暗闇の中、席に滑り込んだ。
溜まった寝不足、さらに飲まず食わずで、2時間を乗切れるかと少し不安だった。
でも、映画館をはしごしていた大学時代はこんなだったと思い出し、懐かしくなった。
私は映画が好きだ。
子どもの頃から、生まれる前に作られた映画を独りで楽しんでいた。
サイレント映画。モノクロ映画。ミュージカル映画。
みんな、私のお気に入りである。
『アーティスト』の噂を聞いた瞬間、(これは私のための作品だ!)と小躍りした。
監督は同世代のフランス人と聞き、なお嬉しかった。この世に「同志」はいたのだ!!
http://artist.gaga.ne.jp/
予告編を見ただけで震えが来た。
懐かしい時代のエッセンスが、何もかも完璧に表現されている。
これは絶対にスクリーンで観なければならない。あの時代を堪能しなくては。

映画好きには溜まらない( Behind the Scenes )
http://youtu.be/Q0ZITTlygdc
平日の昼間だというのに、客は割と入っていた。年齢層はやや高め、男性が多かった。
ただ、皆が皆、映画マニアではなさそうだった。
私の隣にいた男性は、コメディタッチの前半で、早くもいびきをかき出した。
それを聞いた瞬間、私は驚いて「ええっ、うそっ!」と小声を上げてしまった。
決して責めるつもりはなかった。
実際、その時の私は、思わずニヤニヤしてしまうのを
周りの人に気取られて怪しまれないよう、堪えるのに必死だったから。
それで、こんなにテンポがいいのに寝るなんて信じられない!と、純粋に驚いたのだ。
隣の男性は、私の声に目を覚ましたのか、以後は最後までいびきをかかなかった。(爆)
ただ、mixiレビュー一覧を見ても「退屈だった」という感想は少なくない。
サイレント映画は能動的に楽しむ娯楽なので、鑑賞にはコツと年期がいるのかも。
モノクロサイレントは、映画芸術の出発点にして粋である。
音楽と動きと編集の魔法で、複雑な感情が読め、声が聞こえ、色さえ見える。
だが、その魔法には、観客の「心の目」を必要とする。
それゆえ「見える人にしか見えない」のだ。
モノクロかつサイレントでも、複雑な物語を理解することに支障はない。
流れを妨げないよう字幕は最低限でも、本作が伝える情報自体は豊富だった。
それは「きちんと作り込まれている」ことの証明だ。
台詞は唇の動きで読み取れたが、それに頼らずとも、役者の表情やアクション、
的確なカット(サイレント映画独特の視覚効果=表現作法を含む)、
プラス 雄弁な音楽の力で、基本的なことはきちんと説明し尽くされていた。
(演出として、一部にトーキーを導入してはいたが)
そう、音楽の力は大きかった!!!
「誰よりも懐かしい音楽を作れる作曲家」の Kamel Ech-Cheikh に
本作を捧げる、とのエンドクレジットには大きな意味があったと思う。
(彼は『OSS 117』の音楽担当だった。
http://youtu.be/HYobrwvSs9Q )
変革の時代をテンポよく描きながら、同時に大人の恋愛物語も進行させる
脚本の妙にも唸らされた。
役者達も素晴らしかった。往年の役者らしい人達を、よくぞ揃えたものだ。
(ヘアメイクと衣裳のスタッフが腕によりをかけたお陰もあるだろうが)
ただし、 本作は「現代の映画」であり、決して「昔の映画のコピー」ではない。
入れ子状になった劇中劇での演技は「往年のサイレント映画」を表現していたが、
それ以外の演技は現代劇のスタイルに近い。彼らは絶妙に演じ分けていた。
また、登場人物の感情表現には、フランス映画ならではの繊細さが感じられた。
例えば、オークション会場から去るジョージを車の鏡越しに見送るペピーの涙には
思わずもらい泣きした。
また、「燕尾服ひとり二人羽織」(笑)のシーンなど、女があんなにエロい手つきで
腰を抱き擦って…と、一瞬ドキッとした。ギリギリで邪魔が入って良かった。(汗)
http://www.youtube.com/watch?v=OK7pfLlsUQM#t=48s
ヴィスコンティの『熊座の淡き星影』で、姉の肩に弟が手を置き近親相姦を暗示する
シーンに匹敵する際どさだった。およそ、往年の作品ではあり得ない演出だろう。
冒頭、カーテンコールの場面は『ジャズ・シンガー』を彷彿とさせた。
http://youtu.be/UYOY8dkhTpU http://youtu.be/hf95QHmJ8aM
大枠の設定は『雨に唄えば』だ。 キャスト達の佇まいは1920年代そのもの。
http://youtu.be/jEKQwy13j_8 http://youtu.be/4oOgBzeG-xY
絵に書いたように陽気なハリウッド・スター、ジョージ・ヴァレンティンは
ルドルフ・バレンチノの名にあやかったか。彼は冒険活劇の二枚目との設定。
チャップリン、キートン、ロイドばかりがサイレント映画ではない。
http://youtu.be/vWXPg2oSWxo http://youtu.be/b_sG5vRKcB0
悪声だったバレンチノは、トーキー前にこの世を去ってラッキーだった。
時代を読み誤ったジョージは、新人ペピーにスターの座を明け渡す羽目になる。
折しも大恐慌と重なり、一気に落ちぶれた彼が質屋に足下を見られる様子に
ビング・クロスビーの「Brother, Can You Spare A Dime?」を思い出した。
http://www.youtube.com/watch?v=eih67rlGNhU
ショーウィンドウに佇むシーンは『街の灯』へのオマージュかも知れない。
http://youtu.be/kpeiPbjDlDs
悲劇の色を思い切り濃くしておいて、最後に必ずハッピーエンディングを
用意するのは古き良き映画のマナーであり、創り手の良心の表れである。
その様式美と歴史とを巧みに融合させたラストに、私は胸を熱くした。
主人を救うアギーの大活躍は、リンチンチン、ラッシー、ベンジー等、名犬の系譜。
ジョージとペピーが踊るタップダンスを長回しで撮るあのシーンは、
1930年代に一世を風靡したフレッド・アステアのミュージカル映画を
踏襲している。ジョージ(ジャン・デュジャルダン)の体型やキャラは
ジーン・ケリー似なのを意識してか、ケリー風味も少し加えた振付が心憎い。
マニアの私は、嬉しさのあまり、思わず涙がチョチョ切れてしまった。
(1930年代のアステア)
http://youtu.be/mxPgplMujzQ
(1950年代のケリー)
http://youtu.be/p3YWWfnWBJM
(アーティストのダンス)
http://youtu.be/Z2s9ZlenQm8
当時の役者達はタップを踊れたのを知る人は、今どれくらいいるだろう?
クラーク・ゲープルやジェームズ・キャグニーだって昔は踊っていた。
ボードヴィルから映画界に入ってきた叩き上げの役者が多かったからだ。
(そういえば、デュジャルダンはゲーブルにも少し似ている)
http://youtu.be/Ij22kyvf2ps http://youtu.be/StDpLge_ITM
そうした背景知識も押さえながら鑑賞すると、さらに何倍も楽しめると思う。
アザナヴィシウス監督の天晴な映画オタっぷり、そして彼のイメージを
形にした全スタッフの完璧な仕事ぶりに、私は深く心酔させてもらった。
ありがとう。ありがとう。 本当にありがとう。
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