町内で不幸があった。
ウチと似たような家族構成、夫婦と小学生の子供が3人の5人家族。
近所なんでウチの子供達も小さい頃から一緒によく遊んでいるね。
特に葵さんはそこの男の子にバレンタインチョコレートを渡しに行ってたよな。
お父さんは俺の1コ上、「優しいお父さん」といった感じだったな。
保育園の発表会などは朝の3時や4時に起き、保育園の玄関に並んで会場の場所取り。
いつも最前列ド真ん中でビデオカメラを構えていた。
俺には真似できない正反対のお父さんだったがよく話をしたな・・・・・。
俺の1コ上(40歳)の彼は妻と子供達を遺して逝った。
木曜日に知らせを受けそれを信じるコトができぬまま2人で行ってみた。
ママと2人で歩き、彼の家に行くと近所のヒトが何人か来ていた。
リビングに通され、そこには棺がどんと置かれていた。
棺にはガラスだかアクリル樹脂だかの小窓があり顔を見るコトができた。
眠っているとしか思えぬ雰囲気だが死んでいるのだという・・・・・・。
いろいろと説明されたが「うん、うん。」とうなずくだけで何も頭に入らず、
印象に残ったっつったらリビングの家族写真と子供達が平然と太巻きを食っていたコトくらいか?
耳からの情報はほとんど入らず、目からの情報だけが強烈に焼きついている。
耳に残ってるのは 「自殺」 という言葉だけだ。
自殺ってなんだよ、子供達の成長もコレからじゃねーかよ!!
金曜日 お通夜 俺、ママ、葵さん
土曜日 葬儀 俺、ママ
これでお別れ?
こんなにもあっけないもんかよ?
このあと火葬場で焼かれて骨だけになって・・・・・・・そんで終わり?
なんだそれ?
なんだそれ?
彼が勤めていた会社は漆器の会社だ。
漆器業界。大昔はデタラメに儲かった地元の産業。
ここで言う漆器っつったらアレだ、
旅館や割烹料理なんかで使う黒/朱に塗られたプラスティック製の椀とか盆ね。
最近ではファミレスなんかでも使ってるかな?よく見かけるやろ?
俺は18歳〜34歳までこの業界に身を置いていた。
15年間だな。
そんなんで俺には個人的に各方面から漆器業界の情報が入ってくる。
漆器の会社っつったらだいたい社長とその身内、それから5〜20名の従業員って構成だ。
商品の製造は下請けさん・職人さんに依頼。
従業員の仕事は主に配達や集荷といったトラックでの集配や在庫管理、事務仕事。
人員を削られて行くとそれらを少人数でやるコトとなる。
大昔は儲かった業界だから「頑張ればまたあの時代が戻って来る!」伝説がいまだにある。
夢を見るのはイイコトだが現実は悲惨なものだ。
俺が勤めていた会社は社員が10名くらいだった。
入社から退職までの15年間に社員の自殺が3件あった。そのうち1人は死んだ。
職人さんでは2件の自殺があった。2人とも死んだ。
自殺した職人さんの1人はその数日前、単なる配達員の俺に、
「あんちゃんゴメン、うちパンク(破産)したんや・・・・・。」と泣きながら言った。
職人さんは会社員のように保障されていない、生きるためには仕事の取り合いだ。
その痛みを知る職人同士で仕事を取り合う。
「頑張ったやつだけが生き残るんだ!」
10件の仕事を10軒の職人さんでは分けない。1つでも多く仕事を取る。
さらに当然のコトだが現在は10件の仕事は無い。
イス取りゲーム・・・・・・・・・負けたら死ぬ、10人でイス3つのイス取りゲーム。
イスを作ればいい?
イスの材料さえ奪い合ってんのに?
漆器業界はそんな感じだ。
だが地元で働こうと思うと漆器業界も候補に上がる。
通勤の便がよい、確実に日勤である、運がよければアットホームで勤めやすい会社もある。
ってトコロか・・・・・。
っつーか仕事選ぶほど無いよね。
せっかくの通常勤務(漆器業界は日勤のみ)家族そろって晩御飯を食べたい。ゆっくりしたい。
彼は皆が残業する中、自分だけが帰るコトに罪悪感を感じていたのだという。
子供が3人なら学校や保育園イベントもたっぷり。
彼は皆が休日出勤する中、出社しないコトに罪悪感を感じていたのだという。
そしてついに体調を崩し、最低2ヶ月間の入院・療養を宣告された。
これからの忙しい時期に自分が仕事を離れる、さらに皆に迷惑を掛けるコトになる・・・・・・。
そのとき彼は強烈に落ち込んでいたという。
罪悪感にさいなまれるコトなど無い!!
「8時間労働」「週休二日」は労働者が諦めずに闘い、勝ち取った権利だ!!
痛めつけられ裏切られ迫害され、苦しい闘いの末 勝ち取った権利だ。
罪悪感と言うなら残業してしまったコト、休日出勤してしまったコトに対して罪悪感を感じるべき。
先人が命懸けで守り続けた労働者の数少ない権利だぞ!!
社内でそのような雰囲気はあったかも知れぬが我々は残業も休日出勤も強要していない。
彼は勝手に悩んで川に身を投じたのだ!!
と、会社側は言うに決まっている。
わかるやろ?最終的に会社っつーのはそんなトコロさ。
弱い人間から、貧乏人から、末端から殺されてゆく。
もう誰も殺されてはいけない。
信じ難いコトだろうが簡単に言うと会社側は利益のために社員を殺そうとしている。
ちょっと極端だがね。
だから闘う必要があるんだよ。
悲しむのイヤだから闘うんだよ。
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