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2011年11月12日00:40

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勝手に小説:第2話『志願者』 第五章:真実.6

第五章.5
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※今回は長いです・・・。

                        ▽

それからどれくらい時が経ったか。ふと、木下は後ろに空気の乱れと気配を感じた。
振り向いてみると、そこにはいつの間にかオールバックに眼鏡の小柄な中年男を先頭にスーツ姿の男、5人組が立っている。
雰囲気からして一般人でないことは分かる。いや、いつもは一般人と大して変わらないのだろうが、これは自分を目の前にしているからか?

伊丹「お邪魔してます」

嫌味なくにこりと微笑む眼鏡の男の後ろから、強面の長身の男がにやりと声を上げた。
その威圧的な様相に、木下を囲んでいる連中も声を上げられずにいた。

右京「初めまして。木下雅史さん。いえ、元のお名前は吉原孝一(よしはら・こういち)さんでよろしいですね」

木下「はあ?吉原孝一って誰でしょう?」

尊「あれえ?あんまり別の人間の名前を使いすぎて、自分の本当の名前忘れちゃいましたか?」

物腰柔らかく名前を呼ぶ中年男の隣で、この集団の中では若いノーネクタイに濃い色のシャツの男が、その言葉とは裏腹の笑顔を見せる。
色白で端正な面立ちのために、自分がしかめっ面をしても大して恐くならない事を知っているようだ。普通であれば滅多にやることのないその行為が、やけに様になっている。
こうした連中は極道か若しくはあいつらしかいない。

右京「警察です」

眼鏡中年男の声に合わせるように、集団は一斉に警察手帳を提示する。
一斉にこれをやられると、なかなか凄みがある。

木下「おや?警察の方がこんな集団でどのような御用でしょう?ここは私有地ですよ。無断で入ったら不法侵入になることくらい当然ご存知でしょう」

伊丹「大丈夫ですよ。こっちにはちゃんと逮捕状がありますんで」

と、言いながら伊丹は木下雅史。本名吉原孝一に向けられた殺人教唆の逮捕状を提示する。
もちろん木下には彼らが逮捕状を取れるまでの証拠を掴んでいた事まで知る由もない。途端に秘書の日山への恨みがめらめらと湧き上がった。
しかし、そのままではとても威圧にはならなそうな尊が、腕を組みながら威圧的に木下に挑発する。

尊「あ!吉原さん。もしかして秘書の人の事恨んでます?酷いなあ。ここまで逃げてきたの、彼の車でしょう?それに、手を汚す仕事は全部彼名義じゃない。もういない人間だからそう言う事をしてきたんでしょう?」

その言葉に、平静を装っていた木下の仮面が剥がれた。見た目で威嚇できない代わり、この男は確実なウイークポイントを突いてくるのだろう。

木下「どうしてそれを・・・」

尊「杉下さん、やっぱりそうみたいです」

右京「そうですか。つまり彼らはコードネームではなく、その名前になる予定の人間と言う事だったんですねえ〜」

『もう逃げられない』
先頭に立つ二人の会話を聞きながら、木下は瞬間的に悟った。
見ると、長身の横にいたカラーシャツの男と同年代ほどの男が何処かへ電話をかけている。
「こちら捜査一課の芹沢です。吉原孝一の証言から、緒川氏の証言どおり埼玉県朝●市の車両不法投棄現場に遺体が遺棄されている可能性があるのですが・・・」

「ちょ!!待てよ。こらあ!!!!」

ベタなセリフであるが芹沢のかける電話の内容に、木下を囲んでいた一人が怒号を上げる。威嚇のつもりなのだろう。
そして誰かが、怒号を上げた男を後ろからどんと突いた。
当然男はよろけるが、それを合図にしたかのように、一斉に木下を囲んでいた男たちは特命係と捜一トリオ目掛けて襲い掛かってきた。

「今のうちに逃げてください!!」

当然そう言った作戦なのだろう。誰かが木下を逃がすよう促す。
どちらにしろ実行犯は彼らなのだから、捕まるのであれば自分は殺人関係ではない。

伊丹「逃がすかよ!」

逃げようとする木下の襟元めがけ伊丹が手を伸ばすが、一人がタックルのように伊丹の懐の中に入り込み、ぎゅっと押さえつけられる。が、それは三浦によって引き剥がされた。
そしてその声を聞き付けた応援の警官が駆けつけるが、木下はその間をすり抜けるように道路の方向へとダッシュする。

右京「神戸君!君は吉原を!」

襲いかかる数人を背負い投げで投げ飛ばしたところで、尊は右京の言葉に従う。

尊「はい!」

木下は走り慣れていない。特にこのような何年も放置されているような場所では、全力で走っているつもりでも何度か躓きそうになる。
現職刑事と競争では、到底勝てるはずがない。が、木下は目に見える先にちょうど良いターゲットを見つける。
松田亜弥加だ。

『まずい!』
木下が彼女を人質のターゲットにしようとしているのは見え見えであった。
しかし、応援の警官や刑事は何人も来ている。自暴自棄になるのを避けるため、近くにいるのは今のところ少人数なだけだ。つまり後から後から警官隊は到着する。逃げようにも逃げられるはずもない。

尊「そいつ!木下雅史!捕まえて!」

尊はちょうど前にいる警官に向かって叫んだ。

警官「あ!はい!!」

本部警部補の叫びに警官は思わずびくりと身を固めると、揺らつくように走る木下に向きを直す。
外で待っていた亜弥加にはちょうど木下は車の陰になっており、確認することが出来ないが、あろうことか何が起きたのか確認しようとしたのか、車の陰から出てきてしまった。

尊「松田さん!避けて!」

しかし木下はそれよりも早く前方に回り込むように亜弥加の腕を掴んでいた。

亜弥加「きゃ!」

突然伸びてきた手に腕を捕まれ、亜弥加は当然のことながら悲鳴を上げた。

木下「何だよ。こんな嬢ちゃんまでいたのかよ」

肩で息をしながら木下は苦々しく亜弥加を睨みつけると、彼女の腕をつかんだまま、更に逃走しようとする。
亜弥加は腕を振りほどこうとぶんぶんと腕を揺らすが、ほどけるはずもない。しかしこうなった場合の護身術は彼女も心得ている。
引っ張られた腕に握られた手の親指をもう片方の手で剥がすように反対側にねじると、面白いように手の力が抜けてしまい、その勢いで木下はつんのめって前に倒れた。
が、尊と警官が確保しようと思った瞬間、木下は懐から護身用にいつも持っていたのか、キャンプ用の小型ナイフを取り出していた。

伊達に今まで捕まることがなかっただけはある。木下の往生際の悪さはぴか一である。
まるでイノシシのように背中を丸め、ナイフを立てながら今にも飛びかかるような姿勢で息を上げているため、亜弥加も尊も身動きが取れない。

木下「んのアマあ!」

しかも攻撃対象はあくまで亜弥加であった。
まあ、この手の連中が好んで自分よりも強い相手に攻撃を仕掛けるとも思えない。

右京「神戸君!松田さん!!」

伊丹「警部補殿!」

その時、木下の視線の先から声が上がる。そしてそれに反応したのか、彼に一瞬隙が出来た。
その隙を見計らい、尊は亜弥加の腕を取り引き寄せると、その力を利用して飛び掛ってきた木下に回し蹴りを食らわせる。
さすがにこれには敵わないと判断したか、木下は地面に倒れこんだままナイフを手から離すと、あっという間に応援の警官に取り押さえられた。

尊「大丈夫?」

亜弥加の目の前にはシャツの色のせいか一層色白に見える肌と、鎖骨があった。そしてその主の視線と自分に向けられた声に、亜弥加は両肩を手で支えられて抱き寄せられていることに気づく。
細くて白いために気づかなかったが、その手は実はかなり大きくてがっしりしていた。
尊は決して長身ではないが、その身長差以外に彼女は改めて自分の存在の小ささに気づかされる。

亜弥加「大丈夫です・・・。ありがとうございます」

油断して犯人に捕まるなんて、なんて恥ずかしい事・・・。
亜弥加は俯いたまま尊から身を離すが、彼の顔を直視することが出来なかった。

右京「松田さん、大丈夫ですか?」

そして横にはいつの間にか右京の姿があった。

亜弥加「すみません・・・」

右京「いいえ、捕まったとしてもそのまま人質にならなかったのは立派な事ですよ」

うなだれる亜弥加に、右京はそうにこりと微笑みながら返した。
そして、右京と尊は亜弥加を後ろにいる警官に預けると、警官に確保された木下を睨む。
その視線の中には右京と同時に追いついた伊丹他、その後に追い付いた三浦と芹沢のものもあった。
しかし木下は逆に汚い笑い顔を見せている。

伊丹「てめえ、何がおかしい!!」

木下「おかしいですよ」

そう言って木下こと吉原はしたり顔を見せる。

木下「私を捕まえたところで何になりますか?」

伊丹「なに?」

木下「だってそうでしょう?私が殺したのは一人じゃないんですよ」

その言葉に周囲は凍りつく、そして伊丹もこれには反論出来ずにいる。

木下「公僕と言うものは辛い生き物ですね。その人のためと捜査していた者から中止の命令が下れば、それはもうそこで終わりなんですから。例えそれが殺人でも。
私は言いますよ。今まで誰と誰を殺しましたと。そして遺族が勝手に自殺にしてくれたおかげで、捜査されなかった事もね。裁判の場所で堂々と。
どうです。それでも私を捕まえますか。捕まえたらせっかく自殺したと理由付けて忘れようとしている遺族を、今以上に傷つける事になりますよ?それで良いんですか?」

『絶対に捕まらない』
木下が豪語していた理由はこれだった。逆に遺族から罵られる方がまだ良いと言う現実。
押し黙った空気の中、木下が「はは」と、声をあげた。

そしてその声は次第に高笑いへと変わっていく。
「ははははははははは!!」
笑いすぎて息が出来ずに、悶えるような木下を、この声が間に入る。

右京「木下さん、いえ、吉原さん。何もおかしな事などありません」

木下「何だよ。おかしくないだと?あんたおかしな事言うな?オレが捕まらなければ、誰も傷つかない事はあんただって分かっているだろ」

勝利宣言を遮った小柄な刑事に、木下は苛立ちをあらわにする。

右京「あなたは自ら手を汚すことなく犯した殺人が、思いの外上手くいったとお考えのようですね」

木下「お考えじゃなくて“上手く行って”んだろ。よくある警察のミスじゃなくて、殺された方が自殺にしてくれって言っているんだからさ」

この言葉に尊は瞳に炎を宿し、ギリッと奥歯を噛んだ。
『罪を犯したからそれを苦にして自殺に追い込まれた。』
捜査中止を申し出た遺族は、皆そう思っている。死してなお彼らは身近な人間にさえその死を汚されているのだ。

尊「卑怯者・・・」

右京「神戸君」

尊の静かな呟きに、右京は彼のリミッターが外れるまさにギリギリであることを感じとる。

木下「何だよお兄さん。ビジネスってもんはそんなもんだろ。使われる側に立った時、それは敗北を意味するんだ。そう言う意味ではあんたらは大敗北だな」

尊「だったら、殺人もあんたにとってはビジネスの一つの手段なのか」

木下「あれぇ〜?お兄さん、こんな仕事してるのにこんな事も分からなかったのかい?」

木下の挑発に尊は思わず足を一歩踏み出した。が、それは右京が前に出た事によって止められる。
今の言葉にキレたのは尊だけではないのだ。

右京「ええ、あなたのような人を、我々は何人も見てきました。しかしあなたはその彼らと同様勘違いをしています」

木下「勘違い?」

右京「あなたは、利用する側の人間と思いこんでいる。と言う事ですよ」

静かなその言葉に、尊は自分の体を抑えている右京の腕が震えている事に気づく。
『ああ、キレさせてしまった』
こうなると御愁傷様としか言いようがない。

木下「勘違い?は!実際オレは直接殺人には手を下していないし、現に金を受け取ったのはあいつらだ。その金だって他のやつらに運ばせている。
要はオレは割りの良い仕事を提供してやっているだけだろ?それもビジネスなんだよ。
多かれ少なかれ、人間ってもんは罪を犯しながら生きている。殺人がダメならなんであんたらは動物や魚を殺して生きているんだ?それと全く変わらないんだよ」

『ちっ、マジでこんなのをゲロっちまう奴がいるんだな』
尊は小さく柄にも無い悪態をつく。
それは少し前に散々御用評論家なる連中がテレビの中で吐き散らしていた、糞みたいな理屈だ。
実際は自分の手を汚すことも出来もしないのに、ただその反抗期のような反社会性を吐き散らすだけで、ただただ世間の反応を見るだけのチキン野郎。
しかしこいつは実際にやってしまっている。取り調べる前に手の内まで明かして。

右京「本当にそうお思いですか?」

木下「ええ」

右京「でしたら、あなたもその殺される覚悟がおありと言うことでしょう」

木下「は?言ってるだろ。オレは使う方の人間だってな」

右京「ええ、しかし今お金に使われているのは、あなたの方ではありませんかねぇ」

木下「なに?」

右京「お金さえ無くなれば、あなたもそのターゲットとなると言うことですよ。実際、あなたの会社が今どうなっているか、当然ご存じのはずですよね?」

右京の言葉に木下は青ざめる。そうだ全部バレているから自分は今こうして確保されているのだ。と。
しかも罪としては軽いが、世間的にダメージの大きい罪で。

右京「世の中には同じ事を考える人間はいるでしょうねぇ〜。誰かにお金を積まれて、罪の意識から自殺したように殺されないだけ、あなたは幸せではないかと」

そうだ、こんな山の中に逃げた時点で、自分は既に利用される側の人間に成り下がっていたのである。
木下の頭は途端に混乱しはじめる。
「連れていけ」と、伊丹が指示する頃には、木下は全身の力が抜けていた。
そして右京と尊たちを襲った“実行犯”たちも、次々とパトカーに乗せされていく。

                           クローバー

亜弥加「こんな世界なんですね・・・犯罪の世界って」

パトカーに詰め込まれるように乗せられる犯人たちを見ながら、亜弥加は小さく呟いた。
これから警視庁内はどの部署も、蜂の巣を突ついたような騒ぎになることには違いない。犯罪の規模が大きすぎるのだ。
そして彼女は木下の先ほどの言葉を思い出した。

亜弥加「さっきの、自殺として遺族側が申し出たけど犯人側が殺人として証言したら、その遺族はどうなるんですか?」

その言葉に尊はこう答える。

尊「その前に説得して再捜査を申し出させてもらうか、そのまま揉み消されるかのどちらかだけど・・・」

そして尊は口をつむいだ後、ちらりと右京を見ながら心の中でつぶやいた。
『揉み消すはずないよね。』

              ▽             ▽

第六章.1に続く
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