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2011年11月10日16:09

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勝手に小説:第2話『志願者』 第五章:真実.3

第五章.2
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              ▽        ▽

そして右京と尊は木下雅史の会社へと向かい、いつもの通り図々しく社長室へと乗り込む。

右京「お約束通り、今日は二人で参りました」

尊「どうも。神戸です〜」

いつもは真面目顔の尊も、ここまで真っ黒黒の人物の前と言うことで、営業風の愛想笑いで右京がこの前会ったと言う、“日山”と名乗った目の前の若い秘書に挨拶する。
当然黒ぶち眼鏡の秘書は半ば口元を引きつらせながら、今日は二人に増えた刑事を苦々しく見ている。
確かに前に来た刑事より10歳以上年下であろう、部下だと言う男は警察手帳を見せながら綺麗に笑うものだから、拍子抜けしてしまう。

秘書「で、今日はお二人で何のご用でしょう?」

刑事としては妙に優雅な異色な雰囲気の小柄で眼鏡の刑事の部下だと言う男は、これまた優雅な感じの異色な雰囲気の男である。
何なんだこいつら。と、思いながら言葉を返すと、部下の男は堰を切ったかのようにペラペラと喋り始めた。

尊「違う事件を調べていたら、この会社の木下さんと同じ名前の別人が持っていた土地を、お宅の社長さんが改名していくつも持っている事が分かりました」

秘書「それは特に問題のあることではないのでは?」

尊「日山さん話を最後まで聞いてくださいよ。その木下さん、その土地名義を利用して、また別に名前をいくつも持っていたようなんですよ。それってどう思われます〜?」

と、部下の男は白い手をまるで店の主人のように前に出して手揉みを始めるのだ。

秘書「何かあなたの上司と同じく妙に回りくどい言い方をしますね。あなたも。まるで社長が殺人にでも関わっているかのような物言いじゃないですか」

尊「あれ?木下さんは現在社長さんではおられないとお聞きしていましたが。ひょっとして、別の木下さんですか?」

と、言葉尻を捉えて途端に切れ長の目が丸く変わる。

秘書「もーー!それってただの揚げ足じゃないですか」

そうして相手の調子を狂わせるのが得意な尊に、すっかりペースを嵌められ、若い秘書は悲鳴のような声を上げた。
そして、喋りの一切を部下に任せた上司は、いつの間にか社長の席に移動しており、机の上に置いてあったものを熱心に見ては声を発する。

右京「おやおや、これは何でしょう?似てますねぇ〜」

そう言って右京は手に持った写真と、机の上にあった何かを熱心に見比べるのだった。

秘書「似ているって何ですか!!」

明らかに肝を冷やしたような、唇が震えているような声を上げる若い秘書に、右京はにっこりと笑みを向ける。
見ていたのは写真立てに飾られていた、エキゾチック・ランドの見える。ちょうど亜弥加が隠し撮りをされたと思われる窓の写り込んだ木下の写真であった。

右京「この写真に写っている窓からの風景。僕が今持っている写真の場所から見える風景とそっくりなんですよ」

秘書「そんなの、うちは様々な不動産も持っているのはご存知でしょう。うちの会社に関係する写真なら、どれかが被っていても当然です」

右京「では、エキゾチック・ランド以外に、その周辺にもこちらの会社が持っている不動産は存在する。と」

秘書「ええ」

右京「では、このような写真であっても?」

そう言って右京がくるりと見せた写真に、日山はぞわぞわと鳥肌を立たせた。

尊「そしてあなたも、木下さんの一人なんでしょ?その眼鏡」

そして壁に掛けられた写真のひとつを指差す。

秘書「どんな冗談を」

尊「会社の集合写真なのに、毎回場所が変わるっておかしいでしょ、普通に考えても」

秘書「そんなの、その写真も含めて、ただ似ているだけかもしれないじゃないか」

と、今度は秘書は尊と右京を交互に指差す。

尊「日山さん、僕たち刑事って張り込みばかりするんですよ。撮ったアングルが違っても、眼鏡くらいで変装したつもりでも、分かるもんなんです」

右京「神戸君、言いすぎですよ。写っている場所が違う場所であるのなら謝ります。その代わり、そうでないと証明するために僕たちにこの写真をお貸しいただけませんか」

秘書「どうぞ・・・」

右京「ありがとうございます」

そうして右京はひとつ丁寧にお辞儀をすると、写真立てを持って日山横を通り過ぎると、「神戸君、行きましょうか」と声をかけドアノブに手をかけた。
日山は既に生きた心地がしない。「早く帰れ、早く帰れ」と、呪文のように頭の中で唱えている。

そしてドアの向こうに二人が消えた瞬間、彼は本棚へダッシュし、何かを操作しはじめる。
が、本棚がガチャリと音を立てたと同時に、そこでまた部屋の扉がガチャリと開いた。

右京「ああ、肝心な事を忘れていました」

と、人差し指を立てながら、ひょっこりと顔を覗かせる。

秘書「ひ!!」

右京「おやおや、どうかされました?」

と、思わず悲鳴のような声を上げる日山につかつかと歩み寄ると、「失礼」と本棚にかけていた手を掴んだ。

右京「未だにこうしたものがあったのですねぇ〜」

尊「え?何がですか?」

日山の腕をつかみながら、右京は感心の声を上げる。
するとその声に反応するようにいつの間にか白手袋をつけ、写真立てを手にする尊がひょっこりと横から顔を出した。

右京「捜査二課に居た頃、談合や脱税、所得隠しや闇カルテルを結ぶ際、このような隠し部屋で行われたものなのですよ」

尊「ああ、なるほど」

右京「しかし本棚とは古典的ですねぇ〜。船箪笥や寄木細工であれば、違う意味で感心するものなのですが」

と、ちくりと嫌味も忘れない。
「あと、こちらも鑑識に調べてもらいましょう。殺人に関しては社長が関与している事を認めてしまいましたからねえ」と、一言加えると、右京は掴んでいた日山の腕を尊に預けると、彼の「了解」と言う声を聞き、そのまま本棚の扉を開いた。

音も無く開いたその本棚の裏には、もう一つ扉がつけられている。そのドアノブに手をかけたところで、右京の携帯が鳴った。
電話の相手は伊丹ではなく芹沢であった。

芹沢『ああ、杉下警部。芹沢です』

右京「芹沢君、何か分かりましたか?」

芹沢『ええ、松田さんが薬物売買に関わっているように盗撮された場所。やっぱりそうでした。
さっき所有の確認が取れたという連絡が入りました。しかもまた名前が変わっているんです』

右京「それはひょっとして、日山と言う名前ではありませんか?」

芹沢『え?!!何で分かるんですか?』

右京「いえ、何となくです」

と、その裏で『と、言う訳だ。さっさと吐いちまいなよ。どうせ携帯からの発信先からも実行犯は特定できてるんだからよ。あんたの飼い主の音声照会も。楽しみにしている事だな』と、言う伊丹のダミ声が聞こえる。

捜一トリオはここに来る前に右京が盗撮場所の特定と“出し子”ではなく、木下の金の運び屋であることがほぼ確定した赤坂の聴取を指示していた。
そして『はいはい。まさか本当にばれちゃうなんてね。でもさ、あの神戸ってデカ、一つ思い違いしていたな。捨て駒にされてんのは、オレじゃなくて緒川の方だったって訳だ』と言う赤坂の声も聞こえる。

右京「神戸君、被疑者が君の悪口も言っていますよ」

尊「いいです。そんなの伝えてくれなくても」

と、右京のおせっかいな言葉に、尊は日山を押さえている反対の手を写真立てを持ったまま小さく挙手をして応える。
そしてもぞもぞと動く日山を更にきつく押さえつけ、その隙に右京にドアを開けさせる。

が、そこには木下はいなかった。
これぞ古典的秘密部屋の様相の8畳ほどの想像していたよりも広い部屋は、これは鑑識作業しようがある。と、思うほどに書類やら棚に置かれていたであろう物が散乱している。

右京「やはり電話がありますねぇ〜。パソコンも」

尊「やっぱり秘密部屋ですか」

右京「秘密部屋です。おやおや、これは興味深いものがたくさんありますねぇ」

と、右京は散乱した書類を見ながら尊の言葉に嬉しそうに頷いている。
パソコンも、電話も、調べれば所在の見当がつくのも時間の問題だろう。
やはり本物の木下も、警察がここまで行き着くとは考えていなかったのだろう。事実、よくある死亡者を利用した戸籍詐欺ではなく、事実上は未だ存在している個人であるのだから、何も無ければ本人が現れない限りはばれる事は無い。

右京「神戸君、鑑識を」

尊「はーーーーい」

と、尊は写真立てを応接テーブルに置くと、片手でスマートフォンを操り始める。
しかしその様子をじっと日山は睨み付けるように視線を向けている。
片腕はふさがったが、まだ片腕と足は残っているのだ。
自分たちのやった事は、実は殺人教唆や死体遺棄よりも重く、公務執行妨害がついたところでどうこうなるものではない。電話の間はその様子を録音なりされる事になるから、この男が電話を切るまで待った。

尊「じゃあ、お願いします」

と、尊が電話を切ったところで日山はかかとで弁慶の泣き所を打つべく、すっと足を上げようとするが、狙いの脚でその脚を絡みとられることになる。

尊「杉下さん、どうしましょうこの人」

いたたた!と、騒ぐので更に後ろ手に腕がねじられる事になる日山を、尊は呆れたようにため息を吐いた。

右京「とりあえず応援が来るまでそのまま見張っておけばよいでしょう。襲ってきたところでそちらには勝ち目はありませんし」

尊「そうですね」

と、素直に返事をすると尊は日山の腕を放し、よろけそうになるのを支えた。
確かに、実力行使をしてこなかった自分にはこの2人には勝ちそうに無い。しかし、ここにはまだ誰かが居るはず。と、今度は机の上の電話機に目を向けるが、当然それも白手袋で受話器を押さえられている。

認めたくない。認めたくない・・・が・・・。
そしてプツンと何かが切れたように、日山はその場に座り込んだ。

              ▽        ▽

第五章.4に続く
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