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2011年11月05日18:13

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勝手に小説:第2話『志願者』 第五章:真実.1

第4章.3
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【第5章 真実】

           ▽        ▽

亜弥加「神戸警部補、コーヒーあたしが淹れておきます」

尊「え?!」

次の朝、亜弥加のその言葉に、角田のコーヒーを用意しようとした尊と、朝の一杯を楽しんでいた右京はぽかんとした表情のまま互いに顔を見合わせた。

亜弥加「あと、預かりものの椿ですが、育て方プリントアウトしてもらいました」

と、デスクに置かれた洋紙の束をぺらぺらとめくる。
しかし昨日一体何があって彼女をここまでにさせたのか、皆目見当がつかない。
思い当たるとすれば、右京が最初から何となく感づいていたからか珍しく『お手柄です』を連発しているのと、亜弥加の特命行きの本当の理由が分かったと言う程度であろうか?

右京「君、あれから何かしましたか?」

さすがの右京も、いわば亜弥加の特命行きのきっかけを作った事になる尊の耳元で、しかし大変失礼な事をぼそりと呟く。

尊「何かって何ですか。人聞きの悪い」

当然ながら尊もそれに対して良く思うはずがない。小さく挙手をして小声で返す。

亜弥加「あと、杉下警部に神戸警部補、昨日まで捜査に足を引っ張って申し訳ありませんでした」

右京、尊「?!!」

これはいない間に何があったのか、二人はただただ呆然とするさなか、現実に戻すかのように右京のデスクの電話が鳴った。
受話器を取ろうとした尊の手をすり抜けるかのように、これもすかさず亜弥加が取る。

亜弥加「はい、特命係です」

電話の相手は米沢だった。

亜弥加「鑑識課の米沢さんからです」

当然ながら米沢は聞き慣れない女性の声に戸惑いながら『ああ、新しく入った方ですな』と電話を変わった右京に付け加えた。
用件は木下雅史が関わる、『自殺として処理された件』と、今回の件の遺体の状況、恐らく銀行口座は使われないであろうから、赤坂が持っていた携帯電話の着送信履歴の解析結果であった。
右京が米沢に水没携帯の指紋を内部まで調べるついでに伝えたのは、銀行の監視カメラには犯行グループは写ってはいないだろう。と、言う事だった。

右京「神戸君」

尊「はい」

電話に応えた後、右京はふとしたように尊の名を呼んだ。

右京「君は松田さんの教育係でしたね」

尊「あ、はい」

右京「これから僕と君は鑑識課に行ってから、事件の捜査を続ける事になりますが、松田さんをどうするかは君の判断に任せます」

そうだった、すっかり重大な事を忘れていた。
今まで結局彼女の待遇は右京の判断を待っていたが、教育係を任されていたのは自分だった。

尊「松田さん、君はどうするの?そう言えば交通事故も扱っているから、死体は大丈夫だっけ」

亜弥加「え、あたしは・・・」

尊からの言葉に亜弥加は眉をひそめた。頭では分かっていても、勝手が違うことはここ数日で彼女も痛いほど感じている。

尊「あの場所で捜査一課が出てきたように、僕たちが捜査する事件は勝手な事が多いけど殺人事件も多いし、組対5課の奥にあるから5課の手伝いもよくある。杉下さんは偏屈だし、閑職だけど、結局は生半可な気持ちでは務まらない場所なんだよ」

まあ無実が確定すれば、彼女は元に戻されるだろう。しかし、それまでは彼女は特命係なのだ。
尊の言葉に亜弥加はきゅっと唇を結ぶと、一息入れて吐き出す。

亜弥加「私、どんな事件に巻き込まれていたか知りたいです。連れて行ってください」

その言葉に、堅い表情をしていた尊の顔がふっと緩んだ。そして紅茶を一杯口にする右京を見る。
右京もそれに目を細めた。

尊「いいですよね?杉下さん」

右京「ええ、構いませんよ。そして君、偏屈は余計です」

                 クローバー

米沢「おや、そちら神戸警部補と鑑識作業をご覧になっていた」

鑑識課にて、入ってきた亜弥加を見た米沢はそう言って目を細める。この職場は『愛らしい』というだけで得になる。

米沢「どれも司法解剖するまでもない見事なまでの転落死。日下晃介さんと同じく遺体からは別の人物の指紋も検出されず、靴は脱がされていますね。そして屋上に複数の人物の下足痕」

そう言って鑑識課にある捜査資料と、尊の持ってきた資料をつきあわせる。

米沢「あ!松田さんもご覧になりますか?死体写真になりますが・・・。あ!ダメなのは、むしろ神戸警部補の方でしたな」

と、ちらりと尊を見る。

尊「一言余計です。で、携帯電話の方は・・・」

米沢「ええ、ありましたよ。4つに共通するアドレスがいくつか。そしてそれによって、驚くべき事が・・・」

そう言って米沢は、右京と尊に4つの事件の時系列に着信遍歴をプリントアウトしたものを見せる。

米沢「死体と現場の状況から推測するに、特定のメールアドレスからの指示で、初めに殺害された人以外、現場に居合わせた可能性があります」

尊「え?!」

米沢「いや厳密に言いますと、屋上にあった下足痕の中には日下さんの事件当時履いていた靴の痕はないと言う報告なのですが、送られてきたメールの文面を見ますとそのような解釈も出来る。と言う事を耳に入れておいた方が良いと思いまして・・・。
どうやら今回の現場のように、屋上に至る途中から下足痕は調べなかったようですから・・・」

尊「ん?でもこの携帯は一人が持っていた訳ではないんでしょう?」

米沢「ええ、仰るとおり。ですからここにある証拠品全ての指紋を照合してみました。そうすると、携帯以外にも日下さんの持ち物に何故か彼以外の指紋があり、その指紋は犯行グループと考えられる者に当てはまります」

そう言って、米沢は検出された指紋をパソコン上にずらずらと並べる。

右京「この中で、前科者のデータベースにあるものはありますか?」

米沢「ええ、参考人のものと合わせていくつかありました。組対部の方ですな」

尊「じゃあ、完全にこいつらが関わっているって事じゃないですか。何で令状取れないんですか?」

尊はデータベースに写し出された男の写真を見ながら呟く。が、米沢は首を横に振り、右京はポーカーフェイスのまま尊を見ている。

米沢「神戸警部補なら察しがつくでしょう。これを持っていた、土地の権利者が何者か。今はこの連中は木下雅史の会社の傘下の会社にあり、事実上部下のような存在。と、先ほど一課から連絡がありました」

尊「そんな・・・。じゃあ、この会社が全て管理していた。と、言う言い訳が出来てしまうって事ですか?そしてこいつらは出向してきただけだと・・・」

米沢「ええ、しかも相手は有名企業ですからな。それなりにこちらにかかる圧力もあるんですよ。若しくは、こいつらだけを自首させる手を使ってくるかもしれませんな」

しかし米沢や右京には尊が抱いているような不安は感じられない。むしろ口許にわずかに笑みを浮かべているようにも思える。
確かに悪いやつほど臆病なもので、これまで暴いてきた事実も結局は木下雅史の自己防衛を暴いたようなものだ。

尊「ん??もしかして、木下がこの殺人に加担していた証拠でもあるんですか?」

不安げな尊をよそに、右京は画面上に写し出された、前科者リストにもデータベースにも、参考人からのものにもない一つの指紋を指差した。

右京「この指紋だけが、おかしなところから検出されましてね」

言っている意図がよく分からない。
もしこの持ち主の指紋なら、縦横無尽に採取されるのは当たり前の事である。

右京「どこにこの指紋があったと思いますか?」

尊「そんな事僕に言われても・・・」

尊の困ったような表情を面白そうに眺めながら、右京はすっと見覚えのある封筒を取り出す。
こんな時に、そんな勿体ぶらずとも良いだろうに。

右京「ここから指紋が検出されました」

尊「って、これって日下さんのところから持ってきたものじゃないですか。それにすぐに返さないといけませんし。ご両親のものなんじゃないですか?」

米沢「いえ、それはあり得ませんな」

そう言ってそれ以前の3つの事件の際に送られた、手紙に残されていた指紋の写真をスキャンし並べる。

米沢「これら全てに同一の指紋が残されているんです。いわゆる重要な演出物ですからな。それなりの責任のある人間に任せた可能性が高い。と、言う事でしょうなあ・・・」

その言葉に尊はこの事件の一番最初に繋がることに気づく。推薦状の事だ。
中身の筆跡は違っても、信憑性をもたせるよう何処かに必ず木下が関わっているはずだからだ。

尊「あ!そうか」

右京「ええ、そう言う事です」

尊「でも確かな物証ではありませんよね?」

右京「神戸君、それを今から取りに行くのではありませんか」

と、右京は再び彼ににこりと微笑む。

もちろんその様子を見ている亜弥加は、その会話に入り込む余地もない。
そこにいる尊は、昨日まで自分に振り回されっぱなしだった亜弥加の知っている神戸尊ではなかった。
『これが刑事の仕事』
普段は遠目から見ているだけのやり取りがまさに目の前で展開され、真実を追う覚悟と言うものが彼女にも形として伝わってきた。

そこへ伊丹と芹沢が大股でどかどかと入って来る。

伊丹「やっぱりここだと思いました。警部補殿の言っていたとおりです」

尊「本当?!」

その声に反応するように、伊丹は彼の手の上に書類を無造作に乗せた。
そこには所々墨の引かれた部分と一緒に、彼らの知る『木下雅史』とは別の名前がいくつか記載されている。そしてそのうちの一枚のにはいくつかの名前の他に、本人以外の名前の部分は大きく罰点がされているだけで、存在しなかった。

尊「何ですこれは」

伊丹「見りゃ分かるでしょ。登記簿と戸籍謄本です」

尊「いや、そうじゃなくて」

伊丹「前もあったでしょ。ネームロンダリング」

               ▽            ▽

第五章.2に続く
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