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2010年08月24日19:04

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夏の夜の夢のかけらの有明月を そのきぬぎぬのしほりとて

久しぶりに車で大阪を訪れたので、
大好きだった古本屋を訪れることに。

天牛書店。

創業は明治だとか云う老舗。

だが、何より感じられるのは
古本屋としての筋のよさ、姿勢。

創業者のモットーは「高く買い、安く売る」との事だが、
確かにそれはそうで、素晴らしい品揃えながら(在庫10万冊!)、
自分が手に取った本で1000円を越える物は一冊も無かった。

モノトーンで美しい店内と、優美な器楽曲、
照明も計算されて配置されていて、従来であれば
気恥ずかしい程のオサレぶりなのだが、
何よりも古本屋としての品の良さ、品揃えが
そういった含羞を消滅させてくれる。

思えば。

中学生になって初めて通った学習塾で
隣り合った子に教えて貰い、古本屋という
存在がある、と知ったのが遠い昔。

その時のショックと感動は激甚だった。

中学生の使えるお金なんて極々僅かで、
本などは高級品。どうしても図書館だよりの
日々だったのに、文庫本が一冊10円から
買える!という歓びは何物にも換え難かった。

自転車で片道一時間掛かった道程も
苦ではなく、暇を見つけてはせっせと通い、
自転車の籠を一杯にして帰ったものだ。

その、中学生の趣味で眺めた感動と、
今回、三十も半ばを越えて趣味嗜好も
大きく変った現在に店内の棚を一棹一棹
眺めて行った感動は。

全く変らなかった。

それが筋の良さ、という事であり、
安定した評価を本好きに得続けている由縁なのだろう。

棚に充溢する『気品』」としか云えない物を
なんと例えたらよいのだろう。

世に古本屋は数々あれど、その『棚』が
芸術ででもあるかのような本屋は、
ほかには知らない。

若き日の折口信夫、武田麟太郎が通いつめ、
「我らが古本大学」と讃えた精神性は、今も全く
変っていないのだ。

とりあえず、『黒死館殺人事件』を査収したのを皮切りに
100円本を10冊ほどピックアップして財政難の
昨今、泣く泣く引き上げたが、出来うるなら。

ここに住たいものだ。

ランプの精かなんかが現われて、
「この店内で一生を過ごしてよい。ただし、一歩も
外界に出る事はまかりならん」なんて
云われても、二つ返事で承諾してしまうだろう。

ここまでの規模でなくていい。

僅かでも、この店に自分の家を近づけるのが、
自分の生涯の夢だ。
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