何かがおかしいと思わんか？

行き着けの飲み屋はいつも独りで行くので、
カウンタに座って呑んでいると。

隣のお兄ちゃんがしきりに五月蠅い。
酒呑んでおだ上げるなんざぁ、自分だって
やるんだから、とやかく言えないし、
云う筋合いではない。

だが、厭でも内容は耳に入る。

どれだけ聴きたくない、と思ってもだ。

声高に最近観たテレヴィのヴァラエティ番組の
話しをしている。

この時点で、絶対に友人になれるタイプの人間では
ない、という事は知れる。

どうやら、スマップの番組で、ハマダなんたらさんが
芸名で活動をしている所を、カトリだかに本名を
暴露されて連呼された、というのが面白いらしい。

そのハマダなんたらさんの事は全く知らんが。

ヴァラエティ番組で観た事を、自分のオモシロさと
勘違いしてまんま喋る馬鹿も嫌いだし、
その内容も吐き気がする。

『スガコ』というのが本名らしい。

で、その語感が古臭くて面白い、という事らしいのだが。

下らない。

一時の話題、としてあっさり通り過ぎれば聞き流して
しまえるのだが、その兄ちゃんは何が面白いのか、
ずっとその話題を連呼している。

だんだん、気持ち悪くなってくる。

「スガコースガコー」

「あははははははｈ」

「スガコースガコー」

「あははははははｈ」

冗談じゃなく、吐き気がしてくる。

狂ってるんじゃないか？

どうしても、黙ってられなくなったので口を挟む。
もう、勘定も済ませてとっとと店を退散する気になっているが、
とりあえず、この話題『だけ』でも止めさせたい。

「スガコってのはどんな字を当てるんだい？
寿賀子なら長寿の祈願だね。菅子なら『菅』で
水辺の草の事であり、夏の季語だ。夏生まれ
なんだろうね。涼やかな良い名前だ」

突然、話しの腰を折られて驚いている兄ちゃん。

「どんな名前でもね、『親の願い』ってのが
掛かってるのさ。もし、人の名前を笑い物にしよう
なんて輩がいるなら、そいつは自分の名前と
自分の親に泥を掛けているんだよ。それなら、俺は
カトリの親とシンゴという名前を軽蔑するね。
その程度の想像力も持ち合わせていない
人間性と、そのような人間に育てた親に、だ」

いや、そういうつもりじゃなくて・・・などともごもごと
弁解するのもうっとおしいので、払いを済ませて
早々に店を出る。

相当感じ悪く出てきてしまったが、仕方ない。

通常なら、何も云わずに出ればいいんだろうが、
どうもいかん。こういう話題は黙ってられん。

ヴァラエティ番組で芸無人が人を笑い者に仕立て上げ、
吊し上げられているから、自分も笑っていいんだ、
という許可を貰ったかのような錯覚に陥る想像力のない
馬鹿が死ぬ程嫌いなんだよ。

なんだ？

「こいつは笑っていい、こういう事は笑っていい」

というGOサインでも貰った気になっているのか？

それから安心したように指差して笑うか？

感性の奴隷だぜ、そいつは？

俺は、馬鹿も嫌いだが、奴隷がこの世で一番嫌いなんだよ。

自主的に首輪に足枷を欲しがるような手合いが、ね。